
準備を怠らず、でも臨機応変に、そしてシンプルに ~利休に学ぶおもてなしの心
[ 気遣いこそ現代最強のサバイバル術である ]
「おもてなし」は「目に見えるもの」と「見えないもの」の両方が必要
先回は、文化の違いから気遣いを考えてきました。
先回の記事:日本は「世界で最も気遣いの訓練ができる地」である
今回は日本人の気遣い「おもてなしの精神」についてご紹介します。
「おもてなし」の文化は、茶湯の精神と関わりがあります。お客様との出会いを一期一会と捉え、一瞬で消え去ってしまう茶会という時間のために、何日もかけて万全の準備でお出迎えする姿勢こそ、茶湯の精神です。
「おもてなし」の「お」は、丁寧さや敬意を表す言葉。「もてなし」は漢字で「持って成し」と書きます。「モノを持って成し遂げる」が語源で、お客様にどのように対応するかを示すのです。
語源の「モノ」は目に見えるものと、目に見えないものの2つが含まれます。例えば、お茶をいれるという目に見える行動に加え、相手を思いやって温度を調整するという目に見えない心がセットになってこそ、「おもてなし」が成立するのです。
口にしていない本音は、案外伝わってしまいます。
心理学でいえば、
・目に見えるもの=意識に由来するもの=言葉や思考
・目に見えないもの=無意識に由来するもの=身体的な感覚
となります。
意識や言葉でどれだけ、「この商品は素晴らしいですよ!」とお客様に勧めたとしても、自分の無意識なり心の中で「こんなロクでもない商品だけど、だましてでも売るぞ」と思っていたら、無意識のメッセージのほうが相手に伝わってしまうものなのです。
というのも潜在意識の世界は、案外ガラス張りとなっているから。自分が思ったことが相手の深い部分に伝わってしまいます。

実は「おもてなし」には、「裏表なく、真心を込めてお客様を迎える」という意味もあります。心理学も同じです。お世辞は相手に響かないのです。自分が本当に素晴らしいと思った相手の長所を心から褒めるからこそ、相手に伝わるのです。
わび茶(茶の湯の一様式)を完成させた千利休がまとめた茶道の基が「利休七則」。日本のおもてなしの心を簡潔に表しています。
「利休七則」
一、茶は服のよきように点て
二、炭は湯の沸くように置き
三、花は野にあるように
四、夏は涼しく冬暖かに
五、刻限は早目に
六、降らずとも傘の用意
七、相客に心せよ
一、茶は服のよきように点て
「茶は服のよきように点て」とは、「相手に合わせて臨機応変に」という意味です。
私が昔通っていたクリーニング店は、お客様の服のボタンが取れそうになっていると「ちょっと、簡単に糸でとめておきまね」など、臨機応変にサービスしてくれます。だから、少し料金は高めなのですが、お客様が絶えることがありません。
二、炭は湯の沸くように置き
「炭は湯の沸くように置き」。これは「置き炭は湯の沸くように置き」という意味で、「本質を押さえて準備をすること」。
炭は適当に置くと、火が弱かったり強すぎたりしてお湯がうまく沸きません。おもてなしも本質を押さえて行わなければ、うまくいかないものです。
先日、お茶のお稽古に行くと、普段はお客様に対して手前に水差し、奥に茶釜という並びなのですが、秋になって少し肌寒くなってきたせいか、茶釜が手前のお客さま寄りに置かれていました。
これは、お客さまが少しでも寒くないように、炭の入った茶釜を手前のお客さま側に寄せた気遣いなのです。
三、花は野にあるように
花は野に咲くように、「飾り立てたりしなくても美しい」ということです。何事も余計な装飾は必要なく、自然にシンプルであることが美しいことを意味します。
以下もお茶のお稽古での出来事です。床の間の掛け軸とともに、庭先で摘まれた四季の花が一輪飾られています。このとき、花をアレンジメントして美しく飾り立てるのではなく、野に咲く本来の姿のままに生ける「投げ入れ」という生け方が基本になります。それが奥ゆかしく、いつも素敵だなと感じます。

気遣いも頭で「これをやったら、どう思われるか?」などゴチャゴチャ考えすぎて複雑になってしまうと相手に伝わりません。また、「わたしの気遣いにちゃんと気づいて!」と承認欲求丸出しで行う気遣いも品がありません。直感的に、相手のためにこれをしたいという思いがきたら、シンプルにそれを実践するのがいいのです。
では次回は、「利休七則」の続きをお伝えします。

著書『なぜか好かれる人がやっている100の習慣』(明日香出版社)は4万9千部を超え、現在も重版中。「今、読むべき本」ランキング1位を総ナメにした話題作の続編として、待望の2冊目『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』(明日香出版社)が出版された。この新刊は発売前から重版がかかる等、今、注目のベストセラー作家である。複数ジャンルの心理学をベースとした独自の手法を持ち、婚活から就活、人間関係まで、語れないテーマはないと誇れるほどの活動幅を持つ。企業・大学・公共機関での登壇や個人カウンセリングは予約が取りにくい状況である。
資格・専門分野
国家資格 キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、色彩検定1級カラーセラピストパーソナルカラーアナリスト、米国NLP協会認定NLPマスタープラクティショナー日本交流分析協会認定インストラクター、協会認定骨格診断ファッションアナリスト。藤本梨恵子さんの紹介ページは→こちら
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