オーナーデビュー最初の一歩 ~iDeCoは使いこなすのが案外難しい~

[ 膨大な富裕層から学んだ、新人社員でもできる!意外に知らないお金の話 ]

前回の記事では、 
「オーナーデビューの第一歩としては、『iDeCo』よりも『つみたてNISA』の方がオススメですよ。なぜなら、iDeCoは基本的に60歳からしか受け取れないけど、老後資金はそんなに必要ないかもしれないから」
という内容を解説してきました。

老後資金がそれほど必要ない理由として、 
「iDeCoブームのきっかけになった『老後2,000万円問題』は統計ベースのざっくり計算で、最近は事情が変わってきている」
ということもお伝えしました。

【なぜiDeCoの優先度は低いのか?】ということで、こんなお話もしました。
①老後資金はそんなに必要ない可能性がある 
②iDeCoは平均以上の収入がないと使いこなすのが難しい 
③資金拘束中に税制が改悪されるおそれがある 

※前回の記事:「オーナーデビュー最初の一歩 ~iDeCoって本当に使った方がいいの?~」

前回は①を掘り下げたのですが、
今回は「②iDeCoは平均以上の収入がないと使いこなすのが難しい」について詳しく見ていきましょう。 

目次
・iDeCoはもともと、資金に余裕のある人向けの制度
・所得控除を受けるには当然、所得がないと意味がない
・所得が少ないと「劣化版つみたてNISA」になってしまう
・住宅ローン控除を100%活かしきれないこともある
・「資金繰りのリスク」「短期だと意味がない」という懸念点がある

iDeCoはもともと、資金に余裕のある人向けの制度

具体的な内容に入る前に、まずiDeCoという制度の趣旨を確認します。 

実はiDeCoの趣旨は、 
「老後資金の不安をなくすため」 
ではなく、 
「豊かな老後を送るため」 
とされています。 

厚生労働省の公式サイトにある「iDeCoの概要」でも、 
「公的年金と組み合わせることで、より豊かな老後生活を送るための一助となります。」 
と記載があり、公的年金だけで生活できる人が+αで利用するような扱いです。 
つまり、そもそも公的年金の受給額が多い(収入水準が高い)人がターゲットとされています。


また、iDeCoの活用にあたっては一番の特徴である「所得控除」をどれだけ使いこなせるかがカギになってきますが、これも収入に大きく左右されます。 

iDeCoの「所得控除」とは、iDeCoで使う費用である掛金の一部を、税金から差し引くことができる制度。税金として持ってかれる額の一部を、iDeCoの掛金の一部として使うことができるという意味です。

iDeCoという投資をしながら、節税できるのが大きなメリットとなります。ただし、掛金以上に税金が安くなることはありません。 ここでまず言えることは、掛金が少ない場合は、iDeCoによる節税効果はほとんどないということです。

所得控除を受けるには当然、所得がないと意味がない

所得控除という概念が出てきましたが、理解しやすくするために、税金の計算方法を簡単にみていくことで、理解を深めましょう。
所得税や住民税は、ざっくり次のような流れで計算されています。 

収入-経費=所得 
所得×税率=所得税・住民税 

このままだと「養っている家族が多い人」や「社会保険料をたくさん払っている人(=所得がそこそこある人)」などは負担が大きいので、「課税対象となる所得から、色々と差し引いてもいいよ」とされています。 

これが所得控除というものですが、もっと正確には次の計算となるのです。
(所得所得控除)×税率=所得税や住民税 

ただし所得控除を受けるにしても、そもそも所得がないことには始まりません。所得が0円の場合には、所得控除が10万円あってもマイナス10万円にはならず、税金は戻ってきません。 
所得控除というのは、こういうものなのです。

所得が少ないと「劣化版つみたてNISA」になってしまう

ここで、iDeCoの立ち位置を示す図を出します。


この図からいえることは、所得が少ない場合、課税所得(課税対象となる所得)がそもそも少ないので、iDeCoを始めたところでそんなに課税所得が減らせない、ということです。
また、先ほどの話を踏まえると、所得が少ないとiDeCoの掛金をそんなにかけられない場合も多いので、所得控除に含められるiDeCoの掛金の一部の額は、そんなに多くできません。

つまり所得が少ない場合、iDeCoによる節税の恩恵をそれほど受けられません。
結果としてiDeCoは、資金拘束デメリットばかりが残った「劣化版つみたてNISA状態」になってしまいます。

住宅ローン控除を100%活かしきれないこともある

また、住宅ローン控除を使う予定がある方も注意が必要。 
住宅ローン控除は、毎年のローン残高の一部を所得税・住民税から差し引ける大変おトクな制度。一方で、上限の縛りがあるため次のように使いきれないケースも存在します。 

【前提】 
年収400万円の単身会社員、ローン残高3000万円 
所得税:9万円 + 住民税 18万円 = 27万円 
住宅ローン控除:3000万円 × 0.7% = 21万円 

この場合、税金27万円から住宅ローン控除21万円を差し引いた6万円が納税額になりそうなものですが、住民税には控除上限があるため実際にはこのような計算になります。 

①所得税:9万円 - 9万円 = 0円 
②住民税:18万円 - ※9.75万円 = 8.25万円 
※ 住民税に適用される住宅ローン控除:住宅ローン控除合計額21万円 - 所得税に適用された住宅ローン控除9万円 = 12万円 になりそうだが、上限は9.75万円となっているので、結論は9.75万円 
以上から、
③納税額:①+②=8.25万円 

つまりは、12万円 - 9.75万円 = 2.25万円が、活用されずに終わってしまったのです。

しかも、先の図には続きがあり、住宅ローン控除を含めると次のようになります。


この図から言えることは、iDeCoによって所得控除が増えると、巡りにめぐって「基準となる税額」が少なくなり、住宅ローン控除がフルに使えなくなるということです。

「資金繰りのリスク」「短期だと意味がない」という懸念点がある

以上から、次のような方はiDeCoを使いこなせない可能性が出てきました。
・家事専業の方
・扶養内で働いている方
・住宅ローン控除を使っている方

だとしたら、扶養の範囲を超えて稼いでいて、賃貸暮らし(=住宅ローン控除を使わない)なら問題ないのでしょうか?

しかし、次のような場合にも油断できません。
①奨学金や学生ローンの支払いが残っている
②自分や家族、友人の冠婚葬祭を控えている
③子供の学費が毎年かかる
④介護費用の準備が必要になってきた

①は20代、②は30代、③は40代、④は50代が負担のピークになるかもしれません。
iDeCoは60歳まで払い出しができないため、資金繰りを考えると不安が残ります。


少額から始める方法もありますが、手数料がリターンを上回ってしまうと逆に損する場合も。

いざ落ち着いたころにiDeCoを始めても、「投資期間が短いため、複利の効果を活かしきれない」なんてことも考えられます。

つまり、iDeCoを本当の意味で使いこなすためには「生活スタイルやライフイベントに応じた、多額の必要資金の検討」と「それを補って余りある収入」が必要になります。

前回の記事で、「次のような場合には、将来お金が足りなくなるかもしれない」という話を書きました。   
・もらえる年金が少ない  
・勤め先に退職金がない 
・老後は豊かに暮らしたい 

残念ながら、このすべてをiDeCoで解決することはできません。

むしろ、老後資金に不安がある状態ではiDeCoにお金を回すことすら難しく、下手に手を出すと目の前の生活に支障が出る可能性もあります。

まずはチャレンジしやすい「つみたてNISA」から始める。収入を増やすための自己投資を始める。といった方法から試してみてもいいかもしれません。

次回は【なぜiDeCoの優先度は低いのか?】 の3つ目「資金拘束中に税制が改悪されるおそれがある」について解説していきます。


大手税理士法人の富裕層対応チームで育ったさすらいのマガモ。
Twitterを中心に、家計・副業・投資に役立つお金の知識を発信中。
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