
オーナーデビュー最初の一歩 ~iDeCoは怖い。優遇制度がこのまま続くと思うな~
[ 膨大な富裕層から学んだ、新人社員でもできる!意外に知らないお金の話 ]
前回の記事「オーナーデビュー最初の一歩 ~iDeCoは使いこなすのが案外難しい~」では、
「iDeCoは老後を豊かにするための制度なので、収入にゆとりのある人じゃないと使いこなすのが難しいですよ」という内容を解説してきました。
そして、iDeCoを使いこなすのが難しい理由を、次の3つのポイントからお伝えしました。
①最大のメリットである所得控除は、収入が少ないと恩恵を受けにくい
②住宅ローン控除と併用すると節税の効果が減ってしまう
③冠婚葬祭などライフイベントの資金繰りや、リターンより手数料が多くなるといったリスクがある
このように、iDeCoを利用する際には諸々の問題点を考慮したうえで、判断する必要があります。
そしてここまで、【なぜiDeCoの優先度は低いのか?】 の3つの理由のうち、2つを解説してきました。
【なぜiDeCoの優先度は低いのか?】
①老後資金はそんなに必要ない可能性がある
②iDeCoは平均以上の収入がないと使いこなすのが難しい
③資金拘束中に税制が改悪されるおそれがある
今回は最後にあたる「③資金拘束中に税制が改悪されるおそれがある」について詳しく見ていきましょう。
目次 |
---|
・iDeCoは「株式」と「保険」の2つの顔を持っている ・iDeCoの優遇制度は、急に悪化する可能性がある ・多くの人が気付かない「ステルス増税」は、過去にもあった ・結局のところiDeCoは賛成なの? 反対なの? |
iDeCoは「株式」と「保険」の2つの顔を持っている
iDeCoの税制改悪リスクについて正しく理解するために、まずはiDeCoにかかる税金について詳しく見てみます。
iDeCoは大きく分けると次の2つの顔を持っていて、それぞれで税金のかかわり方が異なります。
①株式
②保険
具体的な計算方法は次のとおりです。
①株式
【購入時】
税金なし
【売却時】
税金 = 譲渡益 × 20.315%(所得税15.315%+住民税5%)
譲渡益 = 譲渡価額 - (取得価額+手数料)
ただし、iDeCoは譲渡益にかかる税金を非課税にする制度なので、株式としての税金は発生しないことになります。
②保険
【支払時】
iDeCoで掛金を支払うことで、毎年の課税所得を減らす効果がある。
※詳細は下図をはじめ、前回の記事にて。

【受取時】
A)分割して受取る場合 と B)一括して受取る場合 とで、事情が変わってきます。まずは A)分割して受取る場合 から見ていきましょう。
A)分割して受取る場合
まず、受取額は雑所得(公的年金)として取り扱われます。
雑所得(公的年金等)= 収入金額 × 調整割合 - 控除額
調整割合、控除額は所得状況や年齢・年金額などに応じて決まっていて、下表に当てはめていくことになります。
※出典:「国税庁HP 公的年金等の課税関係 」
例えば、65歳で年間500万円を年金として受取るならこのようになります。
雑所得(公的年金等)= 収入金額5,000,000円 × 調整割合0.85 - 控除額685,000円 = 3,565,000円
税金の話は、ここからが大事になります。
それ以上の金額を毎年引き出していく場合には、所得税・住民税が発生する可能性があるのです。
一般的には、現役時よりも老後のほうが稼ぎは減り、年金受取時のほうが毎年の税率が低いケースがほとんどです。
とはいえ、将来も税負担が予想以上に生じることがある点には注意が必要です。
B)一括して受取る場合
退職所得として取り扱われ、次の方法で税金が計算されます。
税金 = 課税所得 × 税率 - 控除額
課税所得 =(運用額 - 退職所得控除額)× 1/2
退職所得控除額
●勤続年数20年以下
40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合には80万円)
●勤続年数20年超
800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年)
色々と数式などが並んでいますが、こちらのポイントは2つ。
1つ目は「退職所得控除」と呼ばれる仕組みで、会社員が受け取る退職金は勤続年数が多いほど優遇されるようになっています。
iDeCoは「退職所得」扱いのため、この「退職所得控除」を使うことができます。
また、 iDeCoは運用期間=勤続年数として取扱っていいとされているので、例えば次のような場合には税金がかかりません。
運用期間:25年 運用額:1000万円
退職所得控除額:800万円 + 70万円 ×(25年-20年)=1,150万円
課税所得:(1,000万円 - 1,150万円)× 1/2 = 0円
2つ目のポイントは、課税所得の計算にあたって、最後に1/2を乗じることができる点です。
これにより、もし運用額が控除額を超えてしまっても、思ったより課税所得が出ず、少ない税負担で済む可能性があります。
ここまでをおさらいすると、
・iDeCoは株式と保険の2つの側面を持っていて、それぞれ税金の取扱いが違う
・株式としては譲渡益に対する税金が非課税になり優遇される
・保険としては所得控除、公的保険等控除、退職所得控除などが使えて優遇される
といったように、メリットが数多くあります。
iDeCoの優遇制度は、急に悪化する可能性がある
一見すると良いところばかりですが、一つ注意すべき点があります。
それは、先ほど挙げた「公的保険等控除」や「退職所得控除」などが改悪された場合に、iDeCoはそのダメージを受けてしまうということ。
基本的に、税金は担税力(税金を負担する力)のある人、つまりお金を持っている人から徴収することになっています。累進課税制度なんて、その典型でしょう。
前回の記事でも解説しましたが、iDeCoは豊かな老後を迎えるための制度であり、「実際に活用できる人=お金を持っている人」です。
つまり、iDeCoを活用する財力にゆとりのある層から、ある時から徴収が始まる可能性があるということです。
そこで、iDeCoを活用している層から税金を集めるために、年金の調整割合や控除額が改悪されるなんてことも、あり得るのです。
また、退職所得に該当する場合にも注意が必要です。
退職所得控除は、勤続年数が長い人ほど有利になる計算方法なので、転職市場の流動化を妨げる要因になっているとも言われています。
人材の流動化は推進すべきという声も多いため、退職所得控除は今後テコ入れが入る可能性があります。
多くの人が気付かない「ステルス増税」は、過去にもあった
とはいえ、iDeCoのメリットとして打ち出している優遇制度を改悪すると批判が一気に集まることは必至。「株式譲渡益の非課税」の中止や、「掛金拠出時の所得控除」が改悪されることは、まず起きないでしょう(あくまで私の予測ですが)。
ただ、受取時については元から「将来税金が発生する可能性がある」とされているので、ここを狙われるリスクはあります。
iDeCoは税金計算のオプションのようなポジションなので、退職所得や雑所得などベース部分の計算に影響を与えることはできません。
また、ベース部分の税制を改悪されても影響が分かりにくいため、詳しい人しか気付けず、見過ごされてしまいます。こうやって、これまでも様々なステルス増税(こっそり行う増税)が行われてきました。
このように、iDeCoのような“長期的な資金拘束がある制度”を利用すると、将来思わぬところからコストが発生する可能性が、長期であるがゆえに何度もあり得ます。

結局のところiDeCoは賛成なの? 反対なの?
以上3回に渡って、iDeCoの懸念点について解説してきました。
ですので私は、iDeCo反対派のように思われるかもしれません。ただ結論として、実は私はiDeCo賛成派です。
懸念点は確かにありますが、それらをすべて理解したうえで活用できるのであれば、効率的な老後資産の形成にあたってこれ以上のものはないからです。
ここまで読んでいただき、「自分はiDeCoを使ってよさそうだな」と思われた方には、ぜひiDeCoを活用してほしいです。
「自分にはまだだな」と思われた方も、
・つみたてNISAを始めて経験を積む
・スキルアップして収入を増やす
・倹約して支出を減らす
などの方法で、将来的にはiDeCoを活用するのもアリだと思っています。
本連載を通して、
「流されるまま知らないうちに損をする」
といった方が一人でも減らせれば幸いです。

大手税理士法人の富裕層対応チームで育ったさすらいのマガモ。
Twitterを中心に、家計・副業・投資に役立つお金の知識を発信中。
かもさんの紹介ページは→こちら
この記事へのコメントはありません。