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僕がよだれやウンチをほしがるのは、変態だからではありません!

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

東京の小さな病院で獣医師をしています。でもゾウやライオンも診療できますよ

東京の片隅の町工場に囲まれた商店街に、小さな動物病院があります。整骨院の2階にあり看板も地味で、探しながら歩かないと見逃してしまいます。僕はそこの院長、といっても獣医師は僕一人きり。なじみのワンちゃんネコちゃん、ウサギさんや鳥さんを、僕のできる範囲でのんびりと診療しています。

僕はこの病院を開業する前は、小さな町の小さな動物園で働いていました。ゾウ・ライオン・キリン・オランウータンも診療できますので、お困りの方は相談にのります。

おっと、忘れていました。動物看護師の女性が2人。田中さんと中田さんという、ちょっと紛らわしい名前の2人です。名前は似ていますが、中身は正反対。

田中さんは、大の犬好き。自宅で3匹飼っています。ご主人が1人いるはずですが、話題に出るのは犬のことばかり。夫婦仲は大丈夫かな?と少々心配しています。

普段の動作はゆっくりで、おっとり者の彼女ですが、動物の気持ちがわかるのか、優しく名前を呼びながら触れると動物たちはおとなしくなります。どんな暴れ犬でも、田中さんの手にかかれば、まさに“借りてきた猫”状態。見事です。動物の治療のための保定(動きを止めること)のスペシャリスト。病院内のうろうろしている犬たちはみんな、彼女の後ろをついて回っています。

もう1人の看護師である中田さんは、大の猫好き。病院の近くのアパートで2匹の猫と暮らしています。せっかちな上にあわてんぼうの彼女は、いつもせかせか動き回って、棚にぶつかったり、ごみ箱に激突したり大騒ぎしています。けれど不思議と動物に好かれていて、入院している猫は彼女が前を通るたびに撫でて撫でてとケージから手を伸ばし、そして、時々猫たちとお話をしています。

あとは、時々ふらっとやって来る獣医師の川端先生。内科の専門医で僕の師匠にあたる方です。

これから書くお話は、この仲間たちと日々起こる動物病院での出来事です。

実際に起きた出来事ですが、これらを通じて動物の面白い生態や、動物を飼う時に役立つ情報をお伝えできれば嬉しいです。本連載がこの先どうなるかわかりませんが、動物園でも働いていたので、動物園にいるような大きな動物のお話などもできればと思っています。

よだれだけで、こんなに詳しい状態がわかる

僕の病院に入院中の動物たちの世話を終え、朝のコーヒーを飲んでいると、
「先生、大変!」とサンダルにエプロン姿の阿部さんが、猫のミーちゃんを抱きかかえて飛び込んできました。阿部さんは8匹の猫を飼っている女性です。

阿部「さっきミーちゃんにご飯あげてたら、急に、狂ったように顔を掻(か)きむしっているの。よだれもすごくて、口から血も出ているし。顔を触ろうとすると「シャー」って怒るのよ。どこかに頭ぶつけておかしくなっちゃたのか…?」
いつもながらの早口で、一部始終を一気にまくしたてる。僕が口をはさむすきがない。

先週は、ミーちゃんの子供ハーちゃんのトラブルだったな。
阿部「あ~そうだ、ご飯用意している時、ミーちゃんが足元に絡んできたの。その時、頭を蹴っちゃって。あ~あたしのせいだ。どうしよう…、先生助けて!」
北澤「まぁまぁ、阿部さん、落ち着いて。ミーちゃん、呼吸も落ちついているし、大丈夫だから」

ミーちゃんは推定19歳。人にあまりなつかず、阿部さんに近づくのはごはんがほしい時だけ。膝(ひざ)にのることなど決してなく、抱っこされるのも大嫌い。ただ、ご主人にだけは懐いていました。

阿部家に来たのは18年前。みぞれ交じりの冷たい雨が降る中、忘年会の帰り道。「ミーミー」とご主人についてきた猫、それがミーちゃんです。それからは、いつもご主人の膝の上、寝るのもご主人と一緒、仕事に行くとご主人の枕の上で帰りを待っていたそうです。

そんなご主人も7年前に亡くなりました。ミーちゃんは他の猫たちといつも距離を置き、仏壇の前のご主人の座布団がお気に入りの場所で、いつもそこで寝ています。そのためか、いつもミーちゃんからはお線香の香りが。

ミーちゃんを診察台の上にのせると、口の周りを左右両方の手で強くこすっています。僕が顔に触れようとすると「シャー」と威嚇(いかく)してとても嫌がります。

ミーちゃんは以前、顔が腫(は)れてよだれがひどく、まったく食事をしない時に治療したことがあります。その時はひどい歯肉炎で出血もあり、ほとんどの歯を抜いてしまいました。それから1年以上は経っています。

北澤「ははーん、また歯肉炎だな~。田中さん、いつもの保定お願いします」
田中さんが、首の後ろの皮膚をぎゅ~とつまみます。
するとミーちゃんは体から力が抜け、診察台の上でアジの開きのような状態。
しかし、僕が口の中を診ようと口の両端をぎゅうっと押しても、絶対に口を開けません。
しょうがないのでとりあえず、歯肉炎の治療をすることにしました。

僕が皮膚をつまみ注射をしようとした時でした。
「先生待って。ミーちゃんが違うと言っている」
問診表を書いていた中田さんが叫びました。

中田「私が口を開けさせるから診てください。」
中田さんが口の両端をそっと押すと、口を大きく開けました。
口の中をライトで照らすと、奥歯の周りがキラリと光りました。
北澤「何かあるよ。歯に何か挟まっている」
中田さんは時々猫と話しているけど、どうやら本当に猫語がわかるようだ。

急いで鉗子(かんし。細長いマジックハンドのような形状の器械)を口の中に入れて、光る物体をつかみました。
でも歯にしっかり食い込んでいてなかなか取れません。
痛いのか、ミーちゃんは顔を左右に振ります。

「ミャ~」痛そうになくミーちゃん。
僕は、歯と謎の物体の間に鉗子を突っ込み、テコの原理を使うとようやく歯から外れました。
ミーちゃんの歯にはまっていたキラリと光っていた物は、指輪でした。

北澤「ミーちゃんの不調の原因がわかりましたよ」
阿部さんに、取り出した指輪を見せました。
阿部「あら、こんなところに…。朝から探していたのよ、“結婚指輪”」

獣医師は少ない情報から、病気を見つけ出し診断・治療をしなければなりません。

【ミーちゃんの情報】
・高齢
・以前歯肉炎になった
・ご飯を食べたら急に顔を掻きむしった
・よだれが多い
・顔に触れると怒る

【僕の診断】
・口を決して開けることがないため、口の中の視診・触診をあきらめ、以前の歯肉炎を直した経験から、再発を疑った

【中田さんの診断】
・以前の歯肉炎の時とよだれの匂いが違うことに気づく
・歯肉炎の時は口の中で菌が増えるため、よだれがとっても臭い。しかし、今回はあまり臭くない
・口の周りのこすり方が、歯肉炎の時に比べ強く激しすぎる
・急になるのはおかしい
・するどい観察力から、歯肉炎以外を疑い僕に伝えた

★最終的には
無理やり口を開けさせた僕と違い、中田さんは猫の気持ちを考え、まずは安心を与え、力ずくではなく、頬骨(ほおぼね)の下のくぼみを優しく押すことにより口を大きくあけさせることに成功。そのおかげで正しい診断、診療ができました。

おしっこ・ウンチだって宝物

動物たちは病院の診察台でおしっこを漏(も)らしてしまうことがよくあります。
「先生、ごめんなさい」と飼い主さんはすまなそうに謝りますが、いえいえ、僕にとってはありがたいこと…。

「なんで?」ですか?
というのは、おしっこだって、診断のための大事な情報ですから。

おしっこの量が多く、匂いが少なく透明の時は腎臓病を疑います。
キラキラ光っている時は結石症、
何回もトイレに行く、1回の量が少ない時は膀胱炎(ぼうこうえん)、
量が多く甘い匂いのおしっこの時は糖尿病、
にごったオレンジ色の時は肝臓病を疑います。

よだれを多めに出している時だって、たくさんの情報を与えてくれます。
臭い時は口内炎・歯肉炎、
夏に「ハアハア」と息を荒げながらだと熱中症、
フラフラしたり全身硬直をともなっていたりすればてんかん、
その他、中毒や食道炎などの時もよだれが多めに出ます。

ウンチだって情報の宝庫。
形はあるが柔らかい、水のようなときは胃腸炎、
頻度が多く、しぶり(便意があるのに便が出なかったり、便が少量であること)があり、時々漏らしてしまう時は大腸性の下痢(げり)、
頻度は普通、しぶりがないが色が黒い時は小腸性の下痢。
それぞれで治療法が変わってきます。

ウンチの表面に長い紐状や、米粒みたいのものが動いていたら寄生虫症、
便がコロコロと乾燥して固い時は発熱を疑い、
何日も出ていない時は便秘。

お腹の中の情報がたくさん入っています。
おしっこ・よだれ・ウンチにはたくさんの情報が詰め込まれているのです。

飼い主の家族の近況、家の周りの騒音。一見関係なさそうでも、貴重な情報源です

怒りん坊で飼い主さんがケースに入れることができないなど、病院に連れて来ることができない猫ちゃんもいます。そんな時は飼い主さんのお話と、動画だけで治療することもあります。

口のきけない動物たちの代わりに、飼い主さんから動物の様子を詳しく聞きます。
いつもと違う場所で寝ている、水をたくさん飲む、おしっこの量が増えた、よく吐くようになった、などなど。

飼い主さんの家族が増えた、減った、引っ越しをした、家の工事で人の出入りが増えた、家の前の道路工事でうるさいなど、どんな情報でも、僕にとっては病気の診断のための宝物なのです。

病院に連れて来れない時は、症状がいつからか、どんな時起こるか、一番心配なことなどのメモ書きがあればありがたいです。
できればウンチ、おしっこをもってきてください。

何を何回、どのくらいの量を食べているかなども大切な情報です。
それらのことから、どうして痛がっているのか、どうして元気がないのかを察し、どんな病気なのかを診断します。

僕は、動物看護師の田中さんと中田さん、僕の尊敬する獣医師の川端先生に助けられて診察しています。
今回のミーちゃんの件は、中田さんの「口の中を調べろ!」がなかったら、診断がつかなかったかもしれません。

*****

指輪を超音波洗浄機で洗浄し、阿部さんに渡そうとした時、左の薬指にキラリと光る指輪が?
北澤「あれ、左の薬指には結婚指輪ついてますよね」
僕が奥さんに聞くと、
阿部「落としたのは主人の指輪。寂しいから右手の薬指につけてるの。気を付けているけど、サイズが大きいからすぐ抜けちゃうのよね」
北澤「きっと、ミーちゃんが見つけてくれたのね」


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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