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獣医師あるある!? 「街一番の嫌われ者」になってしまう日…

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

ポカポカしてきて人間がウキウキする春は、犬にとってはビクビクする季節。なぜなら…

1日の診療を終え愛する奥さんのもとに帰ろうと、病院の前に置いた自転車のカギを外している時のこと。道路の反対側を、コーギー(犬の品種の一つ)の“サスケ”が。「サスケ!」と僕が呼ぶと、耳を後ろに向けて力一杯飼い主さんを引っ張りました。

いつものサスケなら僕を見つけると僕のところに走ってきて、顔をベロベロ舐めまくるのに。飼い主さんが立ち止まり「先生~」と頭を下げます。サスケはというと「止まるものか」といっそう強く引っ張っていました。

この時期、今まで病院の前の歩道をゆっくり歩いていたワンちゃんたちは、病院の前を通らないように反対の歩道に行く、素早く駆け抜けるなどなど、ワンちゃんたちはいかにして病院に近づかないようにするかと必死です。病院どころか僕の姿を遠くで見つけると、みんな逃げる逃げる…。

春は、狂犬病やフィラリアの予防接種を始める時期。病院からは、ワンちゃんに向かって恐怖のオーラが発されています。獣医師である僕の体からも恐らく、「注射するぞ」の恐怖のオーラが出ているんだろうなあ。恐らく散歩の時、ワンちゃん同志で「病院は気をつけろ、痛い目にあうぞ」と話をしている、情報交換をしている様子。

逃げる、吠える、睨む。様々あれど、多いのは固まってしまう犬

ワンちゃんは診察室に入ると、いろいろな反応をします。

まずは、診察台の上でブルブル震えまったく動かない犬。僕が聴診してもあまりの震えで、心音も肺の音も聞こえず、筋肉の震えしか聞こえません。
北澤「田中さんお願い」
すると、看護師の田中さんが登場。リードを短く持ち、犬の名前を優しく呼ぶと、ピタッと震えがおさまります。リードと言葉だけでワンちゃんの動きを止めました。
注射を終え飼い主さんが抱っこすると、僕を見て「う~ワン」と僕に対しての抗議。診察台の上には汗による足跡が残っていて、緊張を表しています。

次に、とにかく逃げようとリードを目一杯引っ張り、前足はものすごい速さでバタバタ動かすワンちゃん。とにかく怖いので、全力で逃げようとしているのです。
田中さんが近づき、優しく声をかけます。前足の動きが止まりました。次はお座りをさせ、右手で首を優しく包み込み、左手は腰を抱きかかえます。そして僕が注射。

僕に向かって、最初から「ワンワン」と吠え続けるタイプもいます。
僕に対して必死に抵抗。そこで、飼い主さんからは見えないもう一つの診察台に連れていきます。飼い主さんから離された途端に弱気になり、まったく動かなくなることが多いからです。

飼い主さんと離しても、上唇を上げ、犬歯を見せながら「ウ~」とうなり本気で怒っていることもあります。
まずは後ろからそっと近づき。首の周りに大きな硬い襟「エリザベスカラー」を素早く付けます。そして、看護師として田中さんに加え中田さんも参戦し、2人で押さえてもらって僕が注射と採血。
力わざに見えますが、2人はたいして力は使っていません。関節を軽く抑え込むことによって、動きを止めるのです。

診察台にのせられてもこれから起こる注射の恐怖に気づかず、尻尾をブルンブルン振っているのは、キャバリア(犬の品種の一つ)のチャロちゃん。聴診のため近づいても、僕の胸に飛びついて顔をベロベロ舐めまくる。田中さんに抱っこされて僕に注射されても、尻尾はブルンブルン。

いろいろなタイプがいますが、たいていのワンちゃんは恐怖と緊張で診察台の上で固まっています。

ストレスを与えないのが大事。いかに密着するかが重要

ワンちゃんの動きを止め、注射・採血・検診などをしやすくするのが保定。この保定の大事なことは、いかに動物たちにストレスを与えずじっとさせるか。

そのためには、まずは人間から恐怖のオーラを出さないことが鍵を握ります。ただでさえ診察室は恐怖のオーラでいっぱいなのに、抑え込もうと「やってやるぞ」のオーラで人間が近づいてきたら、ワンちゃんはいっそう抵抗して力が入り、お互い戦闘態勢になってしまいます。

不安でいっぱいのワンちゃんに、僕たち動物病院のスタッフはオーラを消して近づき、素早く抱きかかえます。その時できるだけ体に密着させることがコツ。身体が密着すると安心するから。

狂犬病の時に大変なのは、僕のような獣医師よりもむしろ看護師。看護師がいかにワンちゃんたちを安心させるか、動かなくさせるかによって、獣医師もワンちゃんもお互いにストレスなく診察できます。

ワンちゃんは怒るものです。病院で怒ってもいいですよ。でもウチの病院なら、看護師の田中さんが何とかしてくれます。

動物園時代の保定はまさにサバイバル。でも、ハムスターこそ意外な強敵

僕が動物園に勤務していた時代も、いろいろな動物たちの保定をしました。

ニホンザルは、毎年全頭捕まえて、マイクロチップと避妊薬の埋め込みをし、健康チェックを行います。麻酔は使わず、とにかくみんなで捕まえて抑え込みます。

ニホンザルの攻撃は噛みつき。大きな雄なら、指をかみ切るぐらいの力を持っています。
まず網で捕まえ動きを止め、網から腕を出し左右の上腕部をつかんだら、素早く両腕を背中に持っていくと動きを止めることができます。

50頭を超えるサルを捕まえるため、全職員総出で行います。当日はサルたちも人間も、アドレナリンが出まくり興奮状態。新人もベテランも、この時は関係ありません。一番たくさん捕まえ保定した人、一番強い雄ザルを捕まえた人がこの日のスターになります。

白鳥は後ろから素早く近づき、嘴(くちばし)を押さえた後に羽ごと身体を包み込みます。白鳥の羽はあの重い身体を飛ばすためのものなので、すごい筋肉がついています。僕は白鳥にとても嫌われていたみたいだったので、捕まえる前に羽でたびたび攻撃されました。

攻撃力は、小学3年生の子が野球のバットを振ったぐらいの強さです。ちょうど膝(ひざ)のあたりに当たるため、まともに攻撃を受けると腫(は)れあがり、3日ほど動けなくなります。

鷹(たか)は爪が鋭いため、足をまず捕まえる。
は頭のちょっと下を捕まえる。
レッサーパンダは首の後ろの皮膚をつかむ。
ペンギンは羽を。
フラミンゴは足から体をストッキングに入れ動かなくする。
それぞれの動物によって、保定方法は様々。

結構難しいのはハムスター。強く抑え込むことができない上に、首や体が柔らかいため、想像以上に体を曲げます。押さえている手を「ガブッ」っと噛まれると、痛いうえに結構な出血を伴います。ハムスターの保定が上手にできれば一人前。

ウサギが得意な僕でも、やっぱり苦手なのは…

僕が保定で特に得意とする動物はウサギ。どんなウサギでも膝の上に仰向けにさせると、抑え込まなくても動きを止めることができます。ウサギの保定なら、日本で10本の指に入るでしょう。

コツは、仰向けにするときの角度。完全に寝かせるほうが安心するタイプ、ちょっと頭を上げ気味のほうがいいタイプなどがいるので、そのウサギが安心する状態を素早く見つけることが大事です。

ある日僕が自宅に帰ってきて、玄関のドアをあけ「ただいま」と言うと。
あれ? いつもなら僕の足音に気づき、玄関で「にゃ~」と言って「お帰り」と僕を迎えてくれる愛猫の「らん丸」が来ない…。リビングのドアを開けると、ものすごい速さで僕の足元を駆け抜け、寝室に逃げ込むらん丸が。

ソファでは、顔にパックをしながらスマホを眺めている妻が。いつも通り僕のほうなど全く見ず、スマホに向かって「お帰り」と一言。「おかず、電子レンジにセットしてあるから、40秒チンして」。これはいつもの対応。ごはんを作っておいてくれる優しい妻。

らん丸は僕におびえている様子。いかん、いかん、まだ僕の全身から恐怖のオーラが出ている様子。この時期の僕、街一番の嫌われ者です…💦


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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