ウサギの耳は、なぜあんなに大きいのか?

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

「ウサギミミクサ」って知ってましたか?

江藤さん夫婦が、ウサギのミミちゃんを連れてやってきました。

ミミちゃんは4才の垂れ耳ウサギの「アメリカンファジーロップ」。アメリカンファジーロップは、ホーランドロップ×イングリッシュスポット×フレンチアンゴラの交配種。

そういえば最近、ウサギさんもいろいろな交配種がいるため、品種名を覚えられません。アンゴラだけでも、イングリッシュ、フレンチ、ジャイアント、サテンといろいろとあったりして…。

猫ちゃんはもっと複雑で、垂れ耳が特徴のスコティッシュフォールドだけど「たち耳」で、毛色は「三毛」で3色の「スコティッシュフォールドキャリコたち耳」という品種もあって、とても覚えきることができません。飼い主さん、僕が間違えても怒らないでくださいね…。

北澤「ミミちゃん、どうしました?」
江藤「先生、耳の中から木が生えてきたみたいで…」
北澤「え!?」

とりあえず、垂れた耳を持ち上げてみました。確かに木というか、爪楊枝が生えていました、それも両耳。
北澤「いつから生え出しました?」
江藤「1か月ぐらい前かな」
江藤の奥さん「旦那が、『この木は脳につながっているから絶対引っ張っちゃダメ』って言うから、ほっておいたら、だんだん伸びてきてこんなになっちゃった」
奥さんはちょっと不満気味。
旦那さんは横で知らんぷり。

北澤「これはね、多分『ウサギミミクサ』の種が入ったためだよ。この種が耳の中に入ると芽を出します。発芽するには適度な温度と湿度が必要で、ミミちゃんの耳の中は最高の条件が揃っているみたいで。旦那さんのおっしゃる通り、この草は栄養を求め、脳に向かって根を伸ばします。ですから、絶対引っ張っちゃダメ。そのままにしておいてください。秋になると実がなり、実が割れると中から種が出てきて、種を飛ばすと自然に枯れるから大丈夫。ただし種を飛ばす前に、途中で枯れると脳に雑菌が入るから、大事に育ててくださいね。それと、この種、人間の耳に入っても芽を出すことがあるからくれぐれも気を付けてください」

話を聞いていた奥さんも旦那さんも、顔面蒼白になりあわてて耳をふさぎました。

耳からプリッツが生えていた

北澤「ごめんなさい、今までの話、全部嘘です。そんな草、存在しませんから」

ちょっとふざけ過ぎたことを反省した撲は、奥さんに聞きました。
北澤「ミミちゃん、耳を掻(か)くことあります?」
奥さん「ないです」
北澤「顔を斜めにしていたりすることは? よだれや鼻水、目ヤニは出ます?」
奥さん「どれも、ないです」
北澤「食欲は? ウンチとオシッコの出方は?」
みんな良好、全く問題ない様子。
ちょっと太り過ぎだけど、呼吸も安定していて、きわめて健康なようです。

次にミミちゃんを抱き上げ、仰向けにして僕の膝(ひざ)にのせました。どんなウサギさんでも、仰向けにして僕の膝にのせると動かなくなります。暴れそうなときは優しく頭を撫(な)でてあげると、うっとりした感じになり動かなくなります。爪切りも診察も、この格好にして行います。このおとなしくするコツは、押さえつけないこと、動いた時だけ抑えることです。

膝の上でうっとりしているミミちゃんの謎の木に触れてみました。硬さ・触れ心地・色合いは、まるでグリコの「プリッツ」のよう。

僕はそのプリッツを掴み、そっと引っ張りました。すると、長さ3㎝ほどのプリッツが取れました。プリッツが何かというと、その正体は耳垢(みみあか)だったのです。

耳の中には耳垢がまだまだ溜まっていたため、やさしく掃除をしてあげました。その後、洗浄液できれいにして終了。ミミちゃんは、耳垢がたまりやすい体質だったのです。

敵から身を守り、体温調整と大活躍

ウサギの耳はとっても大事。

なぜならば、敵から身を守るのに必要だから。野生のウサギは常に、鷹やキツネなどから襲われる危険にさらされています。そこでウサギは、大きな耳をもちました。大きな耳により、わずかな音でもキャッチすることができるようになったのです。

この大きな耳は、左右別々な方向に向けることもできます。草を食べながらも耳を立てて、敵が出す小さな音を聞き逃がしません。敵の気配を素早く感じとり、身を守ります。

ウサギの耳には、体温調整の機能もあります。耳には血管が通っているのですが、この大きな耳で風を受けて血管内の血液を冷やし、その冷えた血液を循環させることで体を冷やすのです。耳を太陽に向けて、体を温めることもできます。このように、ウサギの耳はとっても大事なのです。

ウサギの耳の病気の代表例

ウサギの耳の病気には、次のようなものがあります。

☆ミミダニ

耳ダニが耳の中に寄生すると、とっても痒(かゆ)くなり、耳の中にカサブタができたりカサカサしたりします。黒い耳垢が出たりもします。早めの治療が必要です。

☆外耳炎

耳の中が赤い時は、外耳炎の可能性があるので要注意。耳が臭くなって痒くなります。茶褐色の耳垢が大量にたまることもあります。アレルギーや耳の中で細菌が増えると、炎症を起こし、治療が必要となります。慢性化すると皮膚が厚くなり、耳の穴が塞がってしまうことがあります。

☆耳血腫(じけっしゅ)

耳の皮膚(耳介)の中に、血液の液体が溜まって腫れてしまいます。外耳炎やミミダニなどで耳をいつも掻いているとなることがあります。

耳の掃除でワンポイントアドバイス

さてミミちゃんですが、耳垢がたまっていましたけど果たして病気なのでしょうか? 耳垢はほこり、皮膚の残骸、耳垢腺から出てきた分泌物などが混ざったものです。ミミちゃんの耳垢がポッキー状になってしまったのは、分泌物の量が多かったためと考えられます。

ほっておいてもいいのですが、あまりに長期間耳の穴が塞がっていると、細菌が増えて外耳炎になることがあるので、耳垢は定期的にとってあげたほうがいいです。

ただし綿棒で耳の中を傷つけることがあるので、あまり頻繁に綿棒を使うのはダメです。洗浄液を定期的に使うのがいいでしょう。ほっておいて大きくなっても、決して実はなりませんよ。

ポッキー状の耳垢をとり、洗浄も終わったミミちゃん。診察室のすみに行き、片耳を下げ前足で優しく撫でています。ミミちゃんはひとしきり耳の手入れをし終えてから帰っていきました。

実はしばらく僕の頭の中は耳でいっぱいです。動物の耳の本『人間と比べてわかる 動物のスゴい耳図鑑』(宝島社)という本の協力をしたからです。改めて耳の機能や働きってすごいと感じました。耳のいろいろな形にも意味があります。そんな耳から見た動物の不思議や面白さについて書いた本です。ぜひ読んでみてください。

では、次のかたどうぞ~。
診察室にはいってきたトイプードル。
このワンちゃんも、耳から木が生えていました。
その木にはなんと柿のような実がついていました。
「イヌミミクサ」です。
あ、もう嘘ってバレてますよね。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

【北澤功さんの書籍、そして最近ハマっているものをご紹介します!】

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。