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いくら払ってどこまで検査や治療をする?問題。飼い主ができる限りをする方法とは

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

普段はおとなしい犬が噛みついてきたのはなぜか?

「先生、何とかして…」
雨が降る中、小川さんが、3才のトイプードルの「ラッキー」を抱きかかえてやって来ました。

小川さんの右腕に巻いたタオルから、血がにじんでいます。どうやらラッキーに噛まれた様子。あんなにおとなしいラッキーが噛むなんて。

北澤「どうされましたか?」
小川「私の後ろをラッキーが追いかけてきたことに気づかず、ドアを閉めちゃって。その時、ドアでラッキーの足をはさんでしまったの。ラッキーは足を引きずりながら、部屋の中をぐるぐる回ってから机の下に潜り込んでしまったから。抱っこしようと手を入れたら、噛みついてきて。今までラッキーが、こんなに怒ったことないんだけど…」

小川さんからラッキーを受け取りそっと、診察台に置いてみました。ラッキーは震えながら右足を上げていました。そして足の向きが極端に内側を向いていたのです。骨折です。あまりの痛さでパニックになり、飼い主さんを噛んでしまった様子。

再び抱き上げ痛んでいる足にそっと触れてみると、粉砕骨折という状態です。飼い主さんに手術が必要なこと、そしていろいろな術式があること、この治療は専門病院のほうがいいことを伝えました。

診療動物も「科」も膨大な種類を一挙に引き受ける

以前は僕も骨折の手術をおこなっていたのですが、近年の獣医診療は進化しており、整形外科の診療技術も高度化し、人間と同レベルの治療をおこなえるようになってきました。診断のためのCT、MRIなども使います。24時間体制の看護もおこないます。

しかし、僕の病院にはそのような器具も施設もありません。手術についても、看護師と2名で行っています。夜間は看護師が帰ってしまうので、僕1人。看護師がやってくれる監視はカメラを使います。ですから、僕の病院では最新の手術はできません。

動物病院の診療動物は猫、犬、ウサギ、鳥、ハムスターなどなど多種にわたり、そのうえ、内科・外科・歯科・眼科・耳鼻科・小児科・産科・整形外科・腫瘍科・心療内科まで、診療科も多岐にわたります。最新の診療技術をおこなうためにその動物に合わせた最新の機器や器具をそろえ、最新の技術を学び実践することは難しいのが現実です。このように高度診療を行うには、経験、技術、器具、スタッフが必要です。

ラッキーの場合は、飼い主さんが高度診療を求めたため専門病院を紹介しました。しかし問い合わせてみると、手術費が想像以上にかかるということで悩んでしまいました。

診療費を少しでもおさえるためにできること

獣医診療は公の健康保険がないため、民間の保険に入っていない限り全額負担になります。自分の家族であるラッキーのために、最善の治療をしてあげたい気持ちはヤマヤマなのですが、高額の手術費を前にして悩んでしまいました。これはよくあることです。

そこで、僕の病院でできる範囲の手術を提案しました。このやり方だと最新の治療ではありませんが、手術費はおさえられます。骨はくっつきます。でも、少し曲がってしまう可能性があることも伝えました。

それと、スタッフが足りない分は飼い主さんができることはできるだけやってもらうこと。このことを納得してもらい手術をしました。

動物病院には、獣医師1人か2人くらいで運営している小さな1次病院。獣医師が4人から10人ほど在籍する1.5次病院。整形外科・消化器・心臓・眼科・歯科・腫瘍科など診療科がわかれている専門病院。1次病院からの紹介で最新治療を行う大学病院などの2次総合病院。様々な形態や規模があり、多様化しています。

病院も多様化していますが、診療内容も多様化しており、診療技術の高度化に伴い、高額な薬も増えています。

現実として用意できる予算を把握しておきましょう

飼い主さんたちは、僕たち獣医師から最新の治療の提案があると、それをしなければいけないのではと考えてしまいます。しかし、実際に治療費を用意できる方はいいのですが、できない方も当然いらっしゃいます。無理をしてその治療をしたはいいものの、最初の検査・治療に思った以上に金額がかかってしまい、途中から治療を断念してしまうこともあります。

僕たち獣医師は、症状・検査から診断し治療します。そのため、血液、エコー、レントゲン、CTなどなどできるだけたくさんの情報があると診断の役に立ちます。とはいえ、検査をすればするほど、診療費は加算されていきます。

ですので、診察を始める前にどれくらい診療費を出せるのかを相談してください。診療費をおさえても、その中で可能な限りの最良の診療を考えますので。経験のもとに必要な検査の優先順位をつけ、与えられた条件の中でできる限りの治療をします。

治療に関しても、できる限りご家庭でおこなってもらう方法を提案します。飼い主さんがご自分でできることを増やしてもらうことにより、動物たちのストレスも減らせるうえにお財布にも優しくなります。時には、ご自宅で飼い主さんに輸液(注射)してもらうこともあります。

普段からペットを観察し、メモ・写真・動画を残しておく

診察料を抑えるためにはどうしたらいいか。まずは、変化や症状が出たことに注目します。そのために、普段からウンチやオシッコの色・形・量・匂い・回数の状態を知っておき、いつもと違う時はどう違うか、どんな咳をするか、何時から痛いか、何を食べたか、吐いた回数と何を吐いたか、何時からやせ出したかをチェックするようにしてください。

また、旅行をした、家族が増えたということもストレスの元になることもあり、診断に有益な情報になることもあります。ですので、どんな些細なことでもいいので情報をください。普段からメモをとったり、動画や写真を撮影していただいたりも助かります。これらの情報が多ければ多いほど、必要な検査のみを行うことができます。

スキンシップ、衛生や食事の管理を普段から欠かさずに

それと、できることは自分たちがおこなってください。獣医師ではなく飼い主でもできることは意外にあります。例えば投薬、傷口のケア、おむつ替えはどれも自宅でできることです。飼い主さんができれば、治療費とペットのストレスの軽減にもつながります。

自宅でも、薬を飲ます・目薬や点耳(耳の穴に投薬する薬剤)をさすくらいはできるようにしておきましょう。

それと、いきなり治療部位に触れるとびっくりしてしまうので、普段から触れておきます。そこでまずは、大胆に耳をモミモミすることから始めます。犬猫は耳のマッサージは大好きなので、目をつむり気持ちよさそうになります。そのついでに目の周りを「サワサワ」、その次に口の中に指を入れ歯を「ゴシゴシ」、次は肉球を「ギュッギュッギュ」と握ってあげます。

そして仰向けにしてお腹を「ナデナデ」。これができるようになると、病院だけでなく家で、点耳・目薬・経口薬の投与が可能になります。

あとは、普段から病気にさせないことです。毎日の歯磨きを習慣づければ、歯の病気が防げます。肥満はあらゆる病気の原因となるので、太らせないことも大事です。予防も必須で、ワクチンによって病気、予防薬によりフィラリア(犬に寄生する虫)・ノミダニをしっかり退治しておきましょう。罹ってしまった時の治療はとても大変で、診療費もかかりますから。診療より予防のほうが、ず〜っと安く済みますよ。

病気は突然やってくるもの。そのために、保険に入るのもオススメです。保険代が高くて入れない時は、保険代わりに毎月少しづつ、ワンちゃんや猫ちゃん用に貯蓄をしておくといいです。貯蓄はいざという時のためにのものですが、病気になった時に自分たちがペットにどれだけ治療費が用意できるのかもすぐにわかる点でも優れています。

専門医とかかりつけ医の違いは?

実際どの病院にかかればいいのか?ですが、規模の大きい2次病院は診察料が高くなりがち。手術にかかわる人数もその後の看護にかかわる人もたくさんいるからです。時には24時間看護となり、検査にかかる機器も高くなりがちなので検査代も高くなります。

そのかわり、より正確な診断ができ、治療にかかわる安全度は増します。高い診察代は安心もしっかりと買うことを意味しています。手術や治療も高度医療を行うため、例えば1次病院では切断しなければならないような足の腫瘍でも、2次の専門病院では足を残す治療が可能なこともあります。

家族の納得のもと、診療費が払えるのなら専門病院の治療がいいと思います。金額的になかなか難しい時は、かかりつけ医に相談してください。

動物たちは万が一3本の足になったとしても、飼い主さんが協力してあげると、元気に楽しく生きていけます。

それと、いろいろな治療法があります。病気やケガを治すだけでなく、共存するという考えもあります。

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歳月が過ぎ、ラッキーが元気いっぱい病院にやってきました。骨折部位は無事にくっつきました。ただ少し内側に曲がってくっついてしまっています。

「あ~やっぱり、ちょっと曲がっちゃったね…。ごめんね、ラッキー」
でも診察台の上で、ラッキーは尻尾をフリフリご機嫌です。
小川さんが「先生、足がちょっと曲がっているのもかわいいよ」と。
僕を気遣ってくれたようで、ありがたい一言です。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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