水槽の生き物をちょっと育てるだけで、地球環境を考えずにいられなくなる

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

大福を食べてたら、バンドの生ライブが目の前で行われていた

「ただいま」と、僕が家に帰ると、最近購入した大画面のテレビでアヴちゃんが踊っていました。スピーカーからは歌声が、その前でわが妻はノリノリで扇子をふって踊っています。全く僕には気づかない様子。娘は耳にヘッドフォン、スマホで何かを見ています。僕には気づきません。

アヴちゃんとは、女王蜂という4人組のロックバンドのボーカルこと「薔薇園アヴ」。妻は女王蜂の大ファンで、ライブにもたびたび出かけています。

妻とこのバンドとの出会いは4年前、娘と渋谷に買い物に出かけた時のことです。買い物を終え帰ろうとすると、女王蜂の大ファンの娘が109というファッションビルの前路上でフリーライブがあるから観て帰りたいと、妻はそれに付き合うことにしました。

娘は1番前で観たいということで、始まる40分ほど前から並んでいました。並ぶ前に娘は妻に「危ないからお母さんは後ろで待ってて」と言い、妻は前には行かずその場で先ほど買った大福を食べながら待っていたそうです。

しかし、始まる時間が近づくにつれたくさんの人が集まってきて、妻は後ろから押されて人の波に巻き込まれ、気づいた時にはなぜか、特設ステージ真ん前の特等席で大福を食べていたそうです。

そして、ライブが始まりました。周りの人たちは歓声とともに両腕をあげノリノリ、そしてみんなジャンプを始めました。周りがジャンプをしているので、静かに立っていると逆に危ない状態。しぶしぶ妻は、大福を高々と頭上に上げながらジャンプを始めたそうです。

その時妻の「何かのスイッチ」が入ったみたいで、最初は身の危険を感じて周りに合わせて始めたジャンプが、思いっきりノリノリのジャンプに代わったそうです。それからは「薔薇園アヴ」大ファンになりました。

かわいい猫たちだけは僕の味方かと思いきや…

寝室から「ニャー」と、愛猫ランちゃんがお迎えに来てくれました。ランちゃんは僕が帰ってくるのが楽しみな様子。鞄を置き、洗面所で手を洗います。

ランちゃんはず~と僕について歩きます。洗面所を出たあたりで妻がやっと僕に気づき、「あ、帰ってたの? 『ただいま』くらい言えばいいのに」と言い、ライブ映像を一度止め、しぶしぶキッチンに向かいました。心の中でつぶやきます。「言いましたよ、僕は。大きな声で『ただいま』と…」。

テレビの画像からは一時停止のアヴちゃんが、妖艶な目で僕を見つめていました。ランちゃんはストーカーのように僕の足に絡みついてきます。けれども、キャットフードの棚を開けた途端、僕から離れフードボール(エサを入れる容器)の前に駆けて行きました。

ソファーで寝ていた弟猫のロンくんも、自分のフードボールの前で僕を待ちます。彼らも僕を待っていたわけではありませんでした。ごはんを待っていたのでした。

小さな水槽の中だけでも、必要なものがたくさん存在する

猫たちにごはんをあげた後は、2つの水槽のライトをつけます。二酸化炭素を添加します。光合成を始めた水草は葉の上に透明な球体、酸素を作り出します。それが泡となり水の中を漂い、その泡の中を泳ぐ魚たち。

赤・黄・白・黒、それぞれ混じりあった色のシュリンプたちは、流木にくっついたコケを前の脚でせっせと削り、ものすごい速さで口に運び食べています。

現在、2つの水槽で異なる2つの世界を作り出しています。岩と草原をイメージした「エビ水槽」と、森を再現した「おさかな水槽」です。

森の水槽に、お魚たちの餌を入れます。水面にいるメダカたちが食べ始めると、次はテトラたちが食べます。口をパクパクとして一生懸命食べている姿は、永遠に見ていられます。

ひとしきり眺めた後は、水槽の水を足して、伸びすぎた水草を剪定(せんてい:枝の一部を切ること)します。それぞれの世界をじっと見るこの時間が、僕の至福の時間です。 

この水槽内の小さな世界を維持するのは、なかなか大変。水草には、光合成のための光と二酸化炭素、成長するための栄養豊富な土が必要です。一方で魚やシュリンプたちには、住みやすい水質と適温と酸素とエサが必要。

水草のために、時間を決めライトをつけます。その時に二酸化炭素を水に添加します。水草は光と二酸化炭素により、酸素を作り出し、その酸素で魚たちは呼吸します。魚たちのフンは、水の中に入れたバクテリアが分解して水草の栄養となります。

ライトを消すと酸素不足になるため、ブクブクとエアレーションをして酸素を水の中に入れます。水温を一定にするには、ヒーターや扇風機を使用。

水質管理のためにはバクテリアを利用します。「フン」「餌の残り」「枯れた草」などを分解するバクテリア、分解するにあたり発生する有害なアンモニアを毒性の弱いものに分解するバクテリア、浮遊している濁りの原因菌や病原菌など不要なバクテリアを食べてくれるバクテリア、それぞれの役割が違い、すべてが大事です。

小さな水槽の世界は、良質な水質、栄養豊富な土、酸素、二酸化炭素、光、バクテリア、最適な飼育数の生き物、すべてがバランスよく揃うことで成り立っています。

地球で生命が育まれては“当たり前”ではなく“奇跡”である

広大な宇宙から見たら、地球だってほんの小さな水槽のようなものです。この水槽の中の環境も、光・酸素・二酸化炭素・温度がすごく微妙なバランスで保たれています。この環境が揃ったことは本当に奇跡に近いのです。そんな奇跡の中で僕たち人類が生かされています。

しかし、この「奇跡の環境」のバランスが崩れ始めているような…。地球は今までに5回の大量絶滅が起こっています。原因は、火山の噴火や隕石の衝突による気候変動だと考えられています。

2億3000万年前から1億6000万年もの長い間、地球で大繁栄していたのは恐竜。こんなにも恐竜たちが繁栄した理由は、恐竜が誕生する前に、地球上の生き物がことごとくいなくなっちゃったからなのです。

こんなに繁栄した恐竜も、隕石の衝突によって気候が大きく変動することで絶滅しました。その後、哺乳類が増えてきて、現在は人間が事実上頂点に立っているような状態です。

しかし地球上で、6回目の大量絶滅が始まりました。その原因が皮肉なことに、繁栄し過ぎた人間の活動による環境破壊です。二酸化炭素の増加による地球温暖化をはじめ気温の変動、車や発電所からの大気汚染、工場が輩出した有害物質などによる土壌汚染、森林伐採などによるたくさんの生物の絶滅、生物の多様性の喪失。
せっかく地球が長年をかけて完成させてきた「奇跡の環境」のバランスの崩壊が始まったのです。

僕の2つの水槽では、ヒーターのスイッチを入れ忘れた、エアレーションのスイッチを忘れた、二酸化炭素のスイッチを忘れた、掃除をさぼったなど、これらのどれか一つでも起きてしまうと、あっという間にバランスが崩れ、連鎖的に環境破壊が広がってしまいます。

まずは魚やエビが死に絶え、バクテリアもいなくなり、水草が枯れ、このきれいな世界は、あっという間に壊れてしまいます。

地球といういわば水槽のような空間に住んでいる人間が、自分たちの生活により自分の住む地球環境の財産である「奇跡のバランス」を壊しているわけで、なんて愚かなことでしょう。

地球にとっては、人間が絶滅してもちっとも困りません。恐竜の代わりに、繁栄した人間のように、人間が絶滅したら、地球では新たな生き物が繁栄するのですから…。そうならないために、身の回りでできるところから環境の改善をしたいところです。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
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