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猫が狂ったように走り回り、泣きっぱなし。触ると怒る。その原因とは?

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

ケガでも膀胱炎(ぼうこうえん)でもないようですが

1日の診察を終え、カルテ整理をしていると、
「先生、大変だ~。さっき仕事から帰ったら、ムーちゃん、狂ったように走り回ってて、「ミャーミャー」と鳴きっぱなし。抱っこしようものなら『シャー』と怒るんだよな。普段から気難しいけど、こんなことは初めてだ…。このケースに入れるのも、えらい苦労しちまった」
飼い主さんは、早口でパニック気味。

ムーちゃんとは、顔と耳が黒い長毛のヒマラヤン猫。普段は病院に来ると、恐怖で固まって全く動きません。でも今日は、ケースから出そうとするだけで「シャー」っと怒っています。しょうがないので、ネットに入れてからケースから出しました。

「シャーっ」と怒るということは、どこか痛いのでは?と、まずは頭を撫(な)でてみました。目を閉じて、気持ちよさそう。前足も普通に触らせてくれます。背中からお尻に向かい、優しく触れてみます。お尻に近づくと背中を丸め緊張します。後ろ足は普通に触らせてくれます。

家で走り回るということは、足の異常ではなさそう。
北澤「走り回る前は、ムーちゃん何してました? ご飯食べてたとか? トイレに行ってたとか?」飼い主「あっ、そういえばトイレで真剣な顔で気張っていたかな。それから走り出したな~」
北澤「トイレにオシッコはしてありました?」
飼い主「俺の握りこぶしの半分ぐらいの大きさの固まった砂があったよ」

ケガでないとしたら、膀胱炎を疑ったが違う。膀胱炎でおしっこが出ない時も激痛を起こすことがあるのですが、そうではなさそうでした。

毛繕い(けづくろい)だけで大変な目に遭うことが…

次に尻尾に触れると「シャー」と怒りました。尻尾? それとも、お尻が痛いの?

上半身を大きなタオルでくるみ、お尻だけ出しました。尻尾を持ち上げて見ると、お尻の穴から一本の紐が5㎝ほど垂れ下り、そして肛門からウンチが見えていました。肛門の周りも赤く腫れていて、力みすぎたためか脱肛気味、とっても痛そうでした。

お腹を優しく押して腸管に触れてみると、カチカチの大きなウンチが大量にたまっていました。これが原因です。紐を引っ張りますが、何かにひっかかって通り抜ける気配がありません。

仕方がないので、指にたっぷりベビーオイルを塗り、肛門から指を入れ引っかかっているウンチを搔き出します。再び指を肛門内に差し込むと、肛門から3㎝ほどのところにまだ大きな塊がありました。

指で固まりに触れながら反対の手でお腹を強く押し、腸内のウンチを肛門に押し出してみます。それに合わせ、指で硬い大きなウンチを壊しながら搔き出しました。

これが原因でした。肛門の大きなウンチが粘膜を傷つけており痛かった模様。硬いウンチの原因は、ムーちゃんの毛繕いです。

毛繕いとは、爪や舌を使って毛並みを整える行為のこと。体を清潔にしたり正常に機能させたりするために、行われます。

ムーちゃんの場合は毛繕いで舌で体毛をいじっていた際に、柔らかく長い自分の毛がどんどんお腹の中に入ってしまった様子。毛は消化されないため絡まり合って大きな塊となり、その周りにウンチが絡み硬く大きくなってしまいました。まるで連結した電車のようなウンチとなり、ひどい便秘状態だったのです。

最悪の場合、病院で毎週浣腸(かんちょう)、手術なんてことも

便秘をなめてはいけません。腸は伸びたり縮んだりする、ぜん動運動によりウンチを肛門まで運び、外に押し出します。しかし、1か所に長時間も大きなウンチがとどまっていると、その部分の腸は伸びきってしまい、太いままになります。するとそこに次々とウンチが押し寄せ、どんどん溜まってしまいます。

指を使いウンチを取り出しても、伸びてしまった腸は細くならないため、いつもそこでウンチが滞ってしまいます。たかが便秘ですが、毎週病院で浣腸(かんちょう)してウンチを掻き出さなくてはならない猫もいます。最悪の場合、伸びてしまった腸を切りとる手術をすることも…。

さて、なぜ便秘になるのか? 

●腸に毛玉が固まって詰まってしまう
ムーちゃんの便秘の理由はこれ。毛繕いの時に大量の長い毛を飲み込んでしまい、その毛が胃腸で毛玉となりそこにウンチが絡み、硬く大きくなり腸で詰まってしまったのです。

●水分不足
猫はあまり水を飲まないため、水分不足になりがち。水分不足になるとウンチは、硬い排便しにくいものになってしまいます。

●汚れたトイレ
きれい好きの猫は、トイレが汚れているだけでウンチを我慢します。そのことにより、腸内にウンチが大量に溜まって便秘になります。

●腸の機能低下
加齢によって腸の動きは悪くなり、腸のぜん動運動が弱まり、便秘になります。肥満も腸の動きを悪くします。

●肛門が痛い
これもムーちゃんの便秘の原因。あまり力みすぎたため、腸が肛門から飛び出す脱肛状態になってしまいました。これはかなりの激痛を伴います。あまりの痛さでウンチを我慢し、便秘になってしまったのです。

便秘の解決策はあらゆるものが存在する

では、便秘にさせないにはどうすればいいか? 方法は幾つかあります。

■水分をとらせる
猫の1日の飲水量の目安は、体重1kgあたり50ml、4㎏なら200mlぐらいです。お風呂の水が好き、流れる水がいい、蛇口からの水がいいなど、こだわりのある猫が多いので、あまり飲まず便秘気味の猫には、水を入れておく器やそれを置く場所、水の温度を変えるなど工夫してみてください。
ちなみにカメレオンは、日々の雨や朝露夜露など口を開けているだけで勝手に水が入ってくるような場所で生息しているので、彼らが水と認識するのは「上から落ちてくる水滴」だけなのです。ただ水を置くだけではなく、水滴にしなくてはならないのでとても手間がかかります。

■ブラッシングをする
毛が抜け変わり始めたら、まめにブラッシングを。毛繕いで飲み込んでしまう毛の量を減らすのです。

■フードを変える
フードによってウンチの硬さは違います。できるだけ「する~」と出るウンチになるフードを探しましょう。それでも出ない時は、たくさんの繊維が含まれた便秘専用のフードがありますので、それを使うのも手です。

■やせる
太っていると腸の動きが悪くなり便秘になりがち。痩せましょう。

いないはずの猫の鳴き声が!?

ムーちゃんから毛の絡んだカチカチのウンチを大量に掻き出しました。大きなものはピンポン玉ぐらいのサイズです。すべて出し終わり、飛び出した腸の粘膜を優しく押し込み、治療はようやく終了。

30分近く肛門の中に指を入れていたので、僕の指の感覚はすっかりなくなっていました。ムーちゃんは、お腹がすっきりしたのでおとなしくなっていました。

ケースに入れ、飼い主さんのもとへ連れて行きました。飼い主さんには、しばらく毎日ブラッシングすることを伝え、便秘用ごはんを処方しました。会計を終え、飼い主さんが帰っていきます。

治療を終えた診察台は、器具とペットシート、ウンチが散らかっており、まるで竜巻が通りすぎたみたい。取り出したウンチを並べてみると、毛でつながったウンチが15㎝にもなりました。

僕が後片付けをしていると、待合室から「ニャ~」と、か細い鳴き声が。あれ? 診察時間も終え、誰もいないはずなのに。

待合室に行くと、ムーちゃんがケースの中から僕を見ています。あれっ、どういうこと?

看護師さんに電話してもらうと、飼い主さんは近所の居酒屋でほろ酔い気分で飲んでる様子。支払いを終え安心した飼い主さんは、フードだけ持って帰り、ムーちゃんを忘れていったのでした。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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