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「群れ」と「集団」の違い、知ってますか? ~ハロウィンが教えてくれたこと~

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

「ヌー」の群れは、みんなにとっていいことだらけ

季節は10月。近所のレストランの植え込みには、大小数個の顔のついた黄色いカボチャが飾られ、その上に骸骨(がいこつ)が座っていました。その景色を見ると、僕はいつも秋を感じます。

そして月末になると、渋谷駅前のスクランブル交差点を、たくさんの仮装をした若者が渡っていく光景が。僕はこの光景を見るとアフリカのウシ「ヌー」の大移動を思い浮かべます。

ヌーは乾季になると、水や餌となる草を求め集団で大移動をします。1対1ならば簡単に狩ることができる最強の哺乳類ライオンでも、群れになったヌーは仕留めることができず逃げられてしまうことも。

そのためライオンは、群れのヌーを襲うのではなく、群れについていけずに遅れた弱い個体を襲っています。つまりヌーは群れで移動することにより、肉食動物に襲われる危険を減らしているのです。

また、みんなが同じところを歩くことにより地面が踏み固まって道がつくられ、1頭で進むよりも移動が楽になります。

その他にもヌーの移動は、アフリカの大地にとっても大事な意味を持っています。ヌーが通り過ぎると、伸びていた草が食べられることにより、短くなって新たな草木が芽吹き、そして大量の糞尿(ふんにょう)は大地の肥料となります。

縄張りがあるために移動が難しいライオンなどの肉食獣にとっても、餌となるヌーたちが自分の縄張りに来てくれることは願ったり叶ったりなのです。

大量に食糧を得た雌ライオンは栄養状態もよくなり、出産、子育ちに役立ちます。もし何らかの理由でヌーの移動ができないと、大地は痩せ肉食獣たちもいなくなってしまうでしょう。

群れをつくる動物たちと、群れをつくる理由

●身を守る点では

比較的見渡しのいい所、例えば草原などに棲(す)む草食獣、ゾウ・キリン・シマウマ・レイヨウなどは、群れをつくって生きています。仲間のたくさんの目があるため、素早く敵を見つけることができるのです。
襲われた時に1頭では弱くても、みんなで協力して戦うことにより肉食獣を追い払うことができます。彼らは群の中心に弱い子供、1番外側に強い雄という配置で弱い個体を守るのです。
シマウマは敵が来ると、円形の陣(戦国時代の方円の陣と一緒)を組み、外側の雄たちがお尻を外に向け、後ろ足で蹴ることで敵に立ち向かいます。群れをつくることによって、自分たちの身を守るのです。

●狩りの点では

ライオンやハイエナなどの肉食獣は、群れで獲物を襲います。皆で協力することにより、効率的に獲物を捕らえることができるからです。
自分より大きく力が強い獲物でも、一斉に襲いかかることにより捕らえることができます。この狩りには優秀なリーダーが必要です。
また、群れで狩りをしていたのは犬の祖先である狼も同じ。犬の散歩は本来、狩りのためなのです。飼い主さん、優秀なリーダーは、あなた? それとも? いや…、これ以上はやめておきましょう。

●繁殖の点では

群れでいることにより、わざわざパートナーを探しに行く手間がかかりません。群の中で見つければいいのですから。さらに、子育てまで群れで協力して行なうこともあります。

群れをつくらない動物たちと、群れをつくらない理由

●身を守る点では

森などで暮らす草食動物たち、例えばカモシカなどは、群れでいるよりも隠れやすく、敵に見つかりにくいという戦略で、群れはつくりません。

●狩りの点では

猫は肉食獣ですが、餌を求めて探し回るのではなく、気づかれないように身を潜め獲物が近づいた時に襲う、待ち伏せ型の狩りをします。そのため、1頭でいるほうが見つかりにくいのです。

●繁殖の点では

子育てに関しても、あまり移動せず隠れながらひっそり育てる動物であれば、群れより単独のほうが敵に襲われる可能性が低くなります。
草食動物が大人になるまで生き残れる確率は20%以下がほとんどですが、霊長類では珍しく群れをつくらないオランウータンは、雌が大人になる確率が94%を超えています。
樹上生活をすることから、敵が少なく、地面より病原菌が少なく、他の仲間からの感染がないのが原因です。それと、お母さんが子供をとっても大事に育てるために、このような生活をしています。その代わり、一生涯に産む子供の数が少ないのです。

そもそも「群れ」の定義とは?

生物において「群れ」とは、同じ目的のための統一の行動がみられる集団のことです。子供からお年寄りまでを含む複数の家系による共同体をいいます。そして、そこにはリーダーが存在します。犬の祖先の狼は、リーダーの指示のもと狩りや休息を行う「群れ」です。

猫はどうかというと、公園で集会を開いていますが、あれは「群れ」…?
公園に集まる猫たちは、餌がもらえる、安全、あったかくて気持ちがよいなどが理由で、特に同じ目的があるわけでもなく、統一の行動もなく、何となくそこにいるので、これは単なる「集団」です。
ただしもしかしたら、雄と雌の出会いの場になる可能性はあるので、このために集まることはあるのかも?

人間は、目的をもって優秀なリーダー(?)のもと統一行動をとり、子供からお年寄りまでを含む複数の家系による共同体は「群れ」です。そのためリーダーの判断ミスにより、全体がとんでもない方向に行くこともしばしば。

渋谷のハロウィンは「群れ」? それとも「集団」?

さて、冒頭のハロウィンに話を戻しましょう。10月の渋谷交差点で仮装する人たちは「集団」? それとも「群れ」?

若者は、各地から仮装をして渋谷に集まります。ここでは仮装による匿名性、普段とは違う自分になることにより、気分が高揚します。

そして、周りと同じ行動をとることでいっそう興奮の連鎖が起こり、大胆な行動をとるように。そんな彼らは「集団」なのか? それとも統一の目的を持って集まった「群れ」なのか?

みんなで集まって大騒ぎをし、ストレスを発散したいという目的がありそうです。とはいっても、果たしてそこまで明確な共通の目的は存在するのでしょうか。

確かに、大人数で集まることにより、敵である“警察”に対抗できます(身を守るため?)。
出会いの場所を求める人もいるでしょう(繁殖のため?)。

しかし、特に目的もなく騒ぎたいから、目立ちたいからなどの理由でしたら「群れ」ではなく「集団」でしょう。どの程度目立ちたいのかも、仮装の方向性も各人バラバラですし。男性全員がナンパ目的、でもないですし。

猫が公園になんとなく集まるのと一緒と考えれば「集団」です。この「集団」では、1人ひとりが役割や義務に縛られず、何をしても構わないという無責任性が生じやすくなります。

やはり渋谷の若者は、明確な理由があってリーダーが存在するような「群れ」というよりも「集団」であり、統一の目的をもって移動するヌーとは違います。

どうやら渋谷の「集団」とヌーの「群れ」は、似て非なるものでしたね。一緒にしてしまって、ヌーさんごめんなさい…。

「ただいま」と家に帰ると、妻の頭にはかわいらしい猫の耳。
神棚には、小さなカボチャがちょこんと供えてあります。
そして夕ご飯はカボチャの煮物と、見事にハロウィン一色。

どうやら我が家は、妻というリーダーが君臨していて、今の時期だとハロウィンの世界観を出すという明確な目的に向かっているようでした。つまり我が家は「集団」ではなく「群れ」のようで。そんなことを再確認した秋でした。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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