高橋君とシャンパンとウーロン茶

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

僕は、世界最高級の“ウーロン茶”を飲んでいました。「コロナも落ち着いてきたんじゃない?」と言う高橋君から、飲み会のお誘いの連絡がきたのです。

早いもので、今年もそろそろ12月。いよいよ忘年会シーズンに突入です。
宴会は好きなのでなるべく参加したいのですが、実は僕“下戸”。僕の身体はアルコールを拒否します。

奥さんと焼肉や居酒屋に行っても、奥さんはチューハイ、隣の僕はノンアルコール。僕の身体にはアルコールを分解する能力がないため、酔って気持ちよくなるより先に気持ち悪くなってしまいます。

若かりし頃はたくさん飲めば強くなれると信じ、吐いては飲んでを繰り返していました。でもいっこうに強くなる気配はなく、どんなに頑張っても強くなることはありませんでした。ビールをせいぜいお猪口に1杯ぐらいで、すっかりほろ酔いになります。

毎日アルコールを摂る動物、人間以外にも結構います。

そもそも、お酒を飲むのは人間だけでしょうか?
実は、アルコールを摂取する動物は結構います。

地球上でアルコールにもっとも強い生き物は、さっきの“高橋君”ではなく“ハネオツパイ”。尾に羽のようなものをつけた、体長15cm程のリスのような、サルのようなとってもかわいい動物です。

ハネオツパイは、自然発酵したアルコール度数3.8%の花の蜜を主食としています。ということは毎食、アルコールを摂取していることになります(さすがの高橋君だって平日は、夕ご飯の時しか飲みません)。

お酒を飲むといっても、基本的には果実や樹液などが発酵したものを食べることによってアルコールを摂取していることになります。
高橋君と違い、動物たちは酔って楽しむために飲むのではなく、たまたま生息地に発酵した食べ物があったため、食べるようになっただけなのです。

「アルコールに強い生き物」と「弱い生き物」の違いとは?

では、ハネオツパイはいつも酔っているのでしょうか?
いやいや、ハネオツパイはアルコールの分解能力がとても発達しているので、全く酔いません。

アルコールは、体内に入るとまず肝臓から分泌されるアルコール脱水素酵素によって分解され、「アセトアルデヒド」という物質に変化します。
このアセトアルデヒドはさらにアセトアルデヒド脱水素酵素によって分解されることで、無毒化されます。


人間でもアルコールに強い人と弱い人がいますが、僕のようにすぐ酔ってしまうのは、このアセトアルデヒド脱水素酵素を持っていない、あるいは酵素が少ないからなのです。

なお、この酵素は“お酒をいっぱい飲むと増える”なんてことはないので、いくら飲んでも強くなることはありません。

高橋君は飲むとず~っとブツブツ同じことを言い続け、まっすぐ歩けなくなります。
しかし、野性に生きるハネオツパイが食べるたびに高橋君のように酔ってフラフラしていたら、あっという間に天敵に襲われてしまいます。
そのためアルコールを日常的に多く摂取する動物たちは、強力なアルコール分解能力を持つように、酔わないように進化したのです。

お酒を意図的にたしなむ動物、います。

一方、たまにしかアルコール度数の高い食べものを口にしない動物は酔います。
例えばヘラジカ。彼らはリンゴが大好きなため、時々発酵したリンゴを食べてしまうのですが、食べた後にフラフラになって木にぶつかったりもします。その様子はまるで蒲田で夜11時過ぎまで飲んだ時の高橋君です。

また、野性のチンパンジーなんかは高橋君と同じように、“わざと酔うために”酒を飲んだりします。
とはいっても、飲むのは新橋の居酒屋で、ではなく、人間がヤシの樹液をとるために設置した容器に溜まった「樹液が発酵して酒になったもの」を飲みます。
そして、酔います。


実際、治療のためにストレスがたまり、食欲の落ちた飼育下のチンパンジー「サトシ」に日本酒を飲ませたことがあります。
最初は日本酒の牛乳割りをあげたのですが、一気に飲んでしまいました。次は日本酒のままあげると、それもグイグイ飲んだのです。
そして飲み終わるとフラフラと千鳥足、そのまま麻袋をかぶり寝てしまいました。
どうやらサトシのほうが、僕よりもアセトアルデヒド脱水素酵素を持っていたようです。

犬と猫はお酒は飲める?

では、はお酒を飲んでも大丈夫?
いやいや、絶対にダメです。犬はアルコールの分解酵素を持っていません。

アルコールの量にかかわらず、口にしたアルコールは無毒化されることなく、そのまま急速に胃や腸で吸収されます。
そして有害物質として長い時間体の中にとどまり、脳に影響を与えて、心臓や肺、血管、肝臓、腎臓などの機能にも害を及ぼすことになります。

じゃあ、猫だったら酒を飲んで平気?
猫も絶対にダメ。アルコール分解酵素を持っていません。
犬も猫もお酒を飲む体になっていないため、アルコールは彼らの体にとって毒でしかありません。

シャンパンに負けないウーロン茶

昨日、今年初めての忘年会がありました。1次会は居酒屋でおいしいお刺身と土手鍋、そして乾杯のビールを1杯だけ飲みました。フワフワした気分で、楽しい会話と美味しい料理を楽しみます。

次は2次会、参加者は5名。僕の身体のアルコールの許容量は限界値に達していたため、ウーロン茶を頼みました。お腹もいっぱいなので、おつまみも食べません。
そんな僕の横にはハイボールを続けて4杯ほど飲んで絶好調の高橋君、お店の人の「シャンパンでお祝いしましょうか」の一言に対して「いいよ、持ってきて!」。
「あ~~~、言っちゃったよ…」とは言えずに、僕は心の中で叫びます。

僕の前にも細長いシャンパングラスが置かれました。
そしていつの間にかグラスの中には、何やらシュワシュワとした飲み物が。
もう飲めない僕は、そのやたらと輝いた液体をそっと隣の人にあげることにし、ウーロン茶をもう一杯頼みました。

結局合計で2杯のウーロン茶を飲みました。
会計を見てその値段に僕は首をひねります。はて、僕はお酒を飲んでいたのだろうか??

そんな僕を高橋君はカラカラと楽しそうに笑いながら見て、「いやぁ~北澤さんは今日もウーロン茶ばっかりだったねぇ!」

やはり僕はお酒ではなくウーロン茶を飲んでいたようです。それも世界最高級の…。
来週も僕は酒豪・高橋君と、最高級のウーロン茶を飲みます。
いや、次は最高級のジャスミン茶にするのもアリかな…??


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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