
ペットを飼ってる皆さん。クリスマス時期に知っとくといいこと、教えます。
[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]
「仕事大変そう。無理しないでね」
長女からのLINEです。
「いつもありがと、寒いから風邪ひかないでよ」
これは次女からのLINE。
「最近炊飯器壊れちゃってさ」
息子からは謎のアピールLINEが。
「お仕事大変ですね、身体に気をつけて、長く働いてね」
「指輪きつくなって指が痛い」(←新しいのを買ってくれってこと??)
最後は妻からの催促LINEが締めくくります。
12月に入って街がキラキラしてくると、僕のもとには家族からのキラキラした(?)LINEが増えます。

クリスマス翌日、朝一番で丸々と太ったトイプードルのトラちゃんが、飼い主の上田さんをグイグイ引っ張って病院に入ってきました。
上田「先生、大変! トラちゃんが…」
北澤「どうしました?」
上田「昨日、クリスマスパーティーを開いたんです。ピザとサラダとフライドチキンとギョーザとカレーとコロッケとエビフライと中トロとしめ鯖とぬか漬け、茶わん蒸し、クリスマスケーキにおはぎ、シャンパンも飲んでね」
上田家は、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、そして元気な4人の子供たちに加えて犬が2匹にネコ3匹、ハムスター1匹の大家族です。クリスマスは、それぞれが好きな食べ物を用意するとのこと。
上田「それで、まずはジェスチャーゲームをしたんです。小学2年生の末っ子が提案してくれてね、お題はトナカイだったんだけど、シカとの違いが難しいみたい。だけどね、とってもうまいのよ」


さぞや楽しいパーティーだったのでしょう。上田さんが続きを喋りだす前に僕は慌てて、
北澤「楽しかったことは、よくわかりました。それでトラちゃん、今日はどうしました?」
とたずねます。
当のトラちゃんは、僕たちの横で尻尾を思いっきり振りながらジャンプをしています。元気はあるようです。特にどこか悪いようには見えません。
上田「そうそう先生あのね、パーティーの後片付けをしていたらトラがゴミ箱を倒して、フライドチキンの骨をくわえたの。取り上げようとしたら、噛まずに丸呑みしちゃったんです」
北澤「どこの骨ですか?」
上田「足の太い骨だと思うの」
北澤「何時ぐらいに?」
上田「う~ん…寝る前だから、夜10時ぐらいかしら」
すでに10時間以上が過ぎていることになります。とりあえずレントゲンで確認です。
北澤「中田さん、レントゲンお願い」
ズシン、ガチャン。何かが倒れる音がして、スタッフの中田さんが診察室の狭い通路の中をあちこちにぶつかりながらやって来ました。
被ばく防止のため鉛の入った重いエプロンと、これまた鉛入りの手袋をつけているので、中田さんの体はロボットのように固くなり、破壊力が倍増しています。
中田さんが倒した点滴のスタンドや椅子を、川端先生が直してあげています。川端先生、僕には厳しいのに中田さんには優しいんだよなぁ…。
鉛の鉄人と化した中田さんはしょんぼりする僕を気にも留めず、トラちゃんの手と足を絶妙な力で引っ張って、撮影の瞬間見事にピタッと体の動きを止めさせました。
最初の頃はしっかり押さえられず、動いて撮り直しばかりだったのに、今では一発で決めてくれます。「中田さんも成長したなあ」と、今度はなんだか感慨深い気持ちになります。
鶏を骨ごと飲み込んでしまった場合はどうする?
レントゲン映像を、スタッフと一緒に見てみました。
ありました、ありました。お腹の中央よりちょっと後ろに白い楕円のものが数個。
すでに胃から小腸に移動しています。
中田「先生、すぐ手術しましょう。取り出さなくては」
中田さんは僕の返事を待たずに、重いエプロンを付けたまま手術の道具を取りに準備室に向かいました。
僕は大声で「中田さーん、大丈夫だよ。この大きさなら、次の次のうんちで骨は出るから! それより、いつまでエプロンと手袋つけてるの? もう外していいよ」
待合室の上田さんを呼んで、診察室でレントゲンを見せながら説明しました。
北澤「この白いのがフライドチキンの骨ですね、このサイズなら勝手に出ますから、放っておいて大丈夫。だけど、もう鳥の骨は食べさせないように気を付けてくださいね」
上田「鳥の骨は食べちゃダメなんですか?」
北澤「空を飛ぶ鳥は体を軽くする必要があるので、骨の中はスカスカの空洞になっています。だから骨は縦方向に割れやすいんです。ただ、噛んで食べると断面が鋭利な状態になって、まれにだけど胃や腸に刺さることがあります。そうなると手術しなきゃいけないんですよ」
上田「まぁ、それは大変。トラったら、丸呑みだったから、まだよかったのね」

すかさず中田さんがアドバイス。
中田「ファミチキにしてください。あれだと、骨がないから」
上田「あらそうなのね。じゃあ今度からはそれに…」
北澤「おっと…、ダメダメ! あんなに味の濃い物あげると、腎臓に負担がかかってしまうから。人間には美味しいものでも、動物には塩分や油分が多すぎなんです。中田さんは余計なことを言わないの」
中田さんは舌をぺろっと出して反省のポーズ。
北澤「あげるのなら、鶏肉を湯がいたものにしてください。だけど、ワンちゃんはバランスの取れたフードであれば、毎日同じものを食べても比較的満足します。あえてリスクのあるもの、身体に害のあるものはあげない方がいいですよ」
もし焼き鳥を串ごと食べてしまったら
「そういえばな、昔、焼き鳥を食べた犬を手術したぞ」
いつの間にか診察室に入ってきていた川端先生が話し始めました。
川端「ボンの野郎な、散歩の途中、落ちてた焼き鳥を見つけて、ものすごい早さで口にくわえたらしいんだ。ボンはデブのミニチュアダックスでな。飼い主さんはあわてて取り上げようとしたんだけど、ボンは逆にとられまいと、長い串に刺さったままの焼き鳥を丸呑みしたんだ」
「ええ~!? 串ごと丸吞みなんて、大丈夫だったんですか?」と中田さん。
川端「家に帰るとボンが全く動かないんで、飼い主さん、慌ててわしの所に連れてきたんだ。その頃はまだレントゲンなんてないからな」
中田「レントゲンがないのに、わかるんですか?」
川端「右のお腹が三角に出っ張ってたからすぐわかったよ。触れるとそこに串があるんだよ。すぐ手術さ」
「ボンちゃんは助かりましたか?」と上田さん。
川端「ああ、胃は貫通していたけど、心臓にも肺にも肝臓にも刺さっていなかったから、一命をとりとめた。焼き鳥なんか拾った段階で放っておいたら、この時みたいに串ごと丸呑みしないで、串だって食べやすく消化しやすい大きさにかみ砕いて飲み込むから、手術をせずに済んだのにな」
上田「大先生、どうしたらいいの? うちのトラ、お外で何か見つけると、とにかくすぐ食べちゃうの。それもものすごい早さで」
川端先生は心なしか、ふんぞり返って答えます。
川端「犬が何か拾って口にくわえたら、力ずくじゃ絶対離さないからな。あいつら、人間が取り上げようとすると、とられまいとそのまま飲み込んでしまいやがる」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」と、上田さんはすっかり困り顔。
川端「そんな時はだな…」
北澤「そんな時は、拾ったものよりもっともっと魅力的なもの、例えば美味しいおやつや魅力的なおもちゃと取り換えっこするのが一番ですよ。だけど、そればかりやっていると、何かもらえると思って、拾い食いするから気をつけてくださいね」
川端先生の視線を感じながらも、最後は僕の話で締めました。

大先生はトラちゃんを抱き上げ、
「金輪際、拾い食いなんかするなよ」とトラちゃんに言い聞かせています。
トラちゃんは構ってもらえてうれしいのか、大先生の顔をべろべろ舐めていました。
家族にプレゼントをあげるという大仕事を終えて12月25日が過ぎると、僕のLINEには家族から一切連絡が来なくなります。
なんだか寂しい気もしますが、それと同時に家での妻からの重圧からも解放されるので、まあ、よしとしよう…。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら
この記事へのコメントはありません。