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危険生物スズメバチ。その生態は興味深い。そしてもっと僕が恐れている生き物は…

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

我々の身近にいる最も危険なオオスズメバチも、冬になればだいぶおとなしくなる

12月に入り、僕は大掃除を始めました。
「もう少し右、そこそこ」
「行き過ぎ! 人の話聞いてるの? ホントに“どんくさい”んだから」
妻の声が近所中に響き渡ります。

妻は家の外から、僕に細かい指示を出していました。僕は2階の窓から上半身を出し、妻の指示のもと、屋根の軒下にある直径70cmの楕円の球体を、物干し竿で突っつきます。

初雪が降った12月、気温も10度を下回り、チャンスがやってきました。チャンスとは、長野の山の中にある我が家の軒下にある球体“オオスズメバチ”の巣の退治です。
11月はまだ、巣から時々黒と黄のシマシマ模様で、お尻に毒針を持つオオスズメバチが出入りしていたため、この時期を待っていました。


物干し竿で叩いてもびくともしません。作戦変更です。竿を巣に突き刺しました。窓から体を出しながらでは、不安定で思うところに突き刺さりません。そのたびに妻からの罵声、いやいや“指示”が飛びます。

15分ほどで何とか突き刺さります。残りの力を全部込め突き刺しました。竿の先は巣を突き抜けドンと鈍い音がしました。
竿の先端を軒下の天井に当ててテコの原理を利用すると、竿と一緒に巣が落ちていきました。

落ちた竿の先が、妻の立っているところへ向かっていきます。ギリギリ頭を避けたのですが、妻のサンダルのつま先をかすめました。2階から覗き込んでいる僕に、妻は鬼の形相で「狙ったよね?」と。

そして落ちた巣からは、1匹のハチがヨタヨタと飛んで妻に向かっていきました。僕への怒りが、オオスズメバチへの恐怖を上回ったのか、妻は素手で叩き落としました。

僕はとにかく急いで落ちた巣と妻のところに向かいます。
クリスマスの前に何という失態をしてしまったのか。妻には狙ってはいないことを告げ、クリスマスプレゼントのランクアップにより、何とか怒りをおさめました。

なぜオオスズメバチは日本でこんなに大きくなったのか

ここからは巣の分解です。巣の中には、まだ20匹ほどのオオスズメバチが動いていました。動くといっても寒さのため、飛ぶどころか移動することも困難なほど衰弱していました。

このオオスズメバチは日本原産ですが、世界最大級のサイズです。日本はエサが豊富で外敵も少ないため、このように大きくなりました。日本人にとって、身近にいる生き物の中で最も危険です。

ただ、オオスズメバチをはじめ、スズメバチの生態はとっても面白いのです。

働きバチのほとんどが雌で、雄はほんの少し繁殖のためだけに存在します。雄にはハチの最大の武器である毒針がありません。毒針は卵を産む産卵管が変化したものなので、雄にありません。

また、産卵する雌は女王バチだけ。働きバチは産卵しないため、産卵管を持たず、産卵管の変化した針だけを持ちます。

巣も子孫も、たった1匹の女王バチが作っている

ハチは生まれてくるほぼすべてが、働きバチになります。この時たまたま部屋が大きく、エサをたくさんもらうことができた雌バチが、女王候補となります。

雄は女王バチ候補が生まれる少し前に、精子のついていない未受精卵からほんの少し生まれます。なんと雄の誕生には雄が必要ないのです。

雄は女王と交尾するためだけに存在します。雄は女王バチ候補が巣から旅立つとあとを追い交尾をします。交尾をすると亡くなります。
悲しいことに交尾できる雄はほんの一部で、ほとんどの雄は女王バチ候補を見つけることすらできず亡くなってしまいます。

交尾した女王候補は精子をお腹にため込んで、木や土の中で越冬します。冬になると女王バチ候補以外はすべて死んでしまいます。
越冬した女王バチ候補は春になると、1匹で巣をつくる場所を探し、1匹で巣をつくり、1匹で卵を産みます。生まれた働きバチを育てながら、巣を大きくします。

働きバチが増えると、働きバチたちに巣をつくらせ、女王バチは産卵に集中します。
僕の駆除した、70㎝超えの大きな巣も、たった1匹の女王バチから始まったのでした。

オオスズメバチがいなくなったら、日本は大変なことになる

毎年刺されて死亡する人が出るほど危険なオオスズメバチ。日本からいなくなればいいのにと思われがちですが、果たしてオオスズメバチがいなくなっていいのでしょうか。

オオスズメバチは地上最強の昆虫で、様々な虫たちを襲い食べています。
しかし、日本でオオスズメバチにより絶滅した生き物はいません。

逆にオオスズメバチがいなくなることにより、ある種の虫が爆発的に増える可能性があります。オオスズメバチが狩りを行うことにより、草や木の芽や葉を食べる虫の数を一定に抑えています。これを「捕食圧による個体数調整」といい、オオスズメバチにより生態系のバランスが保たれているのです。

また、日本に入ってきた外来種を退治する日本防衛隊の役割もあります。

オオスズメバチを観察した後、巣もじっくり観察しました。正六角形のハニカム構造は美しく、いつまでも見ていることができました。

そして、巣のついていた軒下を見上げてみると、あれっ?黒い穴があいている~。
そういえば巣を突き刺した時、ドンと鈍い音がしたような。

妻も僕と一緒に見上げていました。
妻は満面の笑みで「クリスマスは指輪にお財布にバッグ、それと…」

「そんなプレゼントなんかより、軒下の穴をなんとかするのが先だろ?」
それが正しいという自信はありますが、妻にはそうは言えなかったのです。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
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