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13℃の壁――今春のような暖かい時期は要注意。13度を超えると…

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

もしウンチや肛門に米粒状のものがあったら

「先生、うちのミーのウンチの表面に、米粒みたいなものが伸び縮みしているんですけど…」
猫のミーちゃんの飼い主さんから電話がありました。
「ラップに包んでウンチごと持ってきてください」

持ってきたウンチを見ると、米粒のようなものはついていましたが、乾燥していて動いてはいませんでした。
ミーちゃんの尻尾を上にあげて肛門を見てみると、周囲にウネウネ伸び縮みしている米粒がいっぱいついていました。

(あ~間違いない)
北澤「これは瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)という寄生虫ですね。『サナダ虫』の仲間というほうがなじみ深いと思います」
飼い主「え、寄生虫…。寄生なんかされて、ミーは大丈夫なんですか!?」
寄生虫と聞いて真っ青な顔になった飼い主さんに、説明を続けます。

北澤「この寄生虫はですね――」

この寄生虫は猫の腸の中に棲(す)んでいます。楕円形の片節(へんせつ)が1列につながって「きしめん」のような見た目になり、長いものはなんと1mにもなります。この片節の中にたくさんの卵を含んでおり、これが一番後ろから順々にちぎれ、そしてウンチにくっついて排出されます。

これが動く米粒の正体でした。外に出て乾燥すると動かなくなりますが、破裂すると卵がばらまかれます。この卵をノミの幼虫が食べ、卵はノミに消化されることなく幼虫になるまでお腹の中で生きています。
成虫になったノミを毛づくろいの時に猫ちゃんが食べてしまうと、猫のお腹の中で瓜実条虫の幼虫が成虫となり、そして再び片節を切り離し、ウンチにくっついて外に出て卵をばらまきます。


このように棲む場所や栄養を、他の生き物に頼る生き方のことを寄生といい、そのような活動を行う虫を寄生虫と呼びます。瓜実条虫は寄生虫であり最終的に寄生する猫(終宿主・しゅうしゅくしゅ)と、そこに行くまでに一時的に寄生するノミ(中間宿主・ちゅうかんしゅくしゅ)との二か所の住処を利用して生きています。

「ひも男」と「仲良し夫婦」

生き物には、他の生物のお腹の中(内部寄生)や皮膚(外部寄生)にくっつくことで移動したり、その生物の食べ残しを食べたり、またはその生物に近づいてきた生物を餌にしたり、さらにはその生物の強さを利用して身を守ってもらうなど、他の生物を利用しているものがいます。

例えばコバンザメは、サメのお腹にくっつくことによって外敵から守ってもらい、そしてサメの食べ残しを餌としています。サメの方はコバンザメからは何も利益を得ていませんが、コバンザメがついていても特段困ることもないため放っておいているようです。

このように、一緒にいることで片方のみが利益を得ていることを片利共生(へんりきょうせい)といいます。まるで、自分は何もせずに養ってもらう「ひも男」のよう。

魚のクマノミイソギンチャクを住処としています。イソギンチャクの触手には毒があり、触れると体が麻痺してしまいます。
そんな毒への耐性を身に付けているクマノミは、イソギンチャクの中で暮らすことによって外敵から身を守っています。
イソギンチャクはというと、クマノミから餌のおこぼれをもらっています。動けないイソギンチャクにとってみれば、クマノミが餌を運んでくれることは大いに助かります。


このように、一緒に生活することによってお互いに利益を得られることを相利共生(そうりきょうせい)といいます。お互いに協力し合って生きる仲良し夫婦のようですね。

宿主の脳をコントロールできる寄生虫も存在する

怖いのは「寄生蜂」。他の生き物の卵や幼虫・蛹(さなぎ)に卵を産み付け、ふ化した寄生蜂の幼虫は、その卵・幼虫・蛹を餌にして成長していきます。
寄生された生き物は生きながらにして体を食べられ、いずれ死んでしまうのです。
これは捕食性寄生と呼ばれます。
人間で例えるなら、相手の男性を死なせて財産を奪うことを目的とした後妻業のような…いや、やっぱり例えるのはやめておきましょう。

個人的にもっと怖いのは、寄生した生き物の脳を乗っ取ることができる寄生虫です。
有名なのは「ロイコクロリディウム」。彼らは鳥が終宿主の生き物で、鳥の中に棲みつくためにまずはカタツムリの中に入り込みます。
そしてカタツムリの脳を乗っ取り、鳥に食べられやすい行動をとらせます。
自分の欲望のために相手の行動を支配、あるいは洗脳するカップルといったところでしょうか。

瓜実条虫は、宿主の状態によって狂暴化する

さまざまな例を挙げてみましたが、それでは瓜実条虫はどのタイプに当てはまるのでしょうか。

瓜実条虫は終宿主である猫のお腹に棲みつき、栄養をもらっています。そして瓜実条虫がお腹の中にいても、猫は特に不利益を生じません。栄養を奪い過ぎて猫を弱らせたり、殺したりしてしまうと、自分も住処を失ってしまうことになるので、そんなことはしないのです。

また、寄生生物はどんな生き物の中でも生活できるわけではなく、寄生生物と宿主の組み合わせは決まっています。瓜実条虫の宿主は猫と犬なので、その二種の中でしか生活できません。そのため、彼らは宿主である猫や犬の健康を害さない程度に栄養をもらっているのです。ここまで考えると、瓜実条虫は片利共生ということになります。

しかし、自分が棲みついている猫の栄養状態が病気や高齢などで悪化して、この住処が痛んできた、長く棲めないと判断すると、猫の健康に関係なくとことん栄養を奪い取り、猫が亡くなる前にたくさんの卵を外界に出すという戦略に変えます。つまり、片利共生だったのが捕食寄生に変わるということです。強(したた)かですね。

米粒に加え、黒ゴマも指名手配犯のようなもの

もしウンチに米粒状のものがついていたりしたら、瓜実条虫がお腹の中にいる可能性が高いです。そして瓜実条虫に感染したということは、ノミが寄生している可能性があるので要注意。

桜の開花宣言とともに、病院にくる猫ちゃんから小さい黒いゴマのような物が落ちるようになりました。猫ちゃんの様子を見ると尻尾の周りの毛が薄くなっており、掻(か)いた跡がうかがえます。
それらの黒いゴマをガーゼに集め水を一滴かけてみると、ゴマの周りが茶色から赤くにじみます。ノミです。

ここ数日の暖かさが蛹の状態で冬を耐えていたノミを一気に成虫と変え、動き出させたのでしょう。ノミは13℃を超えると活動を始めるのですが、今年は少し早いように感じます。

北澤「これからがノミの季節です。1匹でも見つけたら退治しましょうね。1匹ぐらいと放っておくとあっという間に増えてしまいます。あとは、寄生されないことが一番大事です。いろいろな予防薬もありますので、ぜひ早めに動物病院に相談してくださいね」


ミーちゃんの治療を終えてそう伝えると、
「来年はもっと早くから受診して相談します!」
とミーちゃんの飼い主さんは力強く宣言して帰っていきました。

こんな寄生虫も、存在するのです。

さて少し我が家の話を。
妻に寄生している僕は日々、妻にせっせとプレゼントをします。
彼女がライブに行ったときには、僕は家で彼女からのLINEを待ちます。LINEの通知が聞こえると消防士のように素早く家を出発し、できるだけ待たせないように車で迎えに行きます。

仕事中だって緊急事態でない限り、彼女のLINEは最優先で返事します。客観的に見ても、僕は常に妻に尽くしていると言えるはずです。

えっ、「奥さんからは」って…??
う~ん。あ、行動は支配されています。いやいや操られているとかそんなんじゃないですよ。
愛という素晴らしい利益をもらっています。あまり言葉には出しませんが、愛を感じているので…。
だから操られてなんか、断じてありません!

僕は寄生する側が宿主に利益をもたらし、相手からの利益も求めない、それどころか積極的に利益を提供する珍しい寄生虫で…。

そうこうしているうちに、妻からLINEです。お迎えに行かなきゃ。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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