「うんこ動物教室」~ウンチを真面目に科学する

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

ウンチが美味しいって…??

4月は、フィラリア予防が始まり、狂犬病の予防接種の時期でもあり、動物病院は一年で最も忙しくなります。
動物病院は犬たちにとって、背中に狂犬病の注射を打たれ、首や手から採血をされるなど、とっても怖い場所となります。ブルブル震える、「う~」と唸(うな)って怒る、それぞれ全く反応が違います。

そんな中、7か月のビーグルの「大輔」君がやってきました。診察台にのせてまずは体重を計り、健康チェックの聴診を始めます。
大輔はボクを大好きなようで、「ペロ ペロ ペロ」「レロ レロ レロ」と、僕の顔を舐(な)めまくっていました。尻尾はどこかに飛んでいきそうなほど振っています。

ここ数日ワンちゃんに怒られてばかりのボクにとって、舐められるのは大歓迎です。
そんな診療中の僕を、とっても申し訳なさそうに上品な女性の飼い主さんが見ていました。
「いいんですよ、僕は舐められても、お化粧落ちないから大丈夫」
顔を舐められながら、たずねました。

北澤「食欲は?」
女性「すごくよく食べます」
北澤「おしっこは?」
女性「いっぱい出ています」
北澤「ウンチは、どうですか?」
女性「おいしそうです…」
北澤「ん? どんな形? 硬いとか? 柔らかいとか? とっても臭いとか?」
女性「とっても食べやすい形で、匂いはわかりません」

トンチンカンな会話。

女性「先生、実はこの子、自分のウンチ食べちゃうんです。今、病院の前でも大きなウンチしたんだけど。先生に見せようと取ろうとしたんだけど、ものすごい早さで食べちゃったの」

どうも大輔は、食糞癖(しょくふんぐせ?)があるようで、それも心配で病院に来たようでした。早く言ってよ…。

ウンチを食べる理由は解明されている

何でワンちゃんはウンチを食べるのか? 大輔ちゃんのような子犬がウンチを食べちゃうのは、実はよくある比較的自然な行動です。
子犬はとっても好奇心が旺盛で、周りにあるものは何でもとりあえず口に入れます。そんな子犬にとってウンチは形といい、匂いといい、とっても魅力的なようです。

確かに健康なウンチの匂いはそんなに臭くありません。一方で下痢のウンチはとっても臭く、そんなウンチは、子犬でもさすがに食べません。
また、母犬は子犬のウンチをよく食べます。これもとっても自然な行動で、母犬は生まれたての子犬の肛門を舐めて刺激してウンチを出させます。
またその出たウンチを母犬は食べてしまいます。

巣を汚さないためと、本能として、子犬は一番敵に襲われやすいため、その居場所がわからぬよう母犬が食べて匂いを消すのです。


そんな母親を見ていた子犬は、同じように自分のウンチを食べてしまうのです。子犬の時の糞食は、大人になると自然にやめることが多いです。

他にもまだまだある。ウンチを食べてしまう理由のあれこれ

しかし、子犬でもなく母犬でもないのに、糞を食べてしまうワンちゃんがいます。その理由は様々。

●食事量が足らずお腹が空いて、足りない分をウンチで補う

お腹いっぱいに食べさせればいいのだけれど、それでは太りすぎで病気になってしまうので、少ない食事でお腹をふくらませる必要があります。これが難しい。
どうすればいいかというと、時間をかけて食べさせます。時間をかけて食べると、少ない量でも比較的満足感が得られます。
時間をかけさせるためには、食べにくくすればいいのです。小さく仕切られた大きな餌箱で食べさせる。ドッグフードを粉のようにして食べにくくする。コングなどのペット用のおもちゃの中に、ぎゅうぎゅうにドッグフードを詰める。などなど、工夫が要求されます。

●飼い主さんに注目してもらいたい

ウンチを食べると、飼い主さんは大騒ぎをします。「僕に注目している!」それが楽しくてウンチを食べます。
ですからウンチを食べていても、静かにそっと見守ってください。これはとっても難しいですが。


●ウンチをすることが悪いと思い、ウンチをしたことを隠したいために食べてしまう。

小さい頃にトイレ以外でウンチをした時に強く叱られたために、このような行動をとることがあります。
このワンちゃんは怒られた理由が、ウンチをした場所がではなく、ウンチをしたことが悪いと思ってしまいました。
そこで飼い主さんに怒られないように、ウンチを食べて、なかったことにしようと考えました。
飼い主さんがすべきことは、ウンチを失敗しても怒るのをやめ、トイレでウンチをしたらほめてあげましょう。

このようにまだまだいろいろな理由がありますが、本当のところ、何で食べるのかはわかりません。一番の予防は、ウンチをしたらすぐに片付けるしかありません。

ウンチを食べても平気な時、悪い時

自分の新鮮な健康なウンチを食べても、病気になりません。健康面では全く問題ないのです。

ただし、他のワンちゃんのウンチはダメですよ。寄生虫などの病気がうつることがありますから。

自分のウンチでも古いウンチはダメ。体から出て時間が経つと、いろいろな菌が付着したり、腐ったりすることがありますから。

下痢のウンチもダメ。せっかく体が下痢として体の中の悪い菌を出しているのに、再び体の中に入れることとなってしまいます。

ウンチを食べてはいけないのは、私たち人間の都合なのです。

チンパンジーはウンチの扱いまで賢い

ウサギはウンチに栄養素がたくさん詰まっているために、ウンチを食べます。

チンパンジーも結構食べます。あんなにも賢いチンパンジーですら、ウンチを汚いという認識はありません。足りない栄養分を補うため、などといわれています。

とはいえ動物園で暮らしているチンパンジーの場合、食べている姿や回数などを見ていると、どうも栄養補給のためではないような感じがします。

また、食べるのはまだしも、壁に絵を描くようにウンチを塗りたくります。それも、高い位置の壁に塗ったりします。壁についた乾いたウンチは、なかなか落ちません。まず水で濡らしふやかしてから、デッキブラシで落とします。高い位置のためデッキブラシからの液体やカスが顔や頭に飛んできて、苦労したことが思い出されます。

チンパンジーはウンチを汚いと思わないのに、僕たち人間はウンチが嫌いだということを間違いなく知っています。届きにくい壁に塗るのはいやがらせ、そして時にはウンチを手に持って嫌いな人に投げつけることもありました。

ウンチを食べないと生きていけない動物たち

ハムスターやモルモットは自分のウンチを食べることにより、腸内の微生物が作り出したビタミンBやKを再摂取しています。

ゾウは赤ちゃんの時に、母親や群れの大人のウンチを食べます。ウンチの中には餌となる植物を消化するために必要な微生物がいるからです。生まれてすぐのゾウのお腹の中にはこの微生物がいないため、大人のウンチを食べることにより初めて植物を食べることができるようになります。

竹を食べるパンダも、同様の理由からウンチを食べます。

コアラはユーカリの葉を食べます。ただしこの葉には毒が含まれており、コアラとフクロムササビ以外は食べることができません。盲腸がとっても長く、その中にたくさんの微生物がいて、ユーカリの葉を発酵させ毒素を分解することができるのです。コアラの赤ちゃんはこの微生物をもっていないため、お母さんの糞をせっせと食べてこの微生物を自分の盲腸に棲まわせます。

フィナーレを飾るのは、やっぱりあの動物

フンコロガシは、動物たちのウンチに含まれている未消化の食物を餌として食べます。
食べるばかりではなく、ウンチで家をつくったりもします。フンコロガシの雄はいいウンチを見つけると、逆立ちをして、後ろ足でコロコロと転がしてウンチを運びます。
途中でお気に入りの雌を見つけると、彼女をウンチの上に乗せ、一緒にお気に入りの場所まで連れて行きます。

雄は地面を掘り、その上に運んできたウンチを乗せお家をつくります。
雄は雌を誘い、ウンチの下の小さな部屋に入ります。そこで二人は愛を交わし、ウンチのお部屋に卵を産みます。卵からかえったフンコロガシは、ウンチの家の中で育ちます。
フンコロガシにとってウンチは、生きていくために最も大切なものなのです。


こんなにも大事なウンチ、もしかしたら、ウンチが嫌いなのは人間だけ?
もしあの匂いさえなかったら、こんなにも嫌われなかったのかな。

相変わらず僕の顔を舐めまくる子犬の大輔。
さっきまでウンチを食べていたような。せめてお水を飲んでからにして…。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
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