無駄な抵抗はやめませんか?

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

老いへの抵抗

風呂上りの妻。ソファーに座り、顔に怪しいマスクを着け、爪に何かを塗っている風呂上りの妻。
「最近爪に艶(つや)がないのよね…」
何かボソボソとつぶやいていました。

そのあと、Y字型の先に丸いピカピカでボコボコの球体のついた器具で顔をゴロゴロ。どうもその器具を使うと、重力に逆らえず下がった顎からほっぺを上げてくれるらしい。
我が家には似たような器具がいつのまにか増えている。


「またそんな無駄なもの買って~」
僕が小さな声でつぶやくと、妻の眉間に2本の線が浮き出て、
「誰かが苦労させるから…」
妻の怒りが僕に向かった。爪に艶がないのも、ほっぺが下がるのも全部、僕が悪いらしい。

「私なんか、エステに行ったことないのだから…」
どうも妻の言い分は、エステに行く代わりに自分でするのだから安いということらしい。
「いやいや、昔とかわらず美人だよ」
こんな言葉じゃぜんぜん怒りが収まらない。それどころか、逆に火に油を注いでしまった。

まずい、こんな時はとっておきの一言、
「怒るとマリオネットになっちゃうよ」
怒っている時の口の横のしわが、マリオネットの口のように見える、という意味だ。
この一言で妻は怒りの顔だけはやめる。

足がない。目が見えない。でも元気です。

北澤「ピー太、おはよ~」
ピー太「ワァン ワァン」

診察室のドアを開ける僕。犬のピー太は前足を器用に使いながらスイスイと近づいて来て、僕の前でジャンプ。
でも残念ながら、前足が少しあがるだけ。これがピー太の挨拶。

ピー太は、自力ではオシッコをすることができません。朝の挨拶を終えると僕はピー太を抱き上げ、診察台に乗せカテーテルを尿道に挿入、膀胱(ぼうこう)を優しく圧迫、オシッコを強制的に出してあげます。
ピー太は下半身マヒになり早7年、元気にがんばっています。今回は飼い主さんが法事のため、しばらく預かることになりました。

僕がピー太の世話をしていると、雪さんがゆっくりゆっくりゆっくり近づいてきて、僕の足にスリスリ。これが彼女の挨拶。

雪さんは19才のマルチーズ。心臓と肝臓が悪く、目も白内障のためほとんど、いや全く見えていません。全く目は見えないはずなのに、彼女はボクのいる場所がわかります。

この子たち(といっても、お爺ちゃん、お婆ちゃんですが)とっても元気です。


ワンちゃんやネコちゃんたちにとっては、後ろ足が動かない、目が見えないことなど全く問題ない様子。後ろ足が動かなければ前足で動き、目が見えなければ、他の五感を使って音や匂いを頼りにし、元気に暮らしていきます。また、病気でクヨクヨすることはありません。

人間は動物からもっと生き方を学んだほうがいい

動物たちは失われたものはあっさり認め、残った機能で楽しく、今ある機能を最大限利用して年をとり、とっても幸せそう。

僕たち人間はどうかというと、目が見えにくくなると元に戻そうと頑張り、目が全く見えなくなることにおびえ、足腰が痛くなると、歩けなくなる不安におびえながら生きていきます。

動物たちのように残った機能を精一杯使い、落ちた機能を受け入れて生きていく方がずっと幸せそうに思えます。

そんな僕も疲れを取るため、怪しいドリンクを飲み、関節と目のためのサプリをせっせと飲んでいます。衰えを受け入れることができず、精一杯老いに抵抗しています。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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