• HOME
  • 記事
  • ネイチャー , 動物 , 自然
  • 初夏の風物詩。雌が雄に後ろから抱かれ「キュン」となる[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

初夏の風物詩。雌が雄に後ろから抱かれ「キュン」となる

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

5月頃にヒキガエルが池に集まって何をしているのか

桜も散って木々の緑が濃くなり始めた5月に入ると、僕は長野に住む宮尾さんの家に行きます。宮尾さんは僕より20歳も年上で、人生の師匠であると同時に友人でもあります。

そんな宮尾家の庭にはひょうたん型の畳4畳ほどの池があるのですが、この時期になると、太く短い四肢に三角の大きな頭、口は大きく幅広で、全体の大きさは握りこぶしぐらい、そして赤褐色から黄土色で背中にイボのある生き物が集まってきます。この生き物は日本で生息する固有種のカエルで、最大種の「ヒキガエル」です。

ちなみに、ウシガエルと呼ばれる日本にいるもっと大きなカエルは、人間の手によって外国から連れてこられた外来種となります。

ヒキガエルは普段は水に入る必要がないので、池にいません。林の中や、都市部では公園の植栽などにいます。しかしこの時期のほんの数日間だけ、それぞれの住処から池に集まってくるのです。

それを見るために僕は宮尾家の池に毎年のようにお邪魔しているわけなのですが、そもそもなぜヒキガエルたちは池に集まってくるのでしょうか。それは繁殖のため、つまりパートナーを探すためです。

まずは雌(メス)が集まってきて、その後、雄(オス)たちがやってきます。中には、雌が来る前に先に池に来て待っている雄もいます。雄は、雌を見つけるとすかさずその背中に乗ります。ヒキガエルは体外受精。雌は後ろから雄に抱きしめられると「キュン」となり、思わず卵を産んでしまうのです。これを専門用語では「腋下抱接(えきかほうせつ)」と呼びます。

ゼリー状の透明な管の中にぎっしりと詰まった卵の数は数千から2万近いと言われており、管の長さは3メートル近くにもなります。雄はすかさずその卵に精子をかけ、受精させるのです。

人間の男子諸君、いい雰囲気になったらそっと後ろから女の子を抱きしめてみてください。女の子は「キュン」となるはずです。抱きしめたのに振り払われてしまったら、やり方がダメだったということです。


そう、腋下抱接にもテクニックがあるのです。ヒキガエルの場合は脇(わき)の下を程よい力で押されると、その刺激により産卵がはじまります。脇の下がポイントです。あくまでこれはヒキガエルにおいてのコツなので、人間はマネしないほうが良さそうです。

生まれ故郷に戻って来られる確率は数千分の一の時も

宮尾さんの池では産卵後10日ほどで、卵から3ミリほどのオタマジャクシが出てきます(場所や気温によって孵化(ふか)の時期が異なる)。大人のヒキガエルと比較して、あまりにも小さなオタマジャクシです。

一般にカエルの大きさは、オタマジャクシの大きさと反比例するといわれています(ウシガエルは例外で、オタマジャクシの頃から巨大です)。


オタマジャクシはプランクトン、藻、魚の死骸など食べられそうなものは何でも食べられるのですが、死んだフナに何百というオタマジャクシが群がっている姿にはかなりギョッとします。

そんな彼らですが、まず始めに後肢、そして前肢が出て、6月の初旬にはすっかりカエルの姿になり、雨が降るのを池の中でじっと待ちます。晴れた日に池から出ると、ものの数分で脱水状態を起こして死んでしまうからです。

そして、待望の雨の日に池から一斉に旅立ちを始めます。この時の池の周りは、数百、数千匹の体長1センチにも満たないカエルたちに覆われていて、歩くのも大変。
しかし、この中で元気に生き延びてこの池に帰ってこられるのはほんの数匹なのです。

茨城県つくばの伝統芸能のアレにも関係します

ちなみにですが、ヒキガエルはまたの名を「ガマガエル」と呼び、謎の万能薬「がまの油」を出します。これは皮膚から出す毒液のことで、彼らはこの毒の鎧を着ていることにより、肢が短く、ピョンピョン飛ぶことが苦手でも生きていけるのです。

そんな「がまの油」は、1匹あたりで2ミリグラム取るのがやっと。効能は、やけど・あかぎれ・痔・歯痛などなど。
また、成分の中にはコカインの90倍の麻酔作用、強心作用(心臓の収縮を強くし、心臓を頑張らせること)、血管収縮作用があり、さらに最近では抗がん作用があるという報告もあります。

ある大雨の日、僕は奥さんがキッチンで料理しているところに、後ろから近寄りそっと抱きしめました。しかし奥さんは全く動じず、包丁を持った肘で僕の脇腹を思いっきり小突きます。

あまりの痛さで僕が「ギャッ」。我が家における「腋下抱接」は、雌が「キュン」ではなく雄が「ギャッ」だったようです。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

【北澤功さんの書籍、そして最近ハマっているものをご紹介します!】

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。