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犬が臭いのにはちゃんとしたワケがある

[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]

犬でも嫌いなニオイが、人間は好きなものであることも

僕は最近、妻の愛を毎日感じています。
食べ終えた食器を置きっぱなしにしておくと怒ります。靴下を脱いだまま置きっぱなしでも怒ります。僕に怒る回数は変わりません。
逆に僕の態度に対してのイライラは増しているようですが、愛を感じています。

なぜかというと、僕のパジャマと枕カバーを“毎日”洗ってくれるから。おかげで僕は毎日洗い立てのパジャマと洗い立ての枕カバーで寝ています。世の中のお父さん、こんな幸せな人いますか? うらやましいでしょう。

病院で高齢のお爺ちゃんのマルチーズ「あ~ちゃん」を預かりました。

心臓が悪く、いつも寝てばかり。ヨダレもひどく、寝ていたところには見事に跡がついています。歯は全部で4本、その歯もすべて歯肉炎。時々するくしゃみは、周りに鼻水をばらまきます。病院に来た時は意識が混濁し、歩けない、食べないという状態でした。

1週間ほど点滴をすると元気を取り戻し、少しではありますが食べるようになりました。1メートル進むのに10分ほどかかりますが、歩けるようになりました。しかし、ヨダレに鼻水、おしっこ、そして部屋中には彼の香りが…。

犬の体臭はなぜ発生するのでしょうか?

犬にはエクリン腺とアポクリン腺という2種類の汗腺があります。
エクリン腺は、足の裏や鼻の頭などにあり、そこから出る汗はほとんど水でサラサラしていますが、ほのかにニオイがします。
アポクリン腺から出る汗には、たんぱく質・脂質・アンモニアなどが含まれ、やや粘液性があります。多少ニオイがありますが、この汗自体はそんなに臭くありません。

しかし、このアポクリン腺から出る汗が皮脂とくっつくことにより、酸化とともに雑菌が繁殖して獣臭となります。
人間だと脇の下から出る汗がこれにあたり、腋臭症(ワキガ)の原因となります。

犬は全身にこの腺があるためニオイが出やすいのです。
それ以外にも、肛門に肛門腺と呼ばれる臭腺があり、ここからも強烈なニオイを発します。このニオイは全ての犬で違っており、カツオ節のような香ばしいものだったり、生臭かったりと個性が満点。


犬たちは顔を見て「何とかちゃん」とわかるのではなく、お尻のニオイからどの犬だかがわかります。
会いたくない犬とすれ違う時は顔を隠すのではなく、尻尾を下げて丸め肛門を隠し、バレないようにするのです。

ちなみに体臭がきついというのは、人間の感覚だけであり、犬自身は全く“臭い”と思っていません。犬はうんこのような有機物(生き物から出たもの)のニオイが、嫌ではありません。
むしろ、人間の作った科学的なニオイ、例えばたばこ、酢などのニオイが嫌いなようです。                                                                                                   

猫もニオイがするの? いえ、むしろほぼ無臭です。

犬のニオイは、たまたま人間が嫌いなものだということだけです。
人間のおじさん臭だって、他人が臭いと思うだけで、本人はちっとも臭いと思っていないことがほとんどですよね。

さて、犬は嗅覚が人の数万倍から一億倍といわれています。そのため、例えばウンコのニオイなど数千倍に増して感じているのではと思われますが、ニオイが倍増するというのではありません。
ほんの少しのニオイでも感じ取ることができるということです。何倍も臭く感じるのではなく、精度が何倍もあるということです。

一方で、猫が臭くないのはなぜ?

犬は全身にあるエクリン腺が、猫は肉球にあり、ニオイの元となるアポクリン腺も目や口の周りなどごく一部にしかありません。そのためにニオイがほぼしないのです。                                                     

また、とてもきれい好きで、暇さえあればあのざらざらした舌で毛繕(づくろ)いをするため、体中の汚れが取れて、菌がほとんど増えません。

大好きな日向ぼっこも、太陽の紫外線による殺菌作用をもたらすので、ニオイの発生を抑えます。猫は待ち伏せ型の狩りをするのですが、ニオイがないことは身を隠すのに役立ちます。

とりあえずシャンプーを使っても、ニオイはうまく落ちません

さて、犬の体臭を抑えるにはどうしたらいいのか?
ニオイの元の菌の増殖を抑えればいいのです。

アポクリン腺からの汗と、皮脂や角質、毛が混ざり合ったところに菌が増えると、ニオイが発生します。ニオイを抑えるためには、古い皮脂・角質と毛をなくし菌を増やさないことを目指しましょう。

この環境を作らないためには、ブラッシングが一番効果的。古い毛や皮脂、角質を取り除いてくれます。菌は風通しが悪くジメジメした環境が大好きなのですが、ブラッシングすることで風通しもよくなります。

ブラッシング後にシャンプーをすると一層効果的。頻度は月に1~2回ほどで、ベタベタした皮膚、乾燥した皮膚、赤く痒(かゆ)い皮膚など、それぞれに合わせたシャンプーを使用します。

一番よくないのは、ブラッシングをしないで、皮膚に汚れや古い毛がついたままシャンプーすることです。抜けるべき毛をつけたままシャンプーすると、古い毛が、新しい健康な毛に絡んだまま体に残り、毛球という毛の塊になったりすることがあります。これは皮膚炎をおこす原因にもなります。

さらに、よく乾かさないでほっておいたりすると、きれいにするのとは裏腹に、菌が大好きなジメジメした環境を作り出すことになってしまいます。

皮膚病のときも臭いますので、適切な治療が大事です。
口臭も結構気になります。口臭の元は歯石がついて歯肉炎になることによって発生するので、歯も毎日のブラッシングなどのケアが重要。

あ~ちゃんも毎日のブラッシング、薬用シャンプーによる洗浄をしました。何回も鼻を拭いてあげることもします。治療による歯肉炎の改善もすることで、だいぶニオイの発生がおさまりました。
心臓病の治療もしたので、身体のだるさが減り歩く時間が増え、床ずれも改善されて、菌の発生を抑えているようです。

先日久しぶりに、オンラインではなく、会議室にみんなで集まる獣医師会の会議がありました。
ついつい議題が盛り上がり、場所を変えての会議まであり、帰るのが遅くなってしまいました。
あくまで真面目な会議です。けっして飲み会の2次会に行って大騒ぎをしていたわけではありません。


帰宅後、疲れもありシャワーを浴びずにパジャマも着ないで下着のまま寝てしまいました。翌朝目を覚ますと、般若の面のような奥さんが、「なんでシャワー浴びないの? そのうえ、パジャマを着ないで寝るなんて…」。すごく怒っています。

「あ~あ、今日はシーツと布団カバーまで洗わなくちゃ…。今後の被害は、パジャマと枕だけにしてください」

被害……??

「あなたのニオイ、すぐにしみ込んでとれないから、毎日洗ってあげてるんだから。自分のニオイ、わからないの?」
「はい、僕は自分のニオイに気づきませんでした」

全国の奥様。加齢による匂いは、本人にはどうすることもできないので、あたたかく受け入れてください…。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら

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