
生物絶滅は他人事ではない。人間だっていずれは…
[ 獣医師が教える! 飼うのも動物園に行くのにも役立つ&楽しくなる動物の話 ]
神社で学んだ人間以外の生き物世界の壮絶さ
7月に入り気温が37度を超える日が続き、現在の東京はエアコンがなければ人間が住める場所ではなくなってきています。
小学生の僕は夏になると、学校の帰り道で必ず寄る場所がありました。屋根の一部は壊れ、神主さん、管理する人もいない神社です。まず、そこにある、大きな洞(あな)のあるヤナギの木に向かいます。そこでクワガタを探します。

しかし、この神社に来るのは、クワガタだけが目的ではありません。次に神社の縁の下に向かいます。そこにしゃがみ込んで乾いた土の地面を見ます。
そこには、ペットボトルのキャップぐらいからアイスクリームのカップの蓋ぐらいの大きさの、すり鉢状の穴があります。
その穴を見るために神社に行くのでした。
穴の周りにはアリたちがウロウロしています。そして、その時がやってきます。
アリがその穴に落ちたのです。アリはそこから出ようとしますが、穴の底から乾いた砂がアリに向かって飛んできます。アリは乾いた砂により、足を動かせば動かすほど、穴の底に落ちていきました。
すると、砂の中から角(つの)のような大きな顎(あご)がとびだし、アリを掴み、すかさず顎の先から毒を注入します。そして溶かしながら食べてしまいます。角はアリジゴクのものです。

すべてのアリが食べられてしまうわけではなく、うまく逃げ切る者もいました。ここから、人間以外の生き物の凄さ、残酷さ、美しさを学びました。
僕が初めて見た「獲物を襲う、食べる・食べられる」という、弱肉強食の世界でした。
ずんぐりむっくりでもいい。意味があるからこそかっこいい
子供の頃から、昆虫をはじめ、小動物、爬虫(はちゅう)類、両生類すべての生き物を捕まえて飼うのが大好きでした。僕の人生にはいつも生き物がいます。
よく、どんな動物が好き? と聞かれます。
ただ、すべての生き物は形が違っており、生きていくためにそれぞれ、その生き方に特化した形や生態があるため、すべての生き物が僕にとってかっこよく、畏敬(いけい)の念を抱いています。どんな生き物も好きなのです。
ナシ型の大きな腹部のアリジゴクの姿にも意味があるのです。土の中で生きているため、肛門がほぼ閉じており、幼虫期にはいっさい糞(ふん)を出さず、糞を出すのは成虫のウスバカゲロウになる時の一度だけです。

あの独特の形のため後退だけで、前進はできません。前進しなくても生きていけるのです。形態には意味があり、その意味のある形態がかっこいいのです。
東京では、ほとんどアリジゴクを見ることはできません。
1日に100種、1年間で4万種の生き物が絶滅している
アリジゴクをはじめ、生き物たちが地球上からものすごいスピードで消えつつあります。
地球ができておよそ45億年経ちますが、地球は今までに何回かの大絶滅期を経験しています。
隕石が原因といわれている6500万年前の恐竜の絶滅の時は、地球上の全生物の75%が絶滅したといわれています。
でも現在の絶滅のスピードは、この時よりも速いのです。
絶滅の速度は1000年前は1年間で“0.1種”、100年前からは“1種”。
現在は何と1日に100種の生き物が地球上から消えています。1年間では4万種です。
このペースでいくと30年後には地球上の生物の4分の1が失われてしまいます。
僕のライフワークとして、野生動物の治療、保護をしています。
子供の頃からたくさんの生き物を捕まえてきた僕にとって、野生動物たちを救うことが贖罪(しょくざい:犠牲や代償を捧げて罪をあがなうこと)です。
しかし、実際目の前の生き物を救っても、その生き物が生存できる環境を守らなければ今の絶滅は防げません。地球で起きている大量絶滅の原因は、隕石ではなく、人間の生活による地球の破壊のためです。このままの状態が続けば、絶滅の1種として人間も含まれます。
昔“人間”という2足歩行で、自分の住んでいるところを破壊する“バカな生き物がいたらしい”とならないようにしなければと思います。


子供の頃から生き物が大好き。
“蟻の飼育”から始まり“象の治療”まで、たくさんの生き物と接してきました。そんな経験から生き物の不思議を発信します。
北澤功さんの紹介ページは→こちら
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