クレーム対応は車掌から学べ!〜元J R東日本車掌・関大地〜

[ デジデン編集部の『聞いた、見た、書いた!』 ]

「おい、車掌!出てこい!」 
列車が駅のホームに停車するほんの数分の間にも、乗務員室の扉をドンドンとノックし、拳を振りかざさんばかりの勢いで車掌にクレームを言う乗客が後をたたないという。そんな体験を通して、車掌という職業のプライドについてこっそり教えてくれる本がある。デジタルデンでおなじみ、「英語車掌」関大地先生が9月25日に出版する3冊目の著書『車掌出てこい! 英語車掌が打ち明ける本当にあった鉃道クレーム』だ。 

車掌はものすごく怒鳴られているという現実

基本、列車は運転士と車掌の2名で乗務している。​​関先生が乗務していたJR高崎線は15両編成で、運転士と車掌の間には300メートルの距離がある。(通勤型の車両は一両20メートルだ)ラッシュ時には5000人もの乗客を車内に乗せて運ぶ。運転士と車掌の仕事ははっきり分業されており、運転に専念する運転士、車掌は輸送指令員とのやり取りとお客様対応にあたる。トラブルが発生すると、車掌は状況説明のアナウンスを即座に入れ、指令員と無線でやりとりしながら最短で目的地に到着できるよう瞬時に頭を巡らす。そんな中でのクレーム対応とは、どれほど大変か察しがつくであろう。

よく「車掌さんって花形の仕事だよね」と言われることがあります。子供たちは通過する電車に手を振ってくれ、鉄道ファンもカメラを向けてくれます。表の部分ばかり取りあげられがちですが、車掌がクレームを受けることが多いという現実も伝えなければと思い、今回筆を取りました。車掌という職業に憧れて車掌になっても、「こんなはずではなかった……」と心折れてしまう人が出ないように。この本を読んでクレームの対応力を身につければ、あらゆる困難も乗り越えられる、その思いで執筆しました。これから鉄道会社への就職を目指す方にはぜひ読んでいただきたいと思います。また違う職業の方にも、接客時のクレーム対応に悩んでいる方のお力になれると考えます。

同書は、クレーム対応に悩むすべての方必読の本だ。クレーム対応のノウハウを学べる本は世にたくさん出回るが、この本はノウハウを学ぶだけではなさそうだ。その秘密に迫る。

クレーム対応はノウハウではない。マインドである。

「クレーム対応」と聞くと、つい身構えてしまわないだろうか。女性は特に、男性が大きな声を出すと恐怖を感じ萎縮してしまう。できることならクレームには遭遇せず、平穏に過ごしたいと思ってしまう筆者だが、関先生はこう言う。

「てめぇ、オレは1分でも早く上野に行きてぇんだよ! いくらカネを払ってもいいから早く着きてぇんだ馬鹿野郎!」 車掌になってまだ間もない頃、お客様からこうお叱りを受けたことがあります。事故で列車が遅れ、たとえ特急列車に乗り換えても僕の担当列車と3分ほどしか到着時刻は変わりません。3分のために、特急料金をお支払いいただくのも忍びないとの思いからお客様にそう告げると、怒鳴り声が返ってきました。このドラマについては、著書の中で詳細に書いています。

お客様がクレームを言うには理由があります。お客様がクレームを言わなければならないような背景があるからこそ、このような言葉を吐いてしまう。もしかしたらご家族の体調が悪くて一刻も早く帰らなければならないのかもしれない、決して遅れてはならない大事な商談があるのかもしれない。その方の感情に寄り添い、「なぜこの方はこんな言い方をしなければならないのか」という背景を想像すれば、対応する側の心に「怒り」や「恐れ」は湧きません。

クレームに対し「怒り」や「恐れ」という感情が生まれるのは、「なぜ、私はこの人に怒られなければいけないのか」と自分に焦点が当たっているということなのだろうか。

そうかもしれません。自分ではなく、お客様の感情に焦点を当てます。お客様の話を聞きながら、その方の背景をその方の立場に立って想像します。こちらに非がある場合は真摯に謝罪し、そこで3分というお客様の時間をどう取り戻せるか選択肢を挙げ、一番お客様が喜ぶであろうものを提案します。クレームを言ってしまう相手の心に寄り添い、まずはその感情を解決しようという視点です。そうすれば必ず、相手の怒りを沈静化できます。もちろん理不尽なクレームの場合は、相手の話を聞いて淡々と真摯的に対応します。

自身のエネルギーを「なぜ私はこんなに怒鳴られなければいけないのか」と自分の感情に向けるのではなく、「なぜお客様はこんなに怒鳴ってしまうのだろう」とお客様の背景を想像し、お客様の問題が少しでも解決できるよう対策を講じることに使う。どうやらそこに、「クレーム対応のカギ」がありそうだ。

「教えてくれてありがとう」クレームも前向きにとらえ、前進するだけ

常にポジティブシンキング、周囲に元気をくれる関先生。最強のメンタルをお持ちのように見受けられるが、時には落ち込むこともあるのだろうか。

もちろん、しょっちゅう落ち込みますよ。そんな時は「言われたことを前向きに変換する」ように意識しています。例えば現役で英語車掌をしていた頃のこと。「LとRの発音がなってない」というコメントをいただきました。「なんだよー、そんな細かいこと突っ込むなよ」とは思わず、「英会話スクールに通う手間が省けた、指摘してくれてありがとう!」と前向きに変換し、すぐにLとRの発音を徹底的に練習して直しました。

自分を悲観的ではなく前向きに受け止め、改善策を見つけることにエネルギーを注ぎます。大抵のことは「教えてくれてありがとう」で変換できるんですよ。

このように常に「前向きに変換」することを意識しているからこそ、クレームを受けるたび「どうしたらお客様のお怒りを沈め、よい結果を得られるか」とマインドチェンジし、対応できるのか。コロナ禍で不自由な思いから、イライラがあちこちで噴火しがちな昨今であるからこそ、「前向きに変換」する力が求められている。

関わるすべての人を笑顔にしたい

J R高崎線の車掌を11年半務めた後、現在は作家として活動するかたわら、株式会社PLEASURE HUNTER代表取締役社長を務め、TV出演やTikTok動画配信など多方面でご活躍の関先生。先生はどのような思いで日々仕事と向き合っているのだろうか。

車掌時代からの僕の仕事の軸は「関わるすべての人を笑顔にしたい」という思いでした。列車には毎回違う方が乗ってきます。その出会いはまさに一期一会で、「この車掌さんに当たってよかった」と思ってもらえるような存在でありたいといつも思っていました。英語アナウンスをやるために英語を猛勉強した理由も、外国人の困っているお客様を笑顔にしたいという思いからです。一瞬でも、その方の心を和らげてあげられるような言葉をアナウンスで伝えられたらいいなと。

作家としての活動も同じです。1冊目の『車内アナウンスに革命を起こした「英語車掌」の英語勉強法』では少しでも英語を好きになってほしい。2冊目の『乗務員室からみたJ R 英語車掌の本当にあった鉄道打ち明け話』では、鉄道ファンの方がまだ知らなかったことをお伝えしたい。3冊目の『車掌出てこい! 英語車掌が打ち明ける本当にあった鉄道クレーム』ではクレームや暴力をなくしたい、クレームに悩む方が悩むことなく対応できるヒントを提供したい、と。 

左が一冊目の著書『車内アナウンスに革命を起こした「英語車掌」の英語勉強法』
右は二冊目の著書『乗務員室からみたJ R 英語車掌の本当にあった鉄道打ち明け話』

鉄道をモチーフにした映画を作りたい

 

最後に、関先生の今後の「夢」について伺うと、少しはにかみながらも最近できたという夢について語ってくれた。

映画を作りたいんです。今まで書いてきた3冊の本はノンフィクションですが、鉄道にまつわる作品を書いて、それを映画化したいなと思います。鉄道員のマインド、プライドを伝える映画です。鉄道って身近なものだから、それを動かしている人間のドラマを人々にもっと知ってもらいたい。アニメ化か映画化か、まだ具体的には思いつかないのですが。2作目の著書『乗務員室からみたJ R』も、現役の鉄道マンの方からたくさんのお声をいただいたんです。「よくぞ私たちの思いを代弁してくれた」と言われた時は嬉しかったですね。そんな思いを多くの方に伝え、笑顔が生まれる映画を作る、これが僕の夢です。

関先生は、イケメンである。背が高く笑顔が素敵で、筆者はインタビュー前に妙に緊張していた。インタビュー後、そんな妙な緊張はどこへやら、すっかり関先生のファンになっていた。この方は外見はもちろん、内面が最高にイケメンなのである。相手を思う気持ち、心から相手を笑顔にしたいと願いクレームに対応するその姿勢は、関先生が自らの経験の中で培われたものだという。

映画制作の際、主演はぜひ関車掌にお願いしたいと願う筆者であった。

●TikTok
英語車掌SEKIDAI 【関大地】
https://vt.tiktok.com/ZSawArKu/

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https://lin.ee/HCoaDiq

文責:長島綾子

                                                                             

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