
「覚悟を決めれば人は変われる」を体現する男〜美容師 ミヤザキマサヤ〜
[ デジデン編集部の『聞いた、見た、書いた!』 ]
今回は群馬県高崎市にある「Hair salon LiNO」 のオーナー、ミヤザキマサヤ先生がご登場。日々サロンの仕事に打ち込むかたわらデジデンで毎週記事を書く。現役美容師のコラムは貴重だ。ミヤザキ先生の精力的な活動のヒミツに迫る。
前髪切りすぎちゃった事件

大手サロン勤務時代は「売上全国トップ10入り」のカリスマ美容師。19年のキャリアの中で4万5000人の髪を担当してきたミヤザキ先生。築50年の古民家を自身でリノベーションした隠れ家サロンLiNOは、駅から離れた地にもかかわらずなかなか予約の取れない人気店だ。店内は緑が多く開放的な雰囲気で、カット終了後、どこで撮影しても「バエる」写真が撮れる。
髪を切らせてもらうようになってからすぐのことです。女性の前髪を切りすぎて、お客様を泣かせてしまったことがありました。切った髪は戻らないしどうしていいか分からず、ただただひたすら謝った苦い経験です。
正直、新人の僕には女性にとって前髪がそんなに大事だということが分かりませんでした。僕は、というか男性は、女性の髪型を「前髪」というパーツで見るよりも全体像をとらえる傾向にあるので「前髪の長さ」はあまり意識しないんですよね。だから女性が前髪が短くなりすぎて泣いてしまう姿をみて、「ああ、女性って前髪の長さでこんなにも気持ちが揺れてしまうんだ」と驚きました。
恥ずかしながら、女性の心理がわかっていませんでした。この件以来、女性の前髪を切る時には「1ミリも失敗しない」という覚悟で臨んでいます。
女性にとって前髪は命だ。前髪のスタイリングが気に入らないとその日1日の気分が台無しになってしまうほどだ。女性客が圧倒的に多い職業だから、女性心理などを学校で学ぶ機会はなかったのであろうか。
美容学校では山のような知識や技術を教えてもらうばかりで、女性心理について学ぶ機会はありません。美容師の国家試験に合格してから、全ては現場で学ぶしかありません。先輩からたくさん指導いただきました。
若い頃は売り上げが上がらず、なんでだろう、何がいけないんだろう?といつも考えていました。カットがうまいだけでは美容師の売り上げは上がりません。お医者さんは腕が良くて治してくれれば名医だけど、美容師はそうはいかない。先輩に「僕、何で売り上げが上がらないんでしょう?」と質問したこともありました。
そうしたら、先輩がいきなりペンを落とすんです。「ミヤザキ、どうする?」と聞かれ、拾って先輩に「どうぞ」と渡しました。すると「な、それがダメなんだよ」と。
「えーーー、何がいけないんっスカ?」。そう問い詰める僕に、先輩は落ちたペンを拾ったあと、ペンの周りをササッと大切そうにホコリを払ってから僕に渡しました。女性はほんのちょっとしたことを見ているんだよと。その時は、ただただ目からウロコでした。
現在も8割のお客様が女性というミヤザキ先生。若いころのご苦労は絶えなかったと想像する。
お客さまを知りたい、という思いが原動力

女性心理とは、努力次第で理解できるようになるということなのだろうか?
いまでもひたすら毎日、お客様がどんな気持ちでお店に来てくれるのか感じ取るようにしています。前回来た時はご機嫌だったけど今日は少し疲れている印象だな、今日に至るまでどんな気持ちで過ごしていたんだろう、どんなストーリーがあったのだろうと、お客様を見て、察して、感じるようにしています。
具体的には表情と言葉に意識を向けます。こちらが話を振った時のふとした表情や、返ってくる言葉の選択や声色、ほんのささいなことですが。今日は声にハリがあるなとか、少し曇っているなとか。その反応によって、前回は色々話しかけたけど今回はお客様のペースで過ごしてもらおう、と対応を変えるようにしています。
「お客さまを知りたい」という思いが強いのかもしれません。もともと「髪」が好きというより、人と接するのが好きでした。髪を見るというより、その人をトータルで見て、最終的には笑顔で帰ってもらいたいといつも思います。気づくといつも、お客さまのことを考えています。
相手の要望と髪質、雰囲気に合うようなスタイリングを考えながら、かつ女性の心の動きにも機敏に対応する。職人技と接客業を同時進行することは神業としか思えないが、その原動力は「お客さまを知りたい」という思いだという。その思いが、自身の苦い経験を克服したのだ。
僕も昔は、女性のお客様の前髪が短すぎて泣いてしまう心理が理解できなかったように、男性と女性の視点ってほんと違うんですよね。美容師という職を通じて、女性に「男性の視点」を伝えられる立場でいたいなと思っています。異性の視線って、誰もがなんとなくは気になると思うんです。例えば女性はパーツにこだわるというけれど、男性は部分的なところはあまり見ずに全体像を見ているよ、全体の雰囲気が大切だよ、とお伝えします。もちろん、前髪を切る時は1ミリも失敗しません!
男性美容師に「こうするといいよ」と言われたら、盲目的に従ってしまいそうだ。こんなに頼もしい助っ人がいてくれたら、異性の気持ちがもう少し理解できるようになるかもしれない。
「こうなりたい」という目標を見つけ、それを実現できる人

人のことをこれだけ観察しているならば、
相手の嫌なところも見つけて気になってしまわないのだろうか。
そうですね、気づきます(笑)。でもそこは見ても見ない、気にしません。勤めていた頃は、後輩を指導する時にダメ出しばかりしていました。良くなってほしいという思いから、つい良くないところを指摘してしまう。ある時、気づくと後輩が全然ついてこないんですよ。ああこれではダメなんだと気づきました。いいところに気づいて伝えられる人になろうと。
昔は今よりネガティブな思考が多かったかもしれません。でもネガティブオーラを発している人には人は集まらない、ハッピーオーラに人は集まるんです。「あの人のところに行ったらなにか楽しそう」と思ってもらえるような人になろう、と自分を変えていきました。
質問に対して誠実に考え、言葉を選び、インタビュアーの言葉に必ず「そうですね」と相槌を打つ。言葉数は多くないが、その一つ一つがストレートで裏表なく、ホッと肩の力が抜けるような安心感を与える人だ。笑顔が優しい。この笑顔の裏に、きっと数々の失敗を乗り越えた苦い経験があるのだろう。失敗のたびに考え、こうなりたいと理想を見つけ、それに向けて努力を重ねるミヤザキ先生。そこに人は癒され、隠れ家サロンに足を運ぶのだ。
「透明になる時間」を持つ

日々サロン運営と接客で多忙を極めるミヤザキ先生。時間を見つけて老人ホームへの出張カットのチャリティー活動も行う。将来の夢を聞いてみた。
美容を通じての支援活動を続けながら、仕事の幅を広げていきたいと考えています。まだ模索中ですが、海外でやってみたい。経営者になるとどうしても経営のことばかりになりがちですが、それだけにとらわれたくない。もちろん売り上げは経営者としていつも考えていますが、そこから離れて「透明になる時間」を確保したい。それが僕にとって支援活動にあたるかなと。
今はなかなか行けないけれど、バックパッカーに憧れて若い頃は旅していました。山登りも好きななので、いつかマチュピチュやネパールの山奥にも行ってみたいです。
大きなバックパックを背負い、真っ黒に日に焼けて、青空のもと現地の人たちの髪を切る姿が目に浮かぶ。「透明になる時間」そんな時間があるからこそ、毎回新鮮な気持ちでお客様と接することができるのかもしれない。
デジタルデンで文章を書くようになったきっかけは「やったことがないからやってみたい」という思いからでした。いままであまり文章を書く機会がなかったので、最初の記事を書き上げるには3週間もかかってしまいました。少しづつ慣れてきましたが、今でもやっぱり緊張します。これからも美容師としての生の声を、みなさまに発信していきたいと考えています。
これからもぜひ、現役美容師の生の声をデジデンに届けてほしい。「覚悟を決めれば人は変われる」。ミヤザキ先生はそれを体現する人だ。失敗を恐れず、失敗した経験からどんな人間になりたいかを考え、ひたすら前に突き進む。理解に苦しむ異性の心理は感じるチカラが大切で、感性も鍛えることで成長するということを証明してくれた。男性美容師はモテるという勝手なイメージがあったが、それは努力の結晶なのだ。
ミヤザキ先生Instagram
https://www.instagram.com/lino_miyazaki/
Hair salon LiNO
https://beauty.hotpepper.jp/slnH000373438/
文責:長島綾子
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