
プロ野球選手という生き方〜群馬ダイヤモンドペガサス 中道大波選手〜
[ デジデン編集部の『聞いた、見た、書いた!』 ]
プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグにおいて、2021年リーグ優勝を勝ち取った群馬ダイヤモンドペガサス。そこで活躍する中道大波(なかみちひろなみ)選手は、現役プロ野球選手でありデジタルデンで執筆も行う。小学4年から野球を始め、野球の名門帝京高校に入学、3年生でキャプテンを務める。
「僕から野球をとったら何も残らない」と言い切る中道氏は「優勝」を手にした今、何を考え、日々どのように過ごしているのだろうか。24歳の中道大波の現在、過去、そして未来を聞いた。
ラスト1年「これで結果を出せなければ野球を辞める」という決断

まだ優勝してから1カ月しか経っていませんが(取材は11月前半に実施)、もう何年も前の出来事のような気がします。というのも、優勝が決まった後、チームメイトがドラフト会議でプロ野球の12球団から指名されました。なぜ自分は選ばれなかったのか、自分に何が足りなかったのかについて考える時期でもあったんです。
同時に、野球を続けるか、辞めるか、という選択に迷いました。もう優勝できたし、これで終わりにしてもいいのではないかと。続けるか辞めるの2択で、他の選択肢はありませんでした。
野球人生を支えてくれた両親に相談すると、これで終わって後悔しないのかと問われました。「中途半端じゃ終われねーな、ここで辞めたら後悔するな」と思い直し、現在に至ります。
僕の人生、野球しかない。「中道大波=野球」で、僕から今野球を取ったら何も残りません。
ラスト1年と決めています。ダラダラ続けても中途半端になるだけ。この1年で12球団に行くことができなければ野球を終わらせると決めました。来シーズンは何がなんでも、NPBに行きます。
父が怖いから練習した。逆らうこともできなかったコワイ父の存在

とにかくコワイ父でした。幼い頃から野球をやっていた父は、甲子園出場経験のある高校の4番バッターでした。野球関連の仕事をする父に「プロ野球選手になりたいんだ」と切り出すと、そこから僕の人生は激変しました。中学から硬式クラブチームに所属し土・日・祝日に練習したのですが、それでは練習量は足りません。中学時代には学校から帰ると「出禁」を命じられ、毎日仕事帰りの父からランニング・素振りの猛特訓を受けました。それでも隙あらばスーッと抜け出し遊びに行っていた僕は、バレる→猛烈に怒られる→また遊びに行く→また怒られる、の繰り返しでした。
父は今でも僕の出る全試合、全打席をYouTubeで見ています。離れて暮らしていますが、しょっちゅうこの打席はああだった、と連絡してきます。小さい頃からずっと一緒に練習してくれた父、ずっと僕を見てくれている父なので、父は僕にとって師匠とでもいう存在でしょうか。コワイんですけどね、決して理不尽に怒る人ではありません。父の言うことは絶対だと思っています。
中2で転機が訪れる。自主的に練習しようと思ったきっかけ

「今日は練習したくない」という日はもちろんありました。でも練習をしなかった日はありません。はじめの動機は「父がコワイから」でしたが、中2の冬くらいから自分の意思で練習するようになりました。
というのも、中2の夏、全国高等学校野球選手権大会で日大三高が全国制覇したんです。その時「わっオレこの学校行きてぇな」と思いました。そこで初めて「今の自分に何が足りないか」と考えるようになったんです。頭も良くないし勉強では入れない、ならば真剣に野球をやるしかないと。
それから練習もみずから進んで始めました。どんな野球選手になりたいか、そのためにどのような練習が必要か。練習メニューも当時から自分で考えていましたね。うまくいかないと思ったら「同じことを続けてもダメだ」という発想で変化を持たせました。そのような思考を誰かから教わったか記憶はないのですが、やはり育った環境のおかげかもしれません。「やれ」と強制されるような家庭ではありませんでした。父はコワかったけれど。
祖父との関係とTAMAZAWAとの出会い
父のお父さんであるじいちゃんは、僕にはすごく優しかったけれど、父にはものすごく厳しい人でした。そんなじいちゃんも野球が好きで、僕がまだ野球を始める前から一緒にキャッチボールをして遊んでくれました。土・日や夏休みは一人でじいちゃんのところに遊びに行くほどのじいちゃん子でした。
そんなじいちゃんが、高校で使うようにとグローブをプレゼントしてくれたんです。 TAMAZAWAというメーカーの黄色いグローブ。それから僕はずっと、TAMAZAWAの黄色いグローブを使っています。TAMAZAWAのグローブといえば、長嶋茂雄氏や王貞治氏が活躍した時代に最先端だったグローブで、「TAMAZAWAといえば黄色」という風潮が当時あったらしく、じいちゃんは黄色のグローブを買ってくれたのだと思います。それからずっとTAMAZAWAの黄色いグローブを使い続け、3年前にはTAMAZAWAとスポンサー契約をさせてもらいました。今では「中道モデル」として、僕が使っているバットやグローブの型を商品化してくれています。

TAMAZAWAと僕を繋げてくれたじいちゃんは、僕が帝京高校の合格証明書を見せたその夜に亡くなりました。10日前から危篤状態のじいちゃんは、僕の合格発表まで待ってくれていたんです。
今季のクライマックスシリーズでホームランを打ったのですが、そのホームランボールは真っ先にじいちゃんの家に送りました。
不安になったら「夢が叶わなくなる」と逆に不安になる
父から褒められたことはありません。それでもなぜモチベーションが続くのか。そうですね、褒められるためにやっているわけではないけれど、「褒めざるを得ないような状況を作ってやる」とは思っていました。例えばホームランを1本打って、「打ったよ」と伝えると「あと4本打て」と言われる。「じゃあと4本打ってやるよ、そしたら何も言えねぇだろ」と。反骨精神というのでしょうか。いいことなのかどうかは分かりませんが。
たとえ失敗しても、それを引き出しとして持っていようと考えます。「いつか使えるっしょ」と。ミスしても特に後悔もなく、むしろ経験できてよかった、と思っています。今は後輩に指導することも多くなりましたが、ミスした経験が役立っています。
自分が出た試合の動画も、打てなかった打席は見返しません。いいところしか見ない。悪いところを減らずのは難しいし、ならば長所を伸ばそうと思っています。「オレって超スーパーポジティブ」と思います(笑)。
これからの野球人生についての不安、ですか? 「どうなるんだろう」と思うことはありますが、あまり深く考えたことはありません。やると決めたからにはやり抜く。不安に思ったら夢が叶わないんじゃないかと逆に不安になります。ラスト1年野球を続けて上の舞台に行くと決めたので、今はそこしか見ません。流されやすい性格なので、別の誘いがあるとそっちもいいなと思ってしまう。だから情報を入れない、見ないようにしています。すぐに逃げたくなってしまうので、逃げ道を作らないようにしていますね。

経験から引き出し、やりとげるチカラ
オフシーズンに入り、今は平日の朝から夕方まで自主練に取り組んでいます。メニューも全て自分で組み立てます。監督もコーチもたまに見にきてくれますが、基本自分との戦いです。冬のトレーニングが来年のパフォーマンスに全て影響する、冬のトレーニングが一番大切だと経験から知っているので、絶対手を抜きません。グラウンドにスマホと三脚を持ち込み、自分のフォームを録画してチェックします。「誰かにチェックしてもらわず自己流でいいの?」と聞かれることもありますが、これだけ長く続けていると自分の変化も分かるので、こういう時はこれをやろう、と経験から引き出しやっています。
練習後、グローブもツヤッツヤに磨きます。自分の体も大切な仕事道具なので、体のメンテナンスも意識して行います。以前デジタルデンの記事でも書いたのですが、バットを持った時に爪の長さによって力加減が変化するので、爪の手入れは欠かせません。爪は切らずに「整える」感覚で、ヤスリや電動のネイルケア用品を使ってていねいに整えます。長く野球をやっていると体の変化にも敏感になりますね。
アスリートだからササミや玄米を、といった食生活にこだわりはなく、カップラーメン大好き、アイスもめちゃくちゃ食います。料理が好きで、昨日はタンドリーチキンを作りました。食べたいなと思ったらレシピを調べて作ります。好きなものを好きな味付けで食べられるので、シーズン中も料理が苦だと感じたことはあリません。
好きな食べ物はカレー。バーモントカレー甘口派です(笑)。

2022年、中道大波の決意
今年は自分自身でもうまく行き過ぎたと思っています。自身の結果も良かったし、チームも優勝できた。来年はそんなにうまくいくはずないと思っています。地に足をつけ、浮かれている暇はありません、今まで以上に気を引き締めてやります。今年の優勝がマグレだとは絶対に言われたくない、そのためにも結果が全てです。結果を出すためには練習する他ありません。
今まで野球を続けてきたけれど、正直、よかった事なんて数えるほどしかないんです。9割は辛いことです。でもその分、残りの1割がとてつもなく幸せに感じるんですよね。ここまで続けてこられたということは、やはり僕にとって野球は特別な存在です。必ず、やります。
いつの時代もプロ野球選手は憧れの職業であり、夢を叶える人はほんの一握りだ。特別な身体能力や精神力を持つ人だけが叶えられるのだとつい考えてしまう。
中道選手は「努力を継続させる工夫の達人」だ。流されやすいと自身で分析するゆえ、決めた目標以外の情報は遮断する。自分の心に迷う隙を与えず、「不安になったら夢は叶わない」と不安を寄せつけない。なりたい姿から逆算して今やるべきことを考える。失敗は「いつか使えるっしょ」と無駄と思わず大切に引き出しにとっておく。
今の時代に生まれて、一つのことだけに集中し、他の誘惑に目を向けないことほど難しいことはないのではなかろうか。
「超スーパーポジティブ」などと自身を表現するが、試合前は緊張し吐き気をもよおすこともしばしばという。そんな時は大声を出し、パフォーマンスで緊張を吹き飛ばす。
「意外に乙女なところもあるんです」とはにかむ笑顔は、女性心をクスぐる魅力満載だ。
来季の中道大波選手から目が離せない。
群馬ダイヤモンドペガサス公式HP
(文責:長島綾子)
【中道大波選手の紹介はこちら】

プロ野球「群馬ダイヤモンドペガサス」の中道大波です。「大波」と書いて「ひろなみ」と読みます。字の如く、今後プロ野球界でビッグウェーブを起こしていきたいと思いますので、皆さん応援よろしくお願いします♬
中道大波さんの紹介ページは→こちら
【ライターの紹介はこちら】

デジデン編集部・取材ライター。
18年CAを経験後、ライティングを学び現職。初めて取材した花火師の記事がnote主催コンテストにて入賞に選ばれる。長島綾子さんの紹介ページは→こちら
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