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人気絵本作家そらが「心の中のハリネズミと向き合う理由」

[ デジデン編集部の『聞いた、見た、書いた!』 ]

今回は20年以上独学で絵を描き、北海道を拠点に活動する絵本作家・イラストレーターのそらさんがご登場。
JR北海道ICカード乗車券「Kitaca」のキャラクター「エゾモモンガ」デザインをはじめ、ニベア限定缶デザイン、江崎グリコ「ハッピービスコ」のデザインなどを手がける。そらさんの作品を誰もがどこかで手に取ったことがあるであろう、超売れっ子作家だ。

インタビュー前日には、制作に1年かかったアニメーション映画のアフレコを撮り終えたそらさん。札幌国際短編映画祭2021にエントリーしたこの作品、映画のタイトルは『ハリネズミの愛』。10分のショートムービーだ。

「これを描かずには次に進めない作品」と言うそらさんの『ハリネズミの愛』に込めた「思い」に迫った。

人の心には「ハリネズミ」が棲んでいる

心にチクチクと刺さる、なんともいえない感情の存在に気づきながらも、その正体がなにか分からず時が流れるという経験はないだろうか。大切な人に想いを伝えられない、伝わらない、自分の無力さや心の葛藤。そんな心の機微を表現したのが映画『ハリネズミの愛』だ。

私は絵本作家のかたわら、映画の制作やアニメーション映画の制作も手がけています。
3年前『私の中のハリネズミ』というドキュメンタリー映画をつくりました。「40代にさしかかる、人生に迷いながらも描き続ける絵本作家そらのドキュメンタリー映画」なのですが、札幌国際短編映画祭2018で「北海道メディアアワードグランプリ」を受賞しました。北海道やフランスで撮影したこの映画の中で、私はずっと「ハリネズミ」の絵を描いています。なんでこんなに「チクチク」したものを描いてしまうんだろう、私の心の中にハリネズミらしきものが棲んでいるのかなと思いながら、その正体が分からないままでした。

それから3年経ち、「私の心に棲む『ハリネズミ』を作品にしなければ」という思いにかられて制作したのが、この映画『ハリネズミの愛』です。心の中の暗い部分に潜む想いを形にしなければ、次に明るい作品を描いてもウソになると思ったのです。制作には1年かかりましたが、自分の中の「ハリネズミ」に気づいた前作以来、3年間ずっと、心の闇と向き合ってきました。
自分の弱さやエゴと対話するって辛いですね。その状況でも心の平穏を保つため、あまり人と連絡を取らずに作品の世界とじっとりと向き合いました。

みんな、「お母さん」から生まれてくる

『ハッピー・マインド〜ずっと、君のままで。~』 著者 そら/ 青春出版社

仔犬のような愛くるしさと好奇心旺盛さを兼ね備えた瞳、艶めく弾むような声。老若男女問わず誰もが会ったとたんに恋をしてしまいそうな女性だ。常に笑顔を浮かべながら、繊細な思いを語っていく。

「ハリネズミの愛」は母を想って作った作品です。幼い頃毎晩必ず、母は絵本の読み聞かせをしてくれました。三人兄弟一人一冊、母を取り合うように寝っ転がって三冊読んでもらいました。三歳くらいの記憶でしょうか、母が絵本のタイトルの後「さく、え」って言うのが気になって「さく、えってなに?」 と聞くと、「絵本を作る人のことだよ」と。「絵本って人が作っているんだ、こんなステキなモノを作れるんだ! 私も絵本をつくる人になりたい!」と思いました。同じ頃、父が真っ白な紙に色鉛筆でお花を描いてくれて、それが写真のように美しくて「人の手ってすごい」と実感しました。小学校にあがると、自由研究で毎年絵本を制作しました。六歳で作った最初の一冊目は私が絵を描き、母が製本してくれたものです。絵本と母、絵と父。それが私の絵を描く原点です。

幼い頃抱いた夢を実現し、目覚ましいご活躍のそらさん。なぜ今回ハリネズミのような心の「チクチク」を作品にしたのだろうか。

小さい頃から抱える、もしくは人生を通じて抱えた消化できない思いってありませんか。苦しんで悲しんで、どうしていいかわからずにただお腹の底に溜まってしまった思い。それを取り出して描いたのがこの作品です。大切な人の悲しみがいつか愛に変わることを、心から願って描きました。

誰もが「お母さん」から生まれます。この作品は、私も、そして一緒に制作を手がけたアニメーションの方もギタリストの方も、みんな自分の「お母さん」を想って手がけてくれました。
一人ではとてもできなかった作品、みんなで生んだ作品です。

R指定にしようかとまで考えた

17年間、子供たちに絵本の読み聞かせ活動も行なっているそらさん。コロナ禍でも読み聞かせを届けたいと昨年YouTubeチャンネルを立ち上げた。『ハリネズミの愛』制作において、子供たちに「人の心の影の部分」を伝えて良いか悩み続けたという。断っておくが、もちろんこの作品はR指定などにする作品ではない。にもかかわらず、そらさんが悩むには理由があった。

作品には光と影があると知りました。爽やかでなんの苦痛もなく見られる作品と、ぐっと重い作品。今回の『ハリネズミの愛』は後者で、そんな心の暗い影の部分を子供たちに見せていいのか、これを見た子供たちがトラウマを抱えてしまったらどうしよう、ってずっと悩みました。伝え方を一つ間違えてしまうと、人を傷つけてしまう。

でもある方から言われたんです。「本当に相手のことを思って作った作品は、相手のことを傷つけることはない」って。そのとき、ああそうか、と救われたように思いました。

3年前のドキュメンタリー映画『私の中のハリネズミ』を上映した時、映画をご覧いただいた方からたくさんの共感メッセージをいただきました。「わたしの中にもハリネズミがいます」「これでいいのかなと毎日迷っています。今のオレと重なりました」と。この時も影の部分を作品に表現して受け入れてもらえるのか悩んだのですが、この作品を通して、人と痛みも共有できることを知りました。

受け入れること、それこそが「愛」

『パンダ星』 作・絵 そら/ 学研プラス

そらさんは言葉の響きに敏感だ。聞くと、言葉選びを間違えて相手を傷つけてしまわないよう意識しているという。
そらさんと話をしてたびたび出てくる言葉があった。それが、「受容」だ。

「あの時相手を『受け入れる』ことができればよかったのに」と悔やむことがあります。人はみんな、悲しみや辛さをただ受け止めてもらいたいのかもしれない。痛みも苦しみも「大丈夫だよ」や「ごめんね」と受け止めてもらうことで、心がすっと楽になるのかもしれないということを、年齢を重ねるごとに知りました。

『ハリネズミの愛』。この作品は「私の愛がこういう形だったらいいな」という願望も含んでいるかもしれません。人は心の中になんとなく消化されない「チクチク」を抱えていて、それを誰かにそっと受け入れてもらえたら、心は愛で満たされるのかもしれません。今はまだ作品を皆さまにご覧いただいていないので、「描きあげた」という感覚がありません。作品をご覧いただき、その人なりに作品が咀嚼された時に初めて「完成した」と実感し、私の心に何かが生まれるのだと思います。皆さまに作品をご覧いただくことが私の今の願いです。今年の札幌国際短編映画祭2021に応募した作品、選ばれないとご覧いただけないので、今は「皆さんにご覧いただけますように」と願っております。

「今回のインタビューで私がまだ気づかなかった思いに気づくきっかけをいただきました」と、インタビュアーにも配慮くださるそらさん。そらさんは「受容」の人だ。それは、悲しみや苦しみを自身で乗り越えた人でないとできないことだ。

『ハリネズミの愛』。この作品は、あなたの心にひっそり棲む「ハリネズミ」を優しく受け入れてくれる。どんなあなたもそれでいいんだよ、とギュッと抱きしめてくれる作品だ。

    

短編映画「ハリネズミの愛」特設ページ
https://www.sora-office.com

札幌国際短編映画祭2021HP(オンライン開催もございます)
https://sapporoshortfest.jp

 ​文責:長島綾子

                                                                             

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