モナ・リザのケーキ事件から学ぶアートの意義

[ 天才ダ・ヴィンチに学ぶ人生の極意 ]

世界を騒がした『モナ・リザ ケーキ』事件

2022年5月29日、ルーヴル美術館で事件が発生しました。
世界的な名画であるレオナルド・ダ・ヴィンチ作『モナ・リザ』に、ケーキが投げつけられ、白いクリームが塗りたくられたのです。といっても、絵に直接ではなく、『モナ・リザ』はガラスケースに覆われているため、その表面が汚れただけで、幸い絵の損傷は免れました。

事件を起こしたのは、36歳の男性。この男はウィッグをつけて高齢の女性に扮し、さらに身体障害者を装って車いすで『モナ・リザ』に近づきました。すると、突然、車いすから飛び降りて保護ガラスを割ろうとした後、服の中に隠していたケーキを投げつけるという暴挙に出て、今回の事件となりました。

男は、全身白の服装に赤いマフラーをしており、辺りにバラを撒き散らすという演出もしていました。文化財損害未遂の容疑で拘束されましたが、男は連行される際に両手を挙げて自身の振る舞いをPRし、フランス語でこんなことを言い放ちます。

「地球を破壊している人たちがいる。すべての芸術家よ、地球について考えよ。だから私はこれをしたのだ」

「地球を破壊している人たち」とは誰のことか、具体的なことはわかりませんが、芸術家に向けたメッセージであることはわかります。そして、芸術の象徴である『モナ・リザ』がその標的にされました。本人の奇行から推察するに、ただ目立ちたいがための犯行で、もっともらしく聞こえる大義名分を語っただけなのかもしれません。ですが、これを1つのきっかけとして、芸術の果たす役割を立ち止まって考えてみたいと思います。

アートの意義

世界にはたくさんのアートが存在し、人類が存続する限り、きっとこれからも無数に生み出されていくでしょう。そもそもアートはなぜ存在するのでしょうか?

何かを創造する行為は人間に与えられた特権といっていいでしょう。人は自己表現の手段としてアートを利用します。自分らしさを形にし、紡ぎ出した美的感性や、何かしらのメッセージを伝えます。ダ・ヴィンチが活躍していたルネサンスの時代に生きた画家たちは、遠近法が絵画に導入されたことで、本物のようなリアルさで美を描くことに注力していました。しかし、カメラの発明に伴い、写真が登場すると、リアルさの追求から絵画にしかできないことへ表現方法が劇的にシフト。その結果、登場したのがモネやルノワールを代表する印象派であったり、抽象画、そして新しい概念を提示するコンセプチュアルアートが生まれました。現代アートと呼ばれる作品は、一見何を意味しているのか分からない場合もありますが、これまでのアートにはなかった新しい世界の見方を提示しています。

アートは優れた美的感性で人を感動させると同時に、時には自分では思いつかない新概念を届けて発想を広げる役割を果たしている。

これは、私の個人的な見解ですが、この2つのポイントを抑えて作品を眺めてみると、きっと何かしらの気づきがあると思います。

ニューヨークで見た意外なアート

10年以上前の話ですが、ニューヨークのチェルシーにあるアートギャラリー巡りをしていた際、斬新な展示に出合いました。
(2009 – Chelsea Art Museum – “Pencilism” – New York, USA)

Federico Uribeさんという方の作品で、ホームページから作品を閲覧することができます。
wordpress1 | Just another WordPress site (federicouribe.com)

作品のコンセプトには、Pencilismという単語があり、直訳すると「鉛筆主義」。
これは何かというと、色鉛筆で絵を描くのではなく、色鉛筆自体が作品に組み込まれているというものです。

私がこの作品を見たときの最初の感想は、「こんなに描かずに使われる大量の色鉛筆がもったいない、資源の無駄遣いをしている」という批判めいた気持ちがありました。これはまさに、『モナ・リザ』にケーキを投げつけ、「芸術家は地球を破壊している」と言った変装男性と近いものがあるかもしれません。

しかし、アートの意義に照らして再考すると、鉛筆は「描くための道具」であったのが、「それ自体がアートの一部になる」という誰も思いつかないような発想の転換が起こっています。このような新しい視点を投げかけることがアートの役目の1つであるならば、世界にまた1つ新概念を提供したという意義ある作品といえるのではないでしょうか。

男の横顔と鳥 Federico Uribe

モナ・リザ逆境の歴史

さて、話を『モナ・リザ』に戻しましょう。世界で最も有名な絵画である『モナ・リザ』は、これまで何度も無法者の標的になってきました。今から100年以上前ですが、ルーヴル美術館に飾られていた『モナ・リザ』は、1911年に盗難事件に遭っています。犯人はルーヴル美術館に出入りしたことのある業者だったのですが、フランスからイタリアに『モナ・リザ』を取り戻すという愛国心を語っていました。名画を売り飛ばして大金を手にしたいという思惑もあったでしょうが、やがて捕まり、2年の歳月を経て無事ルーヴル美術館に戻ってきました。

その後、1956年には酸をかけられたり、石を投げられたりして損傷したことがきっかけで、強化ガラスケースに入れられることに。ルーヴル美術館には何万枚も作品がありますが、ガラスケースに入れられた作品は唯一『モナ・リザ』だけです。

2009年にも、『モナ・リザ』にコップを投げつけた事件がありましたが、ガラスケースに入っていたため無事でした。

『モナ・リザ』はかつて、国外に貸し出されたことがあり、1974年に来日しています。世界的な名画を一目見ようと、151万人という日本人が長蛇の列をなして押しかけました。『モナ・リザ』の保存状態を考慮して、今後は国外はもちろん、ルーヴル美術館の外に出る可能性は極めて低いと言われています。世界の至宝である『モナ・リザ』を、今後も守り抜いていってもらいたいものです。


『超訳ダ・ヴィンチ・ノート』(飛鳥新社)を出版し、
発売2週間で重版。翌年の2020年には、韓国語版も出版される。桜川Daヴィンチさんの紹介ページは→こちら

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