
ダ・ヴィンチのQ:「自分にしか読めない文字」を発明していた⁉︎
[ 天才ダ・ヴィンチに学ぶ人生の極意 ]
AI筆跡診断をやってみよう
「字は体を表す」という言葉を聞いたことはありますか?
私たちが普段描いている文字には、自分の性格が反映されているという意味です。
私もこれまで、「達筆な人」「何を書いているのかわからない人」「丸文字な人」「癖字な人」と、いろんなタイプの文字を書く人に出会ってきました。スマホやパソコンで文章を書くことが当たり前になり、直筆の文字を見る機会は減っています。そんな中、時々届く手紙で初めて生の文字に触れると、その人が見えてきたようで新鮮な気持ちになります。文字からその人の性格を判断する方法として、筆跡診断があります。ネットで調べてみたところ、無料で「AI筆跡診断」ができるサイトがありました。すぐにでもできるので、やってみると新しい発見があるかもしれません。
日本筆跡診断士協会会長の診断結果が元になっているAI診断とのことで、自分の文字をアップすると、どのようなタイプの人物なのかを言い当ててくれます。書く文字は「口」と「様」の2種類で、①タッチペンで書く ②書いた文字の画像をアップするかのどちらかで診断できます。
私の場合は、こんな感じで結果が出ました。タッチペンで画面に書いたのですが、少し書きにくいので、紙にペンで書いて画像をアップする方がより普段の文字として認識されやすいかもしれません。

診断の結果、結構当たっている?ように感じましたが、ぜひあなたも試してみてください。
レオナルド・ダ・ヴィンチの摩訶不思議な文字
さて、それでは本題のダ・ヴィンチの文字をご紹介したいと思います。
ルネサンスの万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチと聞くと、『モナ・リザ』や『最後の晩餐』などの名画を描いたことで知られています。しかし、その絵画数は真筆と認定されているものは15枚前後と実に寡作です。一方、ダ・ヴィンチはノートに膨大な文章とスケッチを残していて、そのうちの1冊であるレスター手稿と呼ばれるノートはオークションにかけられ、ビル・ゲイツが28億円で落札しています。私は「ファクシミリ版」と言われる精巧にできた復刻版ノートを研究していますが、ダ・ヴィンチの描く文字は一風変わっています。それは何かというと、文字がアート化しているのです。
最初にこちらの文字をご覧ください。これらはいずれも同じアルファベットを表していますが、何かわかりますか? ヒントは右にいくほどわかりやすくなり、ダ・ヴィンチは鏡文字という文字を反転させて書いていたので、左右反転したイメージで捉えてみてください。

正解は「f」です。一番右と左を比べてみると、とても同じ文字には見えませんよね。
ダ・ヴィンチは、年代によって書く文字を変えていきました。装飾的な文字から、だんだんとシンプルな文字になっています。
次の文字はこちら。ぱっと見「s」と思う方もいるかもしれません。しかし、この文字も鏡文字で書いてあるので、反転して読む必要があります。

正解は「h」です。縦に長く、なかなかユニークな文字を書きますね。
さて、お次はこちら。これは、おそらく正解率は限りなく0%になると思います。
なぜなら、ダ・ヴィンチが新たに発明した文字だから。ダ・ヴィンチ研究者くらいしか正解することはできないでしょう。

答えは、「per」です。
え???と思いませんか? 1つの文字で、単語を表現した略字です。
イタリア語でperは前置詞で、「〜のために」を意味します。英語でいうforにあたります。そして、驚くべきことに、ダ・ヴィンチはこの文字を前置詞のみならず、たとえば、「なぜなら」を意味するpercheという単語の文頭のperもこの不思議な文字で置き換えています。まさに書く手間を省く便利文字です。この文字から見えてくることは、ダ・ヴィンチは装飾的な感性のみならず、効率も重視していたということです。
ダ・ヴィンチが書いた一番おもしろい文字

ダ・ヴィンチ・ノートを読んでいるときに、個人的に一番惹きつけられた文字があります。それは大文字の「Q]です。このQも、時期によって見た目が変わるのですが、私が面白いと感じたのは以下のQです。こちらも普通に見るには、他の文字と同様に左右反転が必要です。

何がおもしろいのかというと、Qの円の中に、二重線と点が2つ入っています。
私にはこの発想はまったくありませんでした。ダ・ヴィンチは、なぜこんなQを書いたのだろうと思って他のQを見るとこちらが見つかりました。

なんと、点が4つに増えています。同じノートに微妙に変化がついたQを発見したのですが、どうしてこのような使い分けをしたのか、そして、そもそもなぜこんなQを書いたのか、よくわかりませんでした。私以外に誰もこのQを追求している人がいません。ダ・ヴィンチの謎が深まるばかりでしたが、ようやく最近この謎が解けました。
ダ・ヴィンチと同時代のルネサンスに活躍し、筆記法についての本を書いているフォントデザイナーに、ルドヴィコ・アリギというイタリア人がいます。アリギが書いた文字の記録にこのような文字が見つかりました。

アリギが下段に書いた「O」や「P」に注目すると、ダ・ヴィンチの「Q」と同じように二重線と点が見つかります。おそらくダ・ヴィンチは、これらのアリギの装飾的なフォントにインスピレーションを受けて、自身が書く「Q」に応用したのだと推測します。
私の個人的な見解では、『モナ・リザ』にしろ『最後の晩餐』にしろ、多くのダ・ヴィンチ絵画は、他の画家が描いた作品から着想を得て自身の作品に応用して昇華させたのがダ・ヴィンチ・スタイルだったと考えています。ダ・ヴィンチは0から1を生み出したというより、1を3にも5にも10にも進化させていく姿勢があり、進化のプロセスでこのQも点が2つから4つに増えたのではないかと思いを巡らしました。つまり、この不思議なダ・ヴィンチのQは、ダ・ヴィンチの思想や創造性をよく物語っている、と文字から読み解くことができるのです。あなたもダ・ヴィンチを見習って、おもしろい文字を発明してみてはいかがでしょうか? それではまた!

『超訳ダ・ヴィンチ・ノート』(飛鳥新社)を出版し、
発売2週間で重版。翌年の2020年には、韓国語版も出版される。桜川Daヴィンチさんの紹介ページは→こちら
この記事へのコメントはありません。