ボテロ展が伝える“ふくよかな魔法”の秘密

[ 天才ダ・ヴィンチに学ぶ人生の極意 ]

フェルナンド・ボテロって誰??

フェルナンド・ボテロ生誕90周年を記念して、東京・名古屋・京都の3都市を巡る「ボテロ展 ふくよかな魔法」。広告などで見かけたこともあるかもしれません。おそらくよほどの芸術通でなければ、多くの人はこう思うでしょう。

「フェルナンド・ボテロって一体誰だ?」

そこでまず簡単に人物についてご紹介いたします。

フェルナンド・ボテロは、1932年、南米のコロンビア生まれの現役アーティストです。
90歳で今なお制作を続ける情熱には感服してしまいます。

ボテロは4才で父親を亡くしていた関係で、高校生の頃から地元の新聞に挿絵を描いて学費を稼いでいました。

高校卒業後、20歳で第9回コロンビア・サロンにて二等賞を受賞し、その賞金を資金としてヨーロッパに渡り、一流の画家を目指して下積み修行を重ねます。マドリードにあるプラド美術館や、パリにあるルーヴル美術館で巨匠の作品を模写し、古典作品から芸術的な感性や技術を吸収。その後、イタリアのフィレンツェに渡り、ルネサンス絵画を研究して古典作品への造詣を一層深めます。

ヨーロッパでの武者修行を経て、メキシコに移住した後に転機が訪れます。それがボテロが生み出すことになる“ふくよかな魔法”です。彼独自の芸風である“ふくよかな魔法”は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。

『ピエロ・デラ・フランチェスカにならって』 フェルナンド・ボテロ 1998年

“ふくよかな魔法”とは?

1956年、ボテロが24歳の頃、マンドリンをスケッチをしていた時のことです。

マンドリンを丸々とした大きな形に描いていた際、マンドリンの穴をあえて小さく描いてみました。すると、マンドリンが大きく膨れ上がっていって爆発したように感じられたといいます。この体験がきっかけで、ボテロは自身の才能の開花を実感しました。

日本で開催されるこの展覧会の謝辞の中で、ボテロはこのように言っています。

「芸術家の作風は、芸術に対する最大の貢献であると同時に、芸術家自身のアイデンティティでもあります」

ボテロの作風は、デフォルメされたボリューム感を通して、官能的な美を伝えることにあります。そして、面白いのは、身近な人物のみならず、果物や花、天使や悪魔、キリストや大統領までもが“ふくよかな魔法”にかけられていることです。

ボテロがかける魔法からは誰も逃れることはできません。

『守護天守』 フェルナンド・ボテロ 2015年

ボテロのデヴューは『12歳のモナ・リザ』

画家ボテロの存在が世に知れ渡るきっかけがありました。

1963年、メトロポリタン美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』が展示された同時期に、ボテロが描いた『12歳のモナ・リザ』が、ニューヨークの近代美術館(MoMA)のエントランスに展示されました。

それまで、ボテロのふくよかな作風は評価されず、批判の対象となって完全にのけ者扱いされていたとボテロ自身は述懐していますが、この『12歳のモナ・リザ』がきっかけでボテロの作風が評価され、一躍有名になりました。

その『12歳のモナ・リザ』がこちらです。

『12歳のモナ・リザ』 フェルナンド・ボテロ 1959年

ボテロは、1978年にも、今度は成人しているモナ・リザをふくよかな体型で描いています。そして、2020年の最新作『モナ・リザの横顔』が、今回のボテロ展の広告ビジュアルに使用されました。ふくよかな体型で描かれた異質なモナ・リザには、ボテロなりのメッセージが込められているのでしょう。

『モナ・リザの横顔』 フェルナンド・ボテロ 2020年

私がボテロ展に興味を持って展覧会に足を運んだのは、他でもない、この『モナ・リザの横顔』が気になったからです。『モナ・リザ』に魅せられたボテロとレオナルド・ダ・ヴィンチには何か共通点があるのか。この記事の最後では、ダ・ヴィンチ研究者である私なりの考えをお伝えいたします。

ボテロとダ・ヴィンチの共通点

「芸術家の様式というものは、最も単純な形の中にさえ、はっきり認識できるものであるべきだ」

これはボテロの言葉ですが、優れた芸術家の作品は、見ただけでこれはあの人の作品だと一瞬で分かります。

たとえば、ダ・ヴィンチが描いた『モナ・リザ』は、人物に輪郭線がありません。“煙のような”を意味するスフマートという技法で描かれていますが、指や手のひらを使って、薄い色素の層を何層も重ねて表現したといいます。このようなきめ細かい芸当ができたのは、当時ダ・ヴィンチ以外にはいませんでした。

また、ボテロとダ・ヴィンチには、アイロニーとユーモアがあります。

先ほども、これまで誰も描こうとしなかったふくよかな天使をご紹介しましたが、ボテロの作品には、どことなく皮肉を込めたメッセージが感じられます。

同様に、ダ・ヴィンチも天使を太らせはしませんでしたが、通常天使に描く光輪をつけなかったり、金色や虹色で描く天使の翼を現実的な茶色で描いたりしました。

これはダ・ヴィンチの奇跡を排斥する科学者的な側面から皮肉を込めて描いたものと推測しますが、両者とも常識的な描き方にとらわれていない点が共通しています。

ボテロ展で特にユーモアがあると私が感じた作品は、『洋梨』という静物画です。よく見ると洋梨の中から小さな幼虫が顔をのぞかせています。

『洋梨』 フェルナンド・ボテロ 1976年

ダ・ヴィンチ作品にも、ネコの群れのスケッチの中に1匹だけ後ろを振り返りながら歩くドラゴンが混ざっていたりと、観る人を楽しませる工夫が凝らされています。

『ネコ、ドラゴン、その他の素描』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1513〜1518年

自分自身が楽しみながら描き、観てくれる人も楽しませようとする心意気、2人からはそんな自由な精神を垣間見ることができる気がします。

ぜひ、これをきっかけに「ボテロ展 ふくよかな魔法」に足を運び、生の作品と対話してみてはいかがでしょうか。

「ボテロ展 ふくよかな魔法」
※東京展・名古屋展は閉幕しています

会期
2022年10月8日(土)~12月11日(日)

京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町124
https://www.ytv.co.jp/botero2022/


『超訳ダ・ヴィンチ・ノート』(飛鳥新社)を出版し、
発売2週間で重版。翌年の2020年には、韓国語版も出版される。桜川Daヴィンチさんの紹介ページは→こちら

【桜川Daヴィンチさんの書籍、そして最近ハマっているものをご紹介します!】

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。