
『モナ・リザ』に学ぶ世界一の引き寄せの法則【技術編】
[ 天才ダ・ヴィンチに学ぶ人生の極意 ]
『モナ・リザ』は「世界の恋人」
前回の記事では、ルーヴル美術館が世界で最も人気のある美術館であり、『モナ・リザ』の来日時には、約150万人の日本人が名画を一目見ようと押し寄せたことについて紹介しました。元内閣総理大臣の田中角栄首相が、『モナ・リザ』を「世界の恋人」と呼ぶほど熱狂的に注目を浴びたのです。
前回URL:https://digi-den.net/sakuragawa-davinci/category-psychology/2023/05/22/16173/
『モナ・リザ』の魅力には、いろいろな要素があります。
今回の記事では、なぜそれほど『モナ・リザ』は大衆を魅了するのか、絵の技術的な側面から考察していきたいと思います。

『モナ・リザ』を特徴づけるスフマートとは?
イタリア語で「煙」という意味の「fumo」に由来するスフマートという技法があります。
煙は輪郭がはっきりせずぼけていますが、同じように輪郭線をつけずに何層も繰り返し薄塗りすることで表現するぼかしの技法です。
筆のみならず、何と指の腹を使って描いているそうです。
実は『モナ・リザ』に使用されている絵の具は油彩なのですが、当時はまだ新しい描画の技術でした。絵の具を油で溶いて描く油絵は、フランドル地方を中心に北ヨーロッパで15世紀に発達し、その後イタリアにもたらされました。
それまでは、テンペラという卵を溶いて顔料を定着させる画法で描いていましたが、油に比べてのびがよくありません。油を使うことでぼかし表現のグラデーションが描きやすくなり、よりリアルな人物描写も可能となりました。
ちなみになぜ卵を用いたかという興味深い考察もありますので、ご興味ある方は以下の記事をお読みください。一言で言うと、卵黄を使うと絵を保護する上で役立つからだそうです。こちらは、油彩にさらに卵を混ぜて描く方法として紹介されています。
参考URL:巨匠たちが油絵具に「卵黄」を混ぜた理由をついに解明!
https://nazology.net/archives/124327
テンペラでは、筆のあとが残りやすく、ダ・ヴィンチの目指す写実的な描写には不適切でした。
『モナ・リザ』が名画たる所以として、「最新の表現方法である油彩の選択」と「時間をかけて丁寧に繰り返し塗り重ねるスフマート」が貢献していることは間違いありません。

ダ・ヴィンチが発明した遠近法とは?
スフマートに加えて、『モナ・リザ』にはダ・ヴィンチが発明した技法が使われています。それが大気(空気)遠近法です。
ダ・ヴィンチと親交が深かった数学者であるルカ・パチョーリは、ダ・ヴィンチに幾何学図形の挿絵の依頼をして本を出版していますが、その際にダ・ヴィンチのことをこう表現しています。
「いとも優れた画家・遠近法研究者・建築家・音楽家にして、あらゆる技芸に熟達したフィレンツェ人」
“遠近法研究者”と肩書きをつけているくらい、遠近法について詳しかったのでしょう。ダ・ヴィンチが遠近法についてこのような言葉を残しています。
「さて、ここで別の遠近法がある。わたしはこれを大気遠近法と名付けよう。
(中略)…絵画でその一方が他方よりも遠くにあるように見せたいなら、その一方の大気を少し濃密に描くべきである。(中略)…最も近い建物を、その固有の色で描け。それよりも遠くにある建物は、輪郭をぼかして、より青く描け。その二倍遠方にあるようにしたい建物は、その二倍の青さで描け。そして、建物をその五倍遠方にあるようにしたいなら、その五倍の青さで描くこと。この規則によって、同一線上にあって、同じ大きさに見える建物で、どれが他よりも遠くにあるか、またどれが他よりも大きいのかを、はっきりと知ることができる」
出典:絵画の書 レオナルド・ダ・ヴィンチ
こちらの風景写真をご覧ください。遠くに山脈が見えますが、遠くなるにつれて薄い水色になっています。遠くにいくほど空の色に同化するかのように青く霞む表現が大気遠近法です。

『モナ・リザ』も、背景にある自然の描写に大気遠近法が用いられています。

ダ・ヴィンチがこの大気遠近法の前に紹介している遠近法は色彩遠近法で、色の持つ固有の性質を生かした遠近法です。たとえば、次の図形は、寒色の水色と暖色のオレンジの四角と丸で構成されていますが、どちらの丸が浮き出ていると感じられるでしょうか。

おそらく左側のオレンジの丸の方が浮き出ているように感じられたかと思います。つまり、自分から見て近くに暖色系の色合い、遠くに寒色系の色合いを配置するだけで、遠近感が感じられるようになるということです。
ルネサンス期には、他にも線遠近法という遠近法が流行りました。
こちらはダ・ヴィンチの習作で、線遠近法を用いた『東方三博士の礼拝』のスケッチです。

任意の1点に向かって複数の線を集約させ、その線に沿って、手前から奥に向けて段々と小さく描く遠近法です。
それぞれの遠近法を、シーンによって使い分けて描いており、『モナ・リザ』は、大気遠近法の研究成果の結実なのです。

研究者が注目する特に優れた体のパーツは?
遠近法の研究と同時に、ダ・ヴィンチが特に熱中したのが解剖学でした。
リアルな人体描写を追求するために、骨格や筋肉のつき方まで、実際に30体もの人体解剖をして理解を深めました。
皆さんは、『モナ・リザ』の体のパーツで最もうまく描けた部分はどこだと感じられますか?
やっぱり微笑みが印象的な顔でしょうか。
『モナ・リザ論考』を書いたダ・ヴィンチ研究者の下村寅太郎さんは、意外にも“手”が素晴らしいと言います。
「この手の美しさは、あらゆる絵画が創造した最も美しい手としてすべての人の賛美するところである。この手の美しさは言葉では表現し得ない。確かにレオナルドが負誇するように言葉の表現力の制限を思わせる。我々の仏像の中にこれに匹敵するものを知るのみである」
出典:『モナ・リザ論考』(下村寅太郎、岩波書店)

ちなみに、絶賛されている手は右手で、左手は未完成です。私は、あえて左手を未完成にして、完成度の高い右手を際立たせたのでないかと考えています。それは、ダ・ヴィンチは常に対比をする思考の持ち主だったからです。以前、このことについても記事を書いていますので、合わせてお読みください。
参考:望んでいる本質が見えてくる「対極思考」~ダ・ヴィンチの願望実現の型破りなルール
https://digi-den.net/sakuragawa-davinci/category-psychology/2021/06/28/3919/
さて、『モナ・リザ』が大衆を引き寄せる理由の1つは、天才画家の技術が結集した絵画だから、ということを3つの観点(スフマート、大気遠近法、解剖学的描写)で説明してきました。多くの人を魅了する要因として、洗練した要素が凝縮されていることは欠かせません。
次回は、別の観点で『モナ・リザ』の魅力をご紹介いたします。
お楽しみに!

『超訳ダ・ヴィンチ・ノート』(飛鳥新社)を出版し、
発売2週間で重版。翌年の2020年には、韓国語版も出版される。桜川Daヴィンチさんの紹介ページは→こちら
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