
7人に1人も!? 乗務員を悩ます“走行中の腹痛”その黒幕とは?
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
列車の乗務員はトイレに行きたくなったらどうするの?
あなたは、これまでに列車に乗っていて急な腹痛に襲われたことはないでしょうか?
「よし、収まった」「うわっ、また来た!」と第1波から始まり、目的の駅まで何度も訪れる“痛みの波”と必死の格闘を繰り広げます。そして無事に用を足せたときの解放感と安心感は計り知れません。
このような“緊急事態”は、乗務員ではない人でも長い人生の中で1回は経験したことがあるのではないでしょうか?
おもしろいことに、体調が良いときにはそんな心配は思い浮かべたことすらありません。しかし、この“緊急事態”は突如として現れます。次の駅までに要する2~3分の時間もこのときだけは数時間のように感じますね。
「うんうん、あるある!」と共感してくれた人も大勢いると思いますが、この話は決してあなただけのことではありません。列車の乗務員も同じように腹痛と戦うことがあるのです。

僕はJR東日本の高崎線の車掌として11年半働いていました。現役時代に担当した列車本数は実に10,000本を超えます。
そんな僕は、様々なSNSでこんな質問を受けます。それは、「列車の運転士や車掌って乗務中にトイレに行きたくなったらどうするの?」というものです。
これはやはり乗務員を経験したことがないとわからない問題です。今後、列車の乗務員を目指している人のために真実を明かしたいと思います。それでは、早速ですが結論を言ってしまいましょう。
“行けるときに行く”
これが答えです。ものすごく曖昧に聞こえるかもしれませんが、これは紛れもない事実なのです。
「手が届きそうなのに届かない・・・」乗務員とトイレの距離感
列車の運転士がトイレに行きたくなった場合はどうしたらよいのでしょうか?
当たり前ですが、運転士は走行中に運転台から離れることができません。もし行きたくなったら駅や安全な場所に停車させ、駅や列車内のトイレに行くしかありません。
確かに先頭車両から比較的近い車両にトイレがあれば、駆け込むことは可能ですが、首都圏の列車にはトイレ自体付いていないことも多いです。山手線や京浜東北線などの駅間が短い路線は基本的に付いていません。
僕が担当していた高崎線や宇都宮線などの比較的運行距離が長い路線であれば、列車内に数ヶ所トイレが付いています。
しかし、停車したらすぐに行けるか?と言われてもそうではありません。運転士がトイレに辿りつくためにはいくつかの関門があるのです。正に、手が届きそうなところにあるのに、なかなか近づくことができない異性との関係のようでもあります。

実際に運転士がトイレに行きたくなったら、やらなくてはならないことがいくつかあります。まずは、無線を使って指令員にトイレに行くことを報告します。他には、運転席を離れるため、転動防止措置(列車が動き出してしまわないための対応)をとらなくてはならないのです。
では、車掌はどうでしょうか?「運転士より厳しくないだろう?」と思う人もいるでしょう。結論から言うと、ご想像のとおり、運転士ほどは厳しくはありません。
もちろん、通勤時間帯で身動きが取れないほど混雑している場合は不可能ですが、改札担当車掌として車内で乗車券を発行したり、不審物などがないか巡回する仕事であれば、トイレの前に差し掛かったときにサッと用を足すことも可能なのです。
えっ!? そこまで!? 乗務員が日頃から行っている相性チェック
乗務員は、乗務中はもちろん、普段から体調管理に気を遣っています。乗務前には必ずトイレに行ってから出場(自分の担当する列車に乗るために事務所を出ること)しますし、食べ物や飲み物でもトイレに行きたくなりやすいものを避けたりしています。
特に身近なものとしてはコーヒーです。コーヒーは食事と違って、休憩の度に飲む人もいるでしょう。乗務員は乗務を間近に控えている場合は、休憩中でもコーヒーを飲まないようにしている人も多いです。
僕自身は、おもしろいことにコーヒーのブランドによって、トイレが近くなるものがあります。このように、乗務員は「自分はこの食べ物や飲み物と相性が良い、悪い」ということを日頃から調べ、常に対策をとっているのです。

他にも乗務中はもちろん、出勤前は“生もの”や“冷たいもの”は避けるようにしていました。これも人にもよりますが、僕の場合はお腹にかかる負担が大きかったからです。
夏であっても、基本は常温の飲み物を飲むくらい徹底していました。本当はリフレッシュのために冷たい炭酸飲料も飲みたいのですが、そこはグッと抑えて責務を全うしていたのです。
ただの“生理現象”では済まされない! 黒幕の正体が急浮上!?
僕が乗務員をしていたときも、「常にお腹の調子が悪い」という理由で乗務が難しく、乗務員以外の職場に転勤した人がいました。これを、単に「お腹が弱い」というだけで解決してはいけません。なぜなら、病気という可能性もあるからです。
あなたは『過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)』という病名を知っているでしょうか?
これは、メンタル面のストレスや自律神経バランスの乱れなどによって腸の働きに異常が生じ、便秘や下痢などを引き起こす病気のことです。
症状は人によって異なります。ずっと下痢が続く人もいれば、便秘と下痢を何日か繰り返す人もいます。中にはトイレから離れられない人もいて、日常生活に支障をきたすことも少なくないのです。
オーストラリアのモナッシュ大学の研究によると、日本人の7人に1人はこの「過敏性腸症候群」であるとされており、この病気は決して珍しいものではないのです。
このほとんどは、過度なストレスや緊張などによって引き起こされると考えられているのですが、原因がはっきり分からない場合が多く、治療も難しいとされています。

乗務員には切っても切れないトイレの問題。あなたは今回の記事を読んでどのように感じたでしょうか?これは、決して他人ごとではありません。
「過敏性腸症候群」は、乗務員の他にIT関係の人にも多くいると言われているため、もし似ている症状で悩んでいる場合、一度専門家や詳しい人に聞いてみることをオススメします。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
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