
乱れた列車ダイヤはこうやって戻している
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
事故やトラブルの裏で動く鉄道員たち
あなたは列車に乗っていて、事故やトラブルに遭遇したことはありますか? 「人身事故の当該列車に乗り合わせたことがある」「目の前で人が倒れてSOSボタンを押した」という方も中にはいらっしゃるかもしれませんね。
ちなみに僕は11年半車掌を経験して、乗務した列車本数は実に1万本を超えますが、担当列車で人身事故の経験は1度もありませんでした。更に言ってしまえば、出勤中やプライベートで列車に乗っていたときを含めてもゼロです。
もちろん、経験しなかったのは「人身事故」であって、急病人の救護活動、暴力事件、痴漢、盗撮、窃盗などの事件は一通り経験しました。
事故やトラブルに遭遇するのは“運”ということもありますが、そのような事態でも落ち着いて迅速かつ的確に対応するのが鉄道員です。目の前の状況を判断し、自分にできることは何か?ということを一人ひとりが考えて行動しています。

ダイヤ乱れが発生したときにまず想像するのが、駅のホームがカオス状態になっているシーンではないでしょうか?駅の構内では「只今、○○線は人身事故の影響で・・・」とアナウンスが流れ、駅員や乗務員はその対応に追われます。
今回は、事故やトラブルの裏側で鉄道員がどのように動いているのかお伝えしたいと思います。
日本の正確な列車ダイヤの鍵を握るのは「運転整理」
事故やトラブルが発生したときに、「どのようにして正常なダイヤに戻しているの?」と気になりませんか? 結論から言いますと、その裏側では輸送指令員や管理者たちが1秒でも早く通常のダイヤに戻すために動き回っています。
これだけだと全く面白くありませんから、僕がお伝えできることをシェアしちゃいますね(笑)。

まず事故やトラブルが発生すると、当該の乗務員が輸送指令に状況を報告します。このときに、隣接線を抑止させなくては危険だと判断した際には『列車防護無線』を発報します。
例えば、踏切内で自動車が立ち往生してしまった場合や、強風などで農業用ビニールが架線(電車の上に走っている電気を供給する線)に絡まっている場合などですね。その情報は『旅客一斉放送』といって、駅や乗務員区、各列車の乗務員室内に流れる仕組みになっています。
この段階で「どこの路線で、どのような事故やトラブルが発生した」「関係する列車は運転休止や見合わせを行う」などという細かな情報が提供されますから、そこから『運転整理』が行われるのです。
『運転整理』とは、折り返し列車が1時間遅れているから、30分手前の駅で折り返せば遅れがなくなる、という計算をして当日のダイヤの組み換えをすることです。
これは乗客の数などによって臨機応変に行います。乗客が1人もいないのであれば、その決断は簡単ですが、急に行き先が変わったら乗客は困ってしまいます。様々な条件を加味しながら調整を行っているのです。

では、次に乗務員の立場で考えてみましょう。特にたくさんの路線を担当している乗務員区は大変です。職場によっては1つの路線だけでなく、複数の路線を担当するところもあります。
例えば、ひとりの乗務員が同じ日に上野東京ラインと湘南新宿ラインを担当したり、両毛線と吾妻線を担当することもあるわけです。事故やトラブルが発生し、足止めを受けてしまうと、次の担当列車に間に合わないこともあります。
そのときには、乗務員の担当列車の調整を行います。本来であれば1時間後に担当する列車にどうしても間に合わないときには、担当している乗務員を交代させたりもします。
具体的に言うと、東京駅にいる別の乗務員を中央線や山手線などを使って新宿駅まで送り込み、新宿から湘南新宿ラインを担当したり、東京から上野まで新幹線を使って移動し、そこから高崎線の特急列車を担当することなどがそうです。
このような臨機応変な対応をして、列車ダイヤを1分でも早く正常に戻す努力をしているのです。
直接事故やトラブルに関係していない列車まで遅れる理由
ここまで話を聞くと、何となく想像がつく人もいるかもしれませんが、直接事故に関係していない列車までも遅れることがあります。
実はこれも『運転整理』です。例えば15分間隔で走っている高崎線で事故やトラブルが発生して50分遅れてしまった場合、「前を走る列車は関係ない」とそのまま運行を続けてしまったら、その区間には50分も列車が運行しない時間が生まれてしまいます。
すると、運転再開したときに「やっと列車が来た」と多くの乗客が乗ろうとします。すると満員で乗り切れなかったり、また別のトラブルが発生してしまうことがあるのです。そのため、前後の列車が運転間隔を調整して、そのような状況になる事を防いでいるのです。

他にも大きな駅であれば、他の路線も遅れた乗客の乗り換えを待って発車させたりと対応を行います。特に1時間に1本しか運転していないようなローカル線や最終電車が近づいている路線などは、待ち合わせの対応をしないと困ってしまう乗客が多くいます。
そのために、一見関係ないと思われる列車にも遅れが発生するのです。
離れていても無線で行う連携プレー
これらの連携プレーは列車内に付いている無線機で行われることがほとんどです。乗務員は自分の担当する列車番号が呼ばれたら即座に反応して、対応しなくてはなりません。
また、自分の同僚が担当している列車番号が呼ばれたり、聴きなれた先輩や後輩の声が無線から聞こえてきたら、何か協力できることはないか?と考えたりしながら心の中でエールを送っています。
無線は声だけの情報で判断しますが、どんな時も常に相手の顔をイメージしながら会話しているのです。やっぱり「線路は続くよ~どこまでも~♪」の歌詞のように、たとえ無線であっても乗務員同士は心も繋がっているのです。

今回は、事故やトラブルの裏側についてお伝えしました。鉄道の裏側を知りたい人はまた遊びに来てくださいね。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
この記事へのコメントはありません。