電車から離れていても事故になってしまう理由

[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]

駅のホームでの“ながら歩き”その危険性とは!?

突然ですが、あなたは駅のホームでスマホを見ながら、また、音楽を聴きながら歩いていませんか? 最近ではイヤホンの性能も良くなっていて、ノイズキャンセル機能で外部の音が全く聞こえなくなるものもあります。
車や自転車でイヤホンはNGですが、歩行者は特にそのような罰則もないことから、イヤホンが原因のトラブルも結構多くなっていますよね。
駅のホームでもイヤホンをしながらスマホ操作をしている人を多く見かけます。ときには「危ないので下がってください!!」という、駅員さんによる大音量の構内アナウンスが聞こえたりもします。
注意された本人からしてみたら、おもしろくないかもしれません。僕も車掌をしていた頃、何度か注意をした際に乗客から“逆ギレ”されたこともあります。

鉄道員を17年経験すると心臓に悪い出来事も多く経験しました。目の前で線路に人が転落したり、急に意識を失い倒れたりと、そのような場面に何度も直面してきたわけですから、乗客のことを想い、注意させてもらうわけです。
確かに、注意された乗客は、「いや、ぶつからないし! うるせーなー・・・」と感じていたことでしょう。僕も鉄道員を経験していなかったらそう思っていたかもしれません。
また特に最近はTikTokなどのSNSも普及していて、駅で面白い動画が撮れるか、気を引く動画が撮れるか、と動く電車に近づく人もいるので、その危険性を知っていただけたらと思います。
僕も元鉄道員として、またTikTokerの一人としてこの問題について警鐘を鳴らしていきたいと思います。

鉄道員が注意するのには明確な理由があった

まず、注意されるという場合には何かしらの理由があります。あなたも誰かに注意するときには必ず伝えたいことがあるはずです。鉄道員の場合、他の乗客に迷惑が掛かっている、危険な行為に直面しているから注意するわけですよね。
特に鉄道員は、常に危険と隣り合わせということはご存じのとおりです。あなたも、鉄道人身事故のニュースを聞くことも多くあるでしょう。
ここで勘違いされやすいところなのですが、人身事故は全てが自死とは限りません。むしろ事故の方が多いのです。事故ということですから、自分の意思とは関係なく起きてしまうということです。
例えば、乗客であふれかえっているホームで肩やバッグなどがぶつかって線路に転落してしまうことや、めまいや意識を失って、そのまま倒れてしまったり、酒に酔って電車とぶつかってしまうなどと様々なケースがあります。
そのような話を聞くと、「運が悪かった」と言う人も中にはいるのですが、そんな簡単に済ませることができるような問題ではないのです。

基本的には、黄色い線(点字ブロック)の線路側を歩行している人には、注意をさせてもらっていました。その理由は、たとえ電車にぶつからない位置にいたとしても、ぶつかってしまうことがあるからなのです。

「直接ぶつからない」ではなく、引き込まれる!

結論から言いますと、電車に直接触れる位置にいなくても自分の意思とは関係なく電車に引き込まれてしまうことがあるのです。
これを聞いた人は「なんで!?」と思うでしょう。実は「空気は気圧の低い方に流れていく」という原則があります。
しかし、「原則」だの「定理」だの難しいことを覚えても仕方ありませんから、「走っている電車側に引き込まれる」ことだけ覚えていてください。
簡単に説明しますと、電車が通り過ぎることで、その場所にあった空気が押し出されます。押し出された場所がどうなるかと言いますと、周りから空気が流れ込むわけです。ホーム上の空気も線路側に引き込まれてしまうのです。
他にも身近なところでも似たような現象はありますよね。例えば、部屋の窓を2か所開けて、1か所の窓から外に向けて扇風機を回して空気を出すと、もう一方の窓から、出た空気と同じ量の空気が入り込んできます。このように「無くなった場所には補充される」という現象が駅のホーム上でも生まれているのです。
この原理を詳しく知りたい方は、『ベルヌーイの定理』と言いますので、興味があったら調べてみてください。

特に、“ながらスマホ”をしている人は、集中力がスマホに向いていますから電車が接近してきていることにすら気付いていない人もいます。
以上のことから、駅の黄色い線より外側(線路側)を歩いている人に対して、鉄道員が注意を促すのです。命に関わることですから厳しい口調で伝えることの方が多いです。
電車とぶつかりそうなのに「お客さま、恐れ入ります。後ろから電車が来ていますのでお下がりください」などと悠長に言うことはありません。
ホームドアが付いていない駅もまだまだたくさんありますから、あなたも注意してくださいね。

一つしかない命を大切にしましょう

鉄道員は、日々たくさんの人と触れ合う仕事です。そのためたくさんの方に笑顔をもらえるときもあれば、悲しくて泣きだしたくなる日もあります。
毎回、通勤・通学の乗客をみると、「この人達すべてに大切な家族がいる」と気が引き締まる思いでした。利用者の命を守ること、そしてその家族の笑顔を守ることも鉄道員の大切な仕事の一つです。
「危ない」とわかっていることには、警戒心を持って行動します。しかし、駅のホームの“ながらスマホ”は、心のどこかでは「危ない」とわかっていても「きっと大丈夫」という気持ちが優るため、やってしまうのだと思います。

山手線のホームに進入する際の最高速度は66km/hだと言われています。道路でそれだけの速度で走ってくるトラックに50cmの距離まで近づいたりはしないと思います。
いくら敷かれたレールの上を走るからといって、トラックよりも更に車体もパワーも大きい電車に近づくというのは、どこかしらに気持ちの緩みがあるのでしょう。この記事を読んでくださったあなたは、今後黄色い線の内側を歩いてくださると信じています。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら

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