乗っていた電車が突然停電!? その原因とは!!

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理由を知ればパニックになる事を抑えられる

2022年5月16日の午後4時過ぎ、JR中央線の上り快速電車が東中野駅付近で緊急停車して、突然車内の照明が消え、乗客がパニックになる騒ぎがありました。
ニュースやSNSで拡散されている情報を確認してみますと、

  1. 先頭車両の乗客が、緊急停車し停電状態なったことに不安を感じ騒ぎ始めた
  2. 別件で「マスクをしていない」ことを理由に別のところでも喧嘩が勃発してしまった
  3. 慌てた乗客の一人が『非常用ドアコック』を扱って、電車のドアを開錠、線路上に飛び出した
  4. その後、事件が起こったと勘違いし、混乱した他の乗客も『非常用ドアコック』を扱って線路上に飛び出した

このような流れです。

あなたも想像の通り、鉄道事故は簡単に命を落としてしまうような重大事故に発展しかねません。確かに自分の乗っていた電車が緊急停車して停電になったら不安になる人もいるでしょう。
「どのような状況になると電車で停電が起こるのか?」ということを事前に知っておけば、同じ状況に出くわしても気持ちにゆとりが生まれます。今回は電車が停電になるケースを細かく解説していきたいと思います。

停電になるメカニズムを元車掌が徹底解説

今回の騒動の発端は、電車が緊急停止し停電になったことで一人の乗客がパニックになってしまったことでした。確かに、何かなければ緊急停車することはないはずですから、こんな状況に出くわしたら不安になってしまうかもしれません。
報道されていた動画の中でも、男性の「こんなの初めてなんだけど」という会話が聞こえてきましたが、実は乗務員の立場では結構遭遇するケースです。鉄道業界では『エアセクション内停車』といって、実際に僕が車掌をしていた11年半の間でも30~40回は経験しました。実は僕が高崎線で英語アナウンスを始めたのも、この『エアセクション内停車』で、外国人の乗客が停電で不安になったことがキッカケでした。

では、具体的にどういうシチュエーションで停電が発生するか説明します。
まず、運転士が危険を感じたときや、緊急停止信号を受信した際には緊急停車をします。これは電車が動いていなければ事故は起きることはありませんから、おわかりいただけると思います。
次がポイントなのですが、実は線路上で電車が停車してはいけない場所が存在します。それを『エアセクション区間(電車の送電に支障のある場所)』というのですが、その区間内であると故意的に停電にさせなくてはならないのです。このエアセクションは、簡単に説明すると電車の上を走っている架線(電線)の繋ぎ目と言ったらわかりやすいでしょう。どのような構造物も繋ぎ目は強度が弱い部分になりますよね。この区間内にずっと停車してしまうと、架線の同じ部分にパンタグラフが接しているために、1箇所に電力が集中して架線が焼き切れてしまうことがあるのです。

そのような状況を防ぐために、この区間に停車した場合は運転士が強制的にパンタグラフを下げる措置を行うのです。架線から電気の供給がされないということは、車内は停電となります。ただ、完全に真っ暗になるというわけではなく、非常用電源に切り替わり、非常灯が点灯します。しかし、停電ですから車内のエアコンなどが完全に停止してしまうのです。モーター音などが一切聞こえず、不気味な静けさが車内を包むため不安になる人もいるでしょう。これが電車の停電のメカニズムなのです。

どうしたらパニックを防げる?

今回の中央線の事象は防護無線を受信(他の列車から危険信号が発報された)したために、緊急停車しました。その後に続いた停電に乗客の一人が慌ててしまい『非常用ドアコック』を扱って電車のドアを開錠、線路上に飛び出してしまいました。それを見た他の乗客も「何か事件が起きたんだ!」と身の危険を感じて、同じように『非常用ドアコック』を扱って線路上に飛び出してしまい、パニック状態に陥ったわけです。

みなさん、線路上は大変危険だとお分かりいただいていると思います。もしも、すぐ隣の線路を走っている電車が緊急停止信号を受けていなかったら、通常運転しています。そうしたら人身事故になってしまう恐れもありますね。しかし、人はパニック状態になるとその場から逃げ出そうと考えて、次なる危険まで気が回らなくなってしまうのです。

停電になると不安になると思いますが、電車はすぐに全ての電気系統が使えなくなるわけではありません。まずは予備電源に切り替わりますので非常灯が点灯します。そのため夜であっても完全に何も見えなくなることはありません。もちろん、車内アナウンスによる状況説明も聞こえますから、停電になったとしても慌てずに車掌のアナウンスを待ってください。状況を確認するために少し時間をいただくこともありますが、それは乗客に正確な情報を伝えるために打ち合わせを行っている時間だと思ってくださいね。

まずは落ち着いた行動を!

事故や怪我が発生するのは大概が慌てて行動しているときです。周囲が見えにくくなり、二次的な事象に巻き込まれやすくなります。実際に今回のケースではパニックになった乗客同士が接触し、怪我人が発生してしまいました。
たとえば、急いでいなければ券売機や改札口での切符の取り忘れは無くなります。駅のホームを走って転倒するケースも、余裕をもって歩いていれば起こりにくい事故でしょう。

僕が車掌をしていたときは、先輩から「緊急事態こそタバコを一服するくらいの気持ちを持て」と言われ続けていました。本当にそういうときこそ、落ち着いて行動することが大切ですね。ニュースを観ていて、『エアセクション内停車による停電』を意外と知らない人がいましたので、今回この話題を取り上げました。今後も、皆さんのお役に立てるように発信していきますので、引き続きよろしくお願いいたします。では、また♪


「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら

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