
電車の中にある謎の国名とは!?
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
意外と知らない独特の呼び方
あなたは、列車の中に存在する『アメリカ』や『デンマーク』などという座席の存在を知っていますか?
「えっ!? 何それ? 国の名前じゃん!!」と思われた人もいるでしょう。その通りです。
僕も車掌の時は、このような「国名」を毎日使っていました。国の名前のついた座席は、鉄道員の間では『アメリカ席』や『デンマーク席』などと呼ばれています。こんな風に国名のついた座席は、一つの列車の中に全て存在するもので、決して「行き先」を示しているものではありません。どれも「日本国内の列車」に使われているのです。

高崎線では、基本的には4つの国名の座席があります。また新幹線の乗務員は、最大で6つの国名を使い分けていました。最近は、車種の入れ替えでその数は減っているかもしれませんが、現在でも使われています。
あなたが普段列車を利用するときには、このような呼び方はあまり使わないでしょう。むしろ、今回初めて聞いたという人が多いかもしれません。これらの座席名は「普通車両」で使われることはありません。「グリーン車や特急列車、新幹線のみ」に使われる用語です。
今回は、この謎の国名について詳しく説明していきたいと思います。
国名はこのようなときに使っている

まず、鉄道で使われている国名をお伝えしましょう。『アメリカ』『ボストン』『チャイナ』『デンマーク』『イングランド』『フランス』などです。
『ボストン』だけは国名ではなく地名です。これについては、誰が使い始めたのかわかりませんし、理由が明らかにされていません。
僕も師匠に「なぜBだけボストンなのですか? ブラジルとかの方がわかりやすくありませんか?」などと質問しましたが、「昔からの決まりなんだ」と言われてモヤモヤしました。でも、決まりは決まりなので仕方ありません (笑)
これらの国名はグリーン車や特急列車、新幹線などで使うと言いましたが、この時点でピンときた人もいると思います。そうです。「座席番号」が設けられている席のみ、この呼び方を使います。
例えば、『4号車1番のデンマーク席』とか、『5号車2番のチャイナ席』という呼び方をします。実は「アルファベットの頭文字」によって、座席に使う国名を変えているのです。
Aは『America(アメリカ)』、Bは『Boston(ボストン)』、Cは『China(チャイナ)』、Dは『Denmark(デンマーク)』、Eは『England(イングランド)』、Fは『France(フランス)』と呼んでいます。
あなたが駅員さんから指定席の料金券を購入する際は、「『4号車1番のD席』をお取りいたしました」などと言われ、券を手渡されます。しかし、裏では「『4号車1番のデンマーク席』までご案内して!」などとやり取りがされているのです。
なぜこのような呼び方をするのかというと、そこにはしっかりとした理由がありました。
なぜ、鉄道員はアルファベットを使うのか!?

この理由はシンプルです。「聞き違いを防止するため」です。乗務員と指令員は無線でやり取りを行います。無線と言えばノイズはつきものです。そうなると、何と言っているのか聞き分けがとても難しいのです。
例えば、「B(ビー)席」と「D(ディー)席」、「E(イー)席」は発音的に、ものすごく似ていませんか? 案件ごとに「もう一度お願いします、Bですか? Dですか?」などと聞き直していると時間も掛かってしまいますし、間違った席を乗客に案内してしまえば、トラブルになるでしょう。
このように鉄道員の間では、これらの国名を聞けば、どのアルファベットの席なのかわかるようにしているのです。
では、具体的に鉄道員はどのような会話をしているのか見てみましょう。ちなみに、会話に出てくる『GA』はグリーン車の検札などを行う『グリーンアテンダント』の略となります。
GA:「車掌さん、電話に掛かれますか?」
車掌:「こちら車掌です、どうされましたか?」
GA:「使用不可の座席がありますのでそのご連絡です」
車掌:「内容をお願いします」
GA:「はい、それでは、4号車1階席、1番のデンマーク席、座席にお酒がこぼれており使用不可、貼紙対応中です」
車掌:「それでは、繰り返します。4号車1階席、1番のデンマーク席、座席にお酒がこぼれており使用不可、貼紙対応中ですね?」
GA:「その通りです、よろしくお願いいたします」
車掌:「かしこまりました、手配いたします。情報ありがとうございました」
このような感じです。これと全く同じ内容を指令員に無線で伝えて、清掃の手配を行うことによって、迅速な対応が可能となるのです。
確実に相手に物事を伝える工夫は大切

今回ご紹介したアルファベットを国名に置き換える呼び方は、航空業界などでも使われています。やはり意思疎通を行うためには、大切なことがたくさんありますね。
他にも鉄道では、電車が電気を供給する「架線(かせん)」のことを「がせん」と呼んだりしています。これは、「河川(かせん)」との聞き間違いを防止するためです。
伝える側は「架線」に異常がありますと言ったつもりでも、大雨の中での報告であれば、増水した「河川」に異常があると捉えられかねません。「架線」であれば電力係員を手配しなくてはなりませんし、「河川」であれば施設係員を手配しなくてはならないのです。係員が現場に到着してから「自分たちの担当じゃない!!」となっても大変です。そうならないために、呼び方1つにしても、しっかりと決まりがあるのです。
いかがでしたか? 今回は座席のアルファベットに関してお伝えしました。旅行に出かけるときに「窓側の席が良いので『アメリカ席』か『デンマーク席』でお願いします」と駅員さんに伝えたら、ちょっと驚かれるかもしれませんね (笑)
こんな知識を身に付けて、鉄道員気分を味わってみてはいかがでしょうか?
このように、ちょっとした裏話をご紹介していきますので、次回も楽しみにしていてくださいね。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
間違えた情報が流れてしまうと、一刻争う事態の時には人命にも関わってしまうので、誰にでも分かる伝え方は大切ですね。
素晴らしい事だと思います。