せっかく2倍の料金を払ったのに! 失敗した乗客

[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]

途中駅から乗車した、気になる男性

とある金曜日。高崎線下りの「全車指定席」特急列車に乗務していたときのことです。金曜日の特急列車は、特に気を遣って乗務をしなくてはなりません。なぜかというと理由は1つ、“酔客が多いから” です。

比較的早い時間帯であれば、あまり気にすることはありませんが、時間が遅くなるにつれて、会話が弾み大声になる人、お酒をこぼす人、いびきをかいて眠る人など、車内はカオス状態になってきます。

この日も週末の特急列車ということで、車内にはお酒の匂いが充満していました。ただ、早めの時間帯であったため、車内は比較的静かです。僕は、「改札担当車掌(車内を巡回し改札や乗り越し清算を行う車掌)」として乗務をしていました。

いつものように車内改札をしていたところ、ある駅からスーツを着た50代の男性が乗ってきました。2人掛けの席に座ると、持っていたカバンを隣の席に置き、コンビニのビニール袋の中に手を突っ込み、ガサガサと音を立てながら缶ビールとつまみを出しています。

僕はその乗客を気にしつつも、他の乗客がみな座ってから確認しようと、そのまま改札を続けることにしました。

2席使い、脚を伸ばしてリラックスする男性の言い分とは?

しばらくして、そのスーツを着た50代の男性旅客のところまで戻ってくると、彼は靴を脱いで「隣の席」に足を伸ばしてくつろいでいます。リラックスするのは構いませんが、この列車は「全車指定席」の特急です。隣の席に他の乗客が来る可能性があります。

すぐに僕は、その2つの座席の情報を確認しました。すると2つとも「購入済み」になっているではありませんか。購入済みということは、誰か他の乗客がその席を利用するということです。

また同時に、その男性の座席が、窓側の席なのか、通路側の席なのかを確認する必要がありました。そこで僕は、その男性旅客に質問することにしたのです。

「お客さま、恐れ入りますが特急券を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ」

と、特急券をスンナリ出してくれました。その特急券を受け取ると、普段より厚みがあることに気が付いたのです。その理由は2枚重なっていたからでした。

その2枚を確認すると、横並びの指定席特急券ではありませんか!

「隣の席も買ったから文句ないでしょ?」

と男性は一言。そして、堂々とした表情でスマホを見ながらお酒を飲んでいます。

そうです。実はこの男性は、座席を広く使いたいがために、2席の指定席特急券を購入していたのです。ここで、「この人ⅤⅠPだな」とか「頭がいいなあ」と思った方もいるかもしれません。でも、実はこのような特急券の買い方はできないのです。それは何故でしょうか?

同一旅客によって2席は同時に使えない!?

「お客さま、恐れ入りますがそのような使い方はできかねます」
「えっ? なんで!! わざわざ、倍のお金を払って買ったのに?」

その男性は驚きを隠せない様子でした。それもそのはずです。普通の考え方をすれば、2枚買えば2席分使えそうですよね。しかし、JRには『旅客営業規則』というものがあるため、それができないのです。

『旅客営業規則』の第147条第5項に「同一旅客は、同一区間に対して有効な2枚以上の同種の乗車券類を所持する場合は、当該乗車については、その1枚のみを使用することができる。同一旅客が、同一区間に対し有効な2枚以上の指定券を所持する場合についてまた同じ」と定められています。

他のJR6社とも同じです。これを簡単にまとめると「1人の旅客が何枚も乗車券類を持っていても1つの列車で使えるのは1枚のみ」となります。そのため、「座席を広く使いたいから」という理由があったとしても、1人で2枚の指定席特急券は使えないのです。

「じゃあ、なんで駅は発売したんだ!?」と質問が上がりそうですね。補足しますと、駅の「窓口」で購入する場合は、駅員がこういった販売はしません。

しかし、この男性は自身で「券売機」を使い購入したそうです。券売機は、購入者の顔まで確認していません。それで、1回購入した後にもう一度券売機に並び、隣の座席を指定して購入すれば、買うことができてしまいます。

いくつかの条件が重なって、このような状況が生まれてしまったわけです。いずれにしても、2枚購入したからといって2席を使うことはできないのです。

この記事を読んだあなたは、同じことをしないようにしっかり覚えておいてくださいね。ゆったり広い席でくつろぎたい場合は、グリーン車など席のアップグレードをした方が良いということが、お分かりいただけましたでしょうか。

知っているようで知らないことがたくさん

この出来事は、完全なる思い込みと個人の判断が巻き起こした事象といえますね。今回のケースは、他の乗客に迷惑を掛けることはありませんでしたが、「大丈夫だろう」と思っても、実はNGなことがあるのです。

鉄道は、身近な乗り物であるがゆえに、間違った認識で覚えてしまっている人を多く見かけます。他にも代表的なものには、『折り返し乗車』があります。

例えば、本来「B駅からC駅まで」行くのにも関わらず、混んでいて座れないので「始発駅のA駅まで」一度逆方向の電車に乗り、座ってC駅まで乗車するという行為です。また逆に、寝過ごして本来降りる駅を通り越したのに、乗り越し清算をしないで戻る場合なども挙げられますね。

これらの行為は、実は不正乗車で、やってしまえば警察のお世話になります。タクシーで考えればわかりやすいですよね。余分に乗った分はメーターが上がり続けていくのと同じように考えると、覚えやすいでしょう。

今回の記事を通して、鉄道だけに限らず、自分のあいまいな知識の中で行動すると、意外な落とし穴があることを知ってもらえたらと思います。

特に、僕の記事を読んでくださっているあなたやあなたの身近な人には、同じような事象に遭遇してもらいたくありません。是非、家族や友だちにもこの記事をシェアしてあげてくださいね。

では、また♪


「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
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