
もしも線路に物を落としてしまったらどうする!?
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
線路に物を落としたら? まずは駅員に相談
「ご乗車ありがとうございました。お降りの際は落とし物・忘れ物にご注意ください」
電車に乗ると、このようなお決まりのアナウンスが聞こえます。僕は車掌をしているとき、このようなアナウンスを1万回以上行ってきました。しかしながら、その努力も虚しくときどき無線を介して遺失物の捜索依頼が届きます。
電車の中に落としたり忘れたりした場合にはすぐに対応ができるのですが、とても困るケースがあります。それはホームから線路に落とし物をしてしまったときです。「そんなの列車が来ないか確認してすぐ拾いにいけばいいじゃん!」と思う人もいるかもしれませんが、実は鉄道員でさえも簡単に拾いに行くことができないのです。
「財布を落としてしまったのですぐに対応してほしい!」とお願いしても、山手線のように3分から5分間隔で運行している路線の線路に物を落としてしまった場合は、運転時間内での拾得ができずに、最悪、終電が発車してからの対応となる可能性もあります。
では、万が一線路に落とし物をしてしまった場合に駅員はどのような対応をするのか、具体的にお話ししましょう。
まずは列車がその区間に入らないようにする

駅のホームに落とし物拾得用のマジックハンドが設置されているのを、見たことがある人もいるかもしれません。線路に落とし物をしてしまった場合、左右を確認して列車が入ってこなければ、すぐにこのマジックハンドで対応してもらえると思いますよね?
実は、そう簡単には対応してもらえません。このマジックハンドですら、使うためには一般には伝えられていない細かなルールがあるのです。話せる範囲で話しますが、まずは、その区間に列車が入ってこないように手配をしなくてはなりません。
線路の補修のために行われる工事などでは『線路閉鎖(せんろへいさ)』と呼ばれる手配が行われます。例えばレールが古くなり交換をする場合、レールを外したところに列車が進入してきてしまったら脱線転覆事故を起こしてしまいます。これらを防ぐために、その工事の行われている線路の区間を閉鎖して列車を入れない手配をするのです。
では、落とし物を拾得するときはどうでしょうか? 基本的に考え方は同じです。工事のように何時間も線路閉鎖をすることはありませんが、作業を行う数分間は、列車が入ってこないように一つ手前の駅で止めたり、速度制限を行って列車の到着を遅らせ、作業時間を確保する必要があるのです。
このような状況になると、輸送指令員(航空会社でいう管制官)は関係する列車の乗務員に無線を飛ばし、この区間に入らないように指示を出します。全ての乗務員から了解が得られて、やっと駅員に「作業に取り掛かっても良い」という指示が入り作業に取り掛かるわけです。その後、落とし物拾得作業が終わると、今度は逆に駅員から輸送指令員に連絡をして、輸送指令員から関係列車の乗務員に通常運転の指示が出されるわけです。
見えないところでこのような対応をしていると知れば、安易に拾得してもらうことはできないとわかりますね。
山手線で財布を落としてニュースになった事象を振り返る
2022年7月4日の午後8時ごろ、ネット上に流れた動画が物議をかもしていました。この動画はニュースでも取り上げられたので、記憶に残っている人も多いでしょう。

これは、山手線の渋谷駅で乗客が財布を線路に落とし、駅員に拾得を依頼したが5分ほど待たされたことに腹を立て、非常停止ボタンを扱って周囲の列車を止めたという事象です。このケースでも、駅員は落とし物拾得の手配を行うため、関係各所に連絡をとっていたはずです。しかしながら、この男性はこういった行動に出てしまったわけです。
落とし物拾得作業はどのような手順で行われ、どのくらいの時間を要するのかがわかっていれば、もしかしたら、こんなに大事にはならなかったかもしれません。非常停止ボタンは、その名の通り危険を感じ、列車を緊急停止させるときに使うボタンです。人が線路に転落してしまった場合はもちろん、「車いすやベビーカーなどの運行に支障が出るような比較的大きなものが線路に転落してしまった際に使ってください」とポスターなどで周知されています。
JR東日本も「落とし物拾得作業は、山手線のような運行頻度の高い路線では、最終電車の後の作業になることもある」と回答しています。ローカル線のように1時間に1本程度の運行本数であれば、すぐに作業に取り掛かれることもありますが、運行本数が多い路線では、かなり時間を要するということを押さえておいていただければと思います。
落とし物をしないために何ができるか
落とし物をしたくてする人は、この世に存在しないと思います。しかし、ちょっとした不注意や混雑する中で他人と接触した拍子などに、落としてしまうこともあるでしょう。どのような理由であれ、困るのはあなた自身です。落とし物をしない工夫も大切ですよね。

男性であれば、財布をズボンのポケットに入れている人も多いでしょう。そのような場合はウォレットチェーンを付けたりすることも大切ですね。女性はハンドバッグを持つ人が多いので平気なのか?とも思いますが、意外と多いのがハイヒールの靴を落としてしまうケースです。男性であれ女性であれ、落としやすい物があるんですね。

最近では、ワイヤレスイヤホンを落とす人が性別問わず多くなっています。イヤホンの場合は小さい物なので、バラスト(線路の石)の間に入り込んでしまったら、それこそ簡単に習得することはできません。
あなたも普段から、鉄道を利用するときにはどのような落とし物のリスクがあるかとシミュレーションしてみてくださいね。
次回以降も鉄道に関することをシェアしていきますので、ぜひ遊びに来てくださいね。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
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