
「発売当日限り有効の乗車券」日付が変わってしまったら?
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
今更聞けない・・・。少し不安になる最終電車の切符
あなたは日をまたいで電車に乗ったことはありますか? 残業が長引いた、同僚と飲んで帰った、初詣に行ったときに電車の中で年を越した、などと様々な理由で乗ったことがあるかもしれませんね。
最近ではICカードも普及してきているので、なかなか気付かないかもしれませんが、近距離を利用する際に購入する乗車券には「発売当日限り有効」と書かれています。そこで出てくるのが「日をまたいで電車に乗った場合、その乗車券は使えるのか?」という問題です。

僕が車掌として担当していた高崎線の下り最終列車(当時の989M)は、上野駅を23時46分に発車して、終着の高崎駅には1時37分に到着(現在は、この電車は籠原止まり0時59分着に変更)、当時は日本一遅い最終列車として知られていました。
例えばこの989Mで考えてみましょう。Aさんが上野駅で8月1日の23時30分頃に乗車券を購入して最終列車に乗った場合、籠原駅に8月2日の0時59分に到着します。Aさんはふと自分の持っている乗車券を確認すると、「発売当日限り有効」と書かれているではありませんか。そのとき「不正乗車になってしまうのではないか」「警察に連れていかれてしまうのではないか」と、急に不安になってしまったのです。
この場合どうしたらよいのでしょうか?「今更聞けないよ」という人に、今日はこの記事を読んでスッキリしていただきたいと思います。
乗車している途中で日付が変わってしまっても大丈夫?
まず、この乗車券を購入したのが8月1日の23時30分で、終着の籠原駅に到着したときに普通に改札を出られるのかどうか? ということですが、答えは「全く問題ありません。普通に出られます」です。
このようなケースの場合、事実上は「発売翌日」とはなりますが、目的地の駅を出ることができます。もしこのケースが認められないのであれば、このような日をまたぐ路線がある場合は使いづらいですよね。
これはJR東日本の『旅客営業規則』の第155条に明確に記されています。全文は長いので一部を要約しますが、「入場後に有効期間を経過した当該乗車券は、途中下車をしないでそのまま旅行を継続する場合に限って、その券面に表示された着駅までは使用することができる」という内容が書かれています。

ここで『途中下車』という言葉が出てきました。前回の有効期間の記事でも書きましたが、101キロ以上離れた駅に行く場合は有効期間が2日以上になります。この場合は途中下車ができますが、100キロ以内であると有効期間は1日となり、途中下車はできません。そのため、この『発売当日限り有効』と『下車前途無効』という文字がセットになって表示されていますので、一緒に覚えておいてくださいね。
もし、有効期間が2日以上ある場合は、『発売当日限り有効』という文字ではなく、『○月○日から○日間有効』という表示になります。その場合、駅員に申し出て『途中下車印』を必ずもらってください。ここで、自動改札機に乗車券を通してしまうと、あなたのその乗車券は改札機に吸い込まれて二度と戻ってくることはありません。
長旅の場合、最終電車ではじめの宿泊地に到着して、ホテルに泊まって次の朝出発するというケースも十分考えられます。このケースも覚えておきましょう。
えっ!?ちょっと待って!!こんな場合は!?

ここまで説明してきましたが、頭の回転が速い人はこのような疑問を持つかもしれません。それは「入場する前に有効期間を経過してしまったらどうするの?」ということです。
先ほど紹介した当時の989Mを思い出してください。上野駅で、8月1日の23時30分に乗車券を購入して、23時46分に発車したから旅客営業規則の155条に該当しました。しかし、同じ列車で浦和駅から乗ったらどうでしょうか?
この場合、浦和駅の発車時刻は8月2日の0時05分です。乗車券を購入したのが、8月1日の23時58分で、改札を通ったのが0時01分になってしまいました。この場合は先ほどの「入場後に有効期間を経過した当該乗車券は・・・」には該当しないのでしょうか?
確かに、この文面には「入場後に」と書かれています。浦和駅の場合は、入場前に有効期間が過ぎてしまっています。しかし、これも問題なく乗ることができます。普通に考えて、これが許されないのであれば、毎日この時間の浦和駅は大混乱でしょう(笑)。
このような少しイレギュラーな場合も大丈夫ですので、安心して利用してくださいね。
ICカード利用者が意識しないことがたくさんある

最近ではICカード利用者が増えてきて、今回のようなことを考えずに気軽に電車を利用できるようになってきました。しかし、便利になってきているからこそ、本来の意味を忘れてしまうことが多いのも事実です。
僕が車掌になった頃は、まだ高崎線の普通列車は211系という車両が使用されており、肉声放送をしていました。現在は新型車両に置き換えられましたが、当時は各駅に到着する際に車掌が自ら「まもなく~」と毎回アナウンスをしていたのです。自分でアナウンスをしなくてはいけませんから、駅間の景色を覚え、「この踏切を通過したらそろそろアナウンスをしよう」と思っていました。
しかし、最近では全て自動でアナウンスが流れますから、新型車両導入後に登用された新人車掌は、アナウンスポイントを覚えるのにかなり苦労しているようです。
このように、新しい技術が発達して便利になる一方で、本来の意味が表になかなか出てこないこともあります。これは鉄道業界だけではなく全ての業界に言えますが、意識しなくてはいけないことかもしれませんね。
さて、そろそろお別れの時間がやってきましたね。今後も鉄道関係の「なるほど話」をご紹介していきますので、次回も楽しみにしていてください。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
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