
列車の乗務員はどんなときに警笛を鳴らすの?
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
警笛(けいてき)はファンサービスの一環!?
あなたは列車に向かって手を振ったことはありますか? 鉄道好きの人であれば一度は経験があるかもしれませんね。乗務員が手を振り返してくれたり、警笛を鳴らしてくれたりするとハイテンションになりますね。このように、警笛はファンサービスで鳴らすこともあります。
車掌をしていたとき僕自身も、沿線から手を振る子どもたちに応えていました。この行為が鉄道を好きになってくれるキッカケになれば、その子どもたちにとっても、鉄道会社にとってもメリットがありますよね。

もちろんこの警笛は、ただファンサービスのために鳴らしているわけではありません。そもそもは『警笛』ですから、危険なことを回避するための警告の意味や、鉄道関係者に伝える合図の意味で使います。
今回の記事では、この警笛の意味や使い方などを知っていただけたらと思います。
警笛には2種類の音階がある!?

現在の山手線や京浜東北線などで使われている近代的な車両には、2種類の警笛があります。それらは『空気式』と『電子式』です。この2つは『○○式』というように正式名称で言われると、頭の中に「?」マークが浮かんでくると思いますが、次の説明を聞けば納得していただけると思います。
まずは『電子式』を説明しましょう。これは駅にいるとよく聞くと思いますが、電子音が鳴るタイプです。山手線や高崎線の車両が「ファーン♪」と鳴らす比較的小さめの音量の警笛ですね。車両によっては『ミュージックホーン』と呼ばれるタイプもあります。よく特急列車がメロディーを奏でていることがありますよね? それです。電子式は出発するとき(動き出すとき)に鳴らす場合もありますが、音量はさほど大きくはありません。
しかし、非常事態が起こったときは物凄く大きい音がします。それが『空気式』です。その名の通り、空気圧で鳴らす大音量のタイプです。この場合は「ファーン♪」というような優しいものではありません。「パー!!!!」というような大音量のもので、危険を知らせたり、鉄道員を招集するための合図として使います。
ここでお分かりの通り、場面によって警笛も使い分けているのです。例えば自分の担当している列車内に急病人がいて「汽笛吹鳴(きてきすいめい)にて駅員を招集します」と言うような感じですね。(※鉄道員は昔からの慣例で『汽笛』と呼んでいる)
これは自動車で考えてみるとわかりやすいです。あなたが自動車を運転したり、家族の運転する自動車に乗ったときのことを思い浮かべてみてください。クラクションはどのようなときに鳴らしますか? 友だちや知人とすれ違うときに鳴らしたり、対向車や歩行者に危険を知らせたりするときに鳴らしますよね。
そのときのクラクションの大きさをイメージしてみてください。挨拶として鳴らす場合は、小音量で軽く「パッ♪」くらいでしょう。しかし、危険を知らせるときは「パーーーー!」と大音量で鳴らしますよね。鉄道も基本的にはそれと同じことなのです。
電子警笛ができた理由は苦情から?

近年では、沿線環境の向上のために様々な配慮がされています。それは騒音の問題です。住宅密集地では、やはりこの問題は切っても切り離せません。
鉄道では、様々な場面で警笛を鳴らします。全てのことはお話しできませんが、見通しが不良の区間や、列車同士がすれ違う場合、線路で作業中の人に対しての合図などたくさんあり、回数もとても多いです。そのような条件でいわば “爆音” の空気式の警笛だけだと、やはり騒音問題から苦情が来てしまうことは否めません。
旧タイプの車両では空気圧で鳴らす警笛が多かったのですが、このような騒音問題の影響を受けて、多少柔らかな電子音が生まれたのです。
SNS上でよく「そもそも、列車同士がすれ違うときの挨拶を止めればいいじゃん?」という声を聞くので、ここで説明します。
確かに電車同士がすれ違うときに警笛をよく聞きますよね? しかし、これは別に運転士同士が挨拶をしているわけではありません。これは、踏切待ちをしている人に注意喚起をしているのです。

世の中には短気な人もいます。自分の前を一本の電車が通過し終わると、踏切の遮断棒が上がる前にくぐって渡ろうとする人がいるのです。「手前の列車が通過したから大丈夫だ」と思って渡ったら、実は対向列車が来ていたとなったら一巻の終わりです。
そのために、対抗列車がすれ違うときは基本的に長めの汽笛吹鳴を行います。高崎線のように車両の長さが10両、15両であればわかりやすいです。高崎線の車両は1つ20メートルです。10両編成であれば200メートル、15両編成であれば300メートルというわけです。その場合、最後部車両が抜け切る少し前くらいから汽笛吹鳴を行います。
対して、ローカル線の2~3両編成であれば全長で40~60メートルほどですから、先頭車両がすれ違うあたりから汽笛吹鳴することもあります。
このようなことから、短い編成の列車の場合、運転士同士が挨拶をしているように感じる人もいるのでしょうね。
意味を知ればどんどんハマっていく鉄道の世界

1980年代、自動車では「ブレーキを5回踏むと『愛してる』の意味だ」と言われたこともありますが、クラクションには、特別な意味はないですよね。挨拶か警告のために鳴らすことはありますが、それ以上のメッセージはありません。
それに対して、列車の警笛は鉄道員同士の中で意思疎通をする際に必要な標識です。駅員を呼ぶときや保線係員を呼ぶときなど様々な警笛の鳴らし方があったり、線路作業員に安全な位置に退避したかどうかを確認する意味などもあります。
今回の記事で、警笛で鉄道員同士が挨拶をしているわけではないということがお分かりいただけたかと思います。こういうことを少しずつ知っていくだけで、鉄道がだんだん身近な存在になっていくのではないでしょうか。
鉄道員を経験していた僕だからこそお伝えできる話を、これからも発信していきます。今後ともよろしくお願いします。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
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