
線路から鳴り響く不気味な音の正体
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
朝や夕方に線路が悲鳴を上げる!?
あなたは朝や夕方、駅のホームで不気味な音を聞いたことはないでしょうか? 文字でその音を表現するのは難しいですが、あえて文字にすると「ガコッ!」とか「バコッ!」というような音です。
具体的な時間帯は、朝日が昇り始めて少し気温が上がり始めたとき、また夕方に日が沈み始めて少し気温が下がり始めたときです。
近くで聞くとけっこう大きな音なのでビックリすることもありますが、この記事を読んだあなたは「なんだ、そういうことか!」と、少し誇らしい気分になることでしょう。もし、友だちが「何!? 今の音!?」と言った際には、この記事の内容をそのまま教えてあげてくださいね。
実は、これから鉄道員として働きたいと思っている人には、この不思議な音のことを知っておくと有利になることは間違いありません。なぜなら、この問題は保線係員になると必ず向き合わなくてはならないことだからです。
この不気味な音の正体はレールが伸び縮みしている音なのです。レールは、締結装置(ていけつそうち)という金具でマクラギとしっかり固定されています。要は締結装置で抑え込まれているので、動き出すまで軸力が溜まり、その力が締結装置の力を上回った時点で動き出すわけです。
そのときに「ガコン(バコン)!」と音がするのです。

列車が走行すると「ガタンゴトン」という理由
レールの伸び縮みを語る上で知っておかなくてはならないことが、線路の構造です。とはいっても難しいことを言うつもりはありません(笑)。
「線路」と一言で表現してもたくさんの設備があります。バラスト(砕石)の上にマクラギがあり、その上にレールが2本あるという基本的な形を今回はイメージしてもらえればバッチリです。
次に、「列車の走行音は?」と聞けば、子どもでも「ガタンゴトン」と答えるでしょう。この音の秘密を解明すれば自然とこの不気味な音の意味を理解することができます。この「ガタンゴトン」という音は、実は伸び縮みする線路を調整していたのです。
この「ガタンゴトン」という音の正体はズバリ「レールとレールの継ぎ目」です。「そんなことは知っているよ」と思った人もいるかもしれませんが、なぜ継ぎ目があるか明確に答えられる人はどのくらいいるでしょうか? かなり減ると思います。
基本的にレールは25メートルの長さで造られるのが標準です(種類によっては20メートルの場合あり)。そのレールの上を列車が走行し、車輪がレールの継ぎ目部分の上を通ることで「ガタンゴトン」というわけですね。
前輪で片側2つ、後輪で同じく片側2つの車輪が付いていて、前輪の2つが継ぎ目上を通る際に「ガタン(ガン・ガン)」そして、同じく後輪の2つが継ぎ目上を通るときも「ゴトン(ガン・ガン)」と鳴って、「ガタンゴトン」と聞こえるわけです。
まずはこの音のメカニズムは理解できましたね。この継ぎ目が実はレールの伸び縮みを調整する大きな役割を果たしていたのです。この継ぎ目がなかったら、レールが伸びたときにレール同士が押し合って曲がってしまい脱線事故になってしまうかもしれません。
逆に隙間が広すぎても脱線してしまいます。この微妙な調整を管理しているのです。

継ぎ目のない路線とある路線
ここまでの話を聞いて、「僕、山手線とか高崎線に乗っているんだけど『ガタンゴトン』って音聞かないよ」と気付いたそこのあなたは優秀です。そうです、最近では「ガタンゴトン」と言わない路線も増えているのです。
レールは基本的に25メートルと説明しましたが、多くの乗客が利用する線区についてはそれらを溶接して継ぎ目をなくし、乗り心地を向上させているのです。
そうすると出てくるのが「えっ!? じゃぁ、レールの伸び縮みにはどうやって対応しているの?」という問題です。そうなんです。実はレールが伸び縮みしないようにあらかじめ軸力を計算してレールを敷設しているのです。
どういうことかといいますと、鉄のレールは温度差で伸び縮みするわけですから、その敷設場所の件間の気温を集計し、最高温度と最低温度を何年もかけて調査します。その温度をもとにあらかじめレールにストレス(軸力)を掛けてあげるのです。
例えば、一年かけて気温が高い場所であれば、伸びる方が多いわけですから、伸びることを想定して緊張器という機械を使って少し(数ミリ~数センチ)伸ばしておくのです。
ここで成長期の子供の洋服や靴を想像してみてください。すぐに着用できなくならないように少し大きめの商品を買えば多少大きくなったとしても対応できます。そのようなイメージです。
そのため、冬はマイナス10度以上になったり、夏は30度以上になるような年間の温度差が激しいところではロングレールは導入しにくいと言えます。ローカル線になると「ガタンゴトン」と聞こえる意味が何となくおわかりいただけたのではないかと思います。

乗客が普段気に掛けていないことも大切な仕事
僕が保線係員のときは、「縁の下の力持ち」と言われていた通り、乗客に気付かれないように仕事をするのが当たり前でした。言い換えると、乗客に「揺れる」「乗り心地が悪い」などと言われてしまえば仕事を見直さなくてはならないということです。
乗客が何も感じずに列車を利用してもらえることが幸せなのです。仕事中はもちろん、通勤時間帯、休みの日までも線路付近を通るたびに仕事のことを思い出してしまう。やっぱり、そういうプロ意識を全員が持っていましたね。
理数系で計算が得意な人は、ぜひこのような細かい線路の管理を行うメンテナンスのような仕事を目指してみてはいかがでしょうか。
僕の設計した設備が今でも上越新幹線や北陸新幹線の線路上に存在していることを思い出すとすごく誇らしい気持ちになります。
これからも、鉄分多めの記事を投稿していきますから、これから鉄道員を目指す人、趣味で鉄道を楽しむ人もまた遊びに来てくださいね。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
銚子電鉄のイベントの時、間近で線路を見ながら、線路の仕組みの説明を聞きました。
その時の話を思い出しながら、今回の記事を読むと、とてもイメージしやすいです(o^^o)