それNGです! 勘違いしている旅客との接し方

[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]

「知らなかった」ここまで気を遣っている鉄道員

これから紹介する内容は、あなたがこれまでに鉄道を利用してきた中で一度は目にした光景だと思います。

それは、乗客が終点に到着しても寝ていて駅員(車掌)に起こされるシーンです。部活で疲れ切った学生、仕事終わりに一杯やってきた人など、さまざまな人が終点まで寝過ごしてしまうこともあります。

また他にも、朝夕の満員電車で、なかなか閉まらないドアを一生懸命駅員が閉めようとしているシーンも見かけるかもしれませんね。自動で閉まるはずのドアが乗客の身体の圧力で閉まらないのですから、ものすごい力が働いています。

これらは何の気なしに見ている光景かもしれません。しかし、実は鉄道員はこの場面で“あること”に気を遣っているのです。それは“決して乗客には触れない”ということです。

「えっ!? 寝過ごした乗客の肩をトントンして起こしているんじゃないの?」「満員電車も乗客の身体を押しているんじゃないの?」と思ったそこのあなた、良い点に気が付きましたね。そうなんです。実はこのような場合も鉄道員は乗客の身体には一切触れていないのです。

ひと昔前は実際に触れて起こしていたときもあるかもしれませんが、現在はほとんどありません。固定概念ってすごいですよね。その理由をこれから一緒に見ていきましょう。

乗客の身体に触れないのはトラブル防止のため

僕は車掌として11年半働いていました。もちろん最終列車を担当したこともありましたし、昼間の勤務でも、終点で回送になって車庫に入る列車もたくさんありました。

そうなると、必ず何人かいるのが寝過ごしの乗客です。終点に着き、回送になる列車内で気持ちよさそうに寝ています。こういう場合は、どうにかして起こさなくてはいけません。

このときに、あなたならどうやって起こしますか? 寝ている乗客の肩や膝をポンポンと叩きたくなってしまうのではないでしょうか? 実はこの行為がNGなのです。

寝ているのが自分の家族や友人であれば構いませんが、鉄道員にとってはまったく知らない乗客です。言わば、“赤の他人”に気軽に触れるとトラブルが勃発してしまう可能性があるのです。

特に酔客には注意が必要で、肩をポンポンと軽く叩いた程度でも「暴力を振るった」というトラブルに発展してしまうこともあります。

駅で「この行為は暴力です」と書かれたポスターを見たことがあるかもしれませんが、実際には殴らなくても、相手を押したり服を掴んだりするだけで暴力になってしまいます。

もう一つトラブルになる可能性があるのが異性の乗客のケースです。もうおわかりですね。身体に触れて起こしただけでも痴漢的な扱いを受けてしまう可能性もあるのです。そのため、僕は声のボリュームだけで起こすようにしていました。

また、満員電車のドア閉扉のシーンも同様です。これは「ケツ押し」と呼ぶ人もいますが、駅員が満員電車に乗客を押し込むように“見える”あのシーンです。そうなんです、見えるだけで実際は乗客の身体には一切触れていません。これはあくまでもドア閉扉の補助です。ドアを閉まらなくしている荷物などを車内に入れてあげる補助をしているのです。

初めて知りましたか? 実は鉄道員はここまで考えていたのですね。

SNSの発展で自分の行為をさらけ出すような投稿も

最近ではYouTubeやTikTokなどの動画投稿アプリが流行っており、電車内で撮影されたものも数多く出回るようになりました。

中には奇声を上げるものや、電車の吊り革を体操の吊り輪のようにして遊ぶもの、空いている列車内でダンスを踊るものなど、バズるために手段を選ばない人も増えてきています。

その中に「車掌の仕事を無償で手伝う」として、終点に到着した列車内で寝ている人を起こす動画がかなりバズッていました(現時点で再生回数、約50万回)。その人は、見様見真似でやったのか、乗客の身体にポンポンと触れて起こしていたのです。

これを見たときは冷や汗ものでした。若者が赤の他人の身体に触れて起こしていくわけですから、先ほど説明したような暴力や痴漢のトラブルを自ら誘発するリスクを負っているわけです。

視聴者のコメントを見てみると、「ありがたい」というコメントであふれていましたが、コメントをしている人は、面白いか面白くないかの2択です。何をしても視聴者が責任を取ってくれることは一切ないのです。

しかも、この類の動画はバズりたいがために撮影・投稿されたわけですから、悪びれた様子もなく、「自分が偉い」というような形で今でも残り続けています。こういう動画がバズるということは、どこかで真似するような人が現れる可能性もあるのです。

このような行為が、いつかトラブルに発展して全国放送のニュースにならないことだけを祈っています。

やっぱり現場のプロに任せよう

テレビのバラエティーなどで鉄道を舞台としたコントやモノマネが多く出ているからこそ、真似をしたくなる人もいるかもしれません。

その見様見真似がまさかのトラブルを引き起こすことを覚えておいていただけたらと思っています。喧嘩は「ガン飛ばしやがったな」というお決まりのセリフでもわかるように、人に触れなくても勃発することがあるくらいです。

動画撮影となると、相手の顔にモザイクを掛けたとしても服装などから周囲の人に特定され、嫌な気持ちになる事は間違いありません。自分自身のアカウントと顔は晒(さら)しているわけですから、憎悪の気持ちが湧いてきて事件へと発展するケースもあるのです。

動画撮影・投稿で視聴者の気を引くことも今の時代は大切かもしれませんが、考え方というか、自分の中の筋を決めてトラブルを防止していただきたいと心より願っています。

また、鉄道に関わるエトセトラを投稿していきますので、今後ともよろしくお願いします。

では、また♪


「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら

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