落としただけで列車が停まる!? 鉄道員の徹底した教育

[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]

記憶に新しい渋谷駅財布事件

2022年7月5日にSNS上で拡散され、物議を醸した一件があったことは記憶に残っている人も多いかと思います。JR渋谷駅の山手線ホームから財布を落とした乗客が「非常ボタン」を押して列車を止めたあの一件です。

動画内では「なんで取ってくれないんですか!」「お願いしているじゃないですか!」という乗客の言葉に対し、「何なんだ? その態度は!!」「お願いしている態度か!? 山手線止めてんだぞ!!」と激高する駅員と乗客のやり取りがなされています。

動画は上記のやり取りの末に「警察行くから今日帰れねぇからな」「事情聴取長えからな」と話すところで切れていたため、その前後でどのようなやり取りがされていたのかはまったくわかりませんが、SNS上では現場にいた人からは「投稿主が炎上系TikTokerだ」「ワザと押した」「かなり酒に酔っていた」などという声も上がっています。

このように「非常停止ボタン」はその名の通り、押せば確実に列車は止まります。この行為に関してはJR東日本も次のように回答しています。

Q:非常停止ボタンは、どういうときに扱うのか?

A:運行に危険が生じるような場合には躊躇なく『非常停止ボタン』を押して構いませんが、今回は駅員が傍にいたので、それには当てはまりません。悪質な場合には警察に通報することや、必要な処置を取ることもあります。

ということです。たしかに山手線は乗降人員が多いです。しかし、路線に関係なく列車が停まると多くの人に影響が出ますから、物を線路に落としてしまった場合は、まずは駅員に相談してください。

故意的ではないものの結果的に列車を止めてしまったケース

これは、僕が2020年に書いた『乗務員室からみたJR』(ユサブル)という書籍の中にも書いてありますが、危険を感じたときに、赤旗を持っていない人が「左右に大きく激しく」手を振ると電車を止めることができます。これは「代用手信号」といって、立派な信号です。

僕はこの信号を認め、列車を緊急停止させましたが、結果的に孫を迎えに来たおばあちゃんが大きく手を振っていただけでした。結果、何事もなく安心しましたが、本当に列車は停まります。

他にも赤いユニフォームのスポーツチームがありますが、そのサポーターがユニフォームのレプリカや、マフラータオルなどを振り回しても列車は止まります。これは「フェールセーフ」という考え方から来ており、運転士は「危険を知らせているのかどうかわからない場合は、まずは列車を止めて確認しよう」という教育がされているのです。

列車は、動いていなければ事故を起こすことはありません。判断に迷ったときは確実に列車を止める事が優先なのです。これから鉄道員を目指す人はこのことをしっかりと覚えておいてくださいね。

えっ!? こんなことでも列車は止まるの!?

先ほどの「フェールセーフ」の考えから、次の場合も運転士は列車を止めるように訓練されていることを知っているでしょうか? それは、駅のホームに立っている駅員の手から赤旗が少しでも開いたり、落としたりすることです。

「えっ!? そんなに厳しいの?」と思うかもしれませんね。そうなんです。このケースも止まります。先ほど説明したフェールセーフは「危険を知らせているのかどうかわからない場合は、まずは列車を止めて確認しよう」でしたね。

列車の運転士は駅員が赤旗を振っていたら、すぐに非常停止を行います。「でも少し開いてしまった場合や落としてしまったときくらい大目に見てよ」という気持ちもわからなくもないです。

しかし、駅員が危険を感じ、運転士に知らせようとした際に、焦ってしまって赤旗がうまく開かない場合や、落としてしまうケースも考えられますよね。そうであれば「フェールセーフ」の考えで列車を止めておこうというわけです。ですので、駅員も責任重大です。

僕が以前にこのシーンをTikTok動画で流したところ、かなりの反響をもらいました。先輩が赤旗を落とした新人に対して怒るシーンがあったのですが、「そんなに怒らなくても優しく教えてあげればいいじゃん」というコメントをもらったりもしました。

しかし、TikTokですから、わかりやすく大袈裟に表現することもありますが、それほど鉄道従事者にとっては重要なことだということなのです。命に関わることですから。そういうことに関しては先輩後輩関係なく指摘するという風土が、日本の鉄道の安全を守っているのです。

「大は小を兼ねる」これは安全も同じ

安全対策においても、やはり常に意識しておき「フェールセーフ」という考え方を持っているからこそ、日本の鉄道は事故が少ないのです。海外のニュースなどを視ると、踏切で立ち往生した車に列車が高速で突っ込むシーンを結構な頻度で見かけます。

日本の鉄道でも、急に飛び込んできてしまう場合は避けられませんが、「踏切非常停止ボタン」や「踏切支障物検知装置」などの設備で事故の数は最小限に抑えられています。

鉄道員は「だろう」という考え方は絶対にしません。「だったら」という考え方を教育されているからです。「大丈夫だろう」ではなく「もし、○○だったら」という考え方を持ち続けておくことで「フェールセーフ」の行動ができるようになるのです。

僕はそのような考えを今でも持つようにしています。これは鉄道だけに限ったことではありませんね。「もし、TikTokのLIVE中にアンチがきたら」「もし、作りかけの動画が消えてしまったら」というように常にこの考え方を持っていれば、実際にそのようなケースに遭遇したとしても落ち着いて行動することができます。

気持ちに余裕があると、クオリティも自然と上がるので一石二鳥どころか一石数鳥にもなります。あなたも是非この考え方を持つようにしてみてください。きっと、仕事でも人間関係でも悩むことが少なくなると思いますよ。

いかがでしたか? 今回は意外な一面を知っていただけたのではないでしょうか。これからも鉄道に関するアレコレを書いていきますので、また遊びに来てください。

では、また♪


「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら

【関大地さんの著書、そして最近ハマっているものをご紹介します!】

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。