
線路にライオンの糞を撒くの? 意外な事故対策
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
山間部で起こる事故を軽減せよ!
この日本で暮らしていると毎日のようにニュースになるのが人身事故です。列車は人々と地域を結ぶ大切な路線であるのにも関わらず、あの世へと導いてしまうこともあります。このような“列車の使い方”は避けなくてはなりません。
命を守るのは決して人だけではありません。山間部では鹿やイノシシ、狸などさまざまな動物と衝突することがあります。もし、そのようなことが起きた場合には乗務員が運転に支障のない線路脇に移動し、運転を再開します。つまり、鉄道会社の社員の裁量で処理することが可能なのです。
「えっ!? 移動するだけで、そのまま?」と感じた人は安心してください。その後、保線係員が処理しますので。
あなたも、ローカル線で「小動物と衝突して電車が遅れている」と駅のアナウンスがあったり、ネットニュースで見たこともあるかもしれませんね。都心部の人は人身事故のニュースを多く見かけると思いますが、ローカル線では鹿身事故や狸身事故、兎身事故などたくさん起こります。(このような呼び方は一回もしたことはありませんが……)
鉄道会社は野生動物と共存し、さまざまな動物の命を守るための対策を行っています。今回は、そんな対策のうち一番インパクトの強い物をお伝えします。

動物なのに人間と同じ扱い?
鉄道事故の中で、「人間以外の動物が衝突した」と聞いたら真っ先に思い浮かぶのが鹿ではないでしょうか? 実は動物の中でもこの鹿がものすごく鉄道会社を悩ませていることの一つです。
先ほど事故が起こってしまった場合、乗務員が運転に支障のない場所に移動させて運転再開するとお伝えしましたが、中には鉄道会社による勝手な処理が許されていない動物がいるのです。
それはニホンカモシカです。このニホンカモシカは国の天然記念物に指定されています。もしニホンカモシカが線路内に飛び込んできて列車と衝突して命を落としてしまった場合は「天然記念物の損壊」になってしまうのです。
では、列車がニホンカモシカと衝突したらどのような対応をするのか気になりますよね? これを今回明らかにしますね。
まずは鹿と衝突してしまった場合は、ニホンカモシカかどうかを確認します。もしそれがニホンカモシカであった場合は人身事故と同じような扱いになります。現場には警察が来て、現場検証などが行われるのです。
その運転士が罪に問われるという話ではないのですが、事情聴取も行われます。ここで「うわぁ、大変だ!」と他人事に思っているそこのあなた、決して他人事ではありませんよ。
あなたが温泉好きで山間部を自動車で移動中、鹿とぶつかってしまった場合も同様です。「なんだ、鹿か。人じゃなくてよかった……。車が凹んだけど仕方ないな」でその場を立ち去ってしまったら、もしかすると後で警察からお呼びが掛かるかもしれません。もし鹿などとぶつかってしまった場合は、念のために警察に連絡することをオススメします。

ライオンの糞が小動物の命を守る効果抜群!?
動物との接触事故を減らすためにはどのような対策をとったらよいか悩むところです。動物が出てきそうなところにフェンスや金網などを張る場合はそれなりに予算が掛かりますし、実施するなら全区間に張らないと隙間から侵入してしまう可能性もあります。
そこでJR西日本の和歌山支社では近くの動物園からライオンの糞を譲ってもらい、それを利用することにしたのです。「えっ、なんで!? 汚い!!」そう思いますよね。しかし、それを水に溶いて線路に散布したところ、ピタリと事故がなくなったのです。
正確に言うと、臭いが薄まるまでの3カ月間事故が1件も起きなかったわけですが、近隣住民から臭いに関する苦情が出たということと、糞を入手して水で薄めて散布する手間などの問題があり、その後は継続が難しかったようです。
では、なぜライオンの糞なのでしょうか? それは野生動物の本能を刺激したからなのです。ほとんどの動物は「百獣の王」と呼ばれているライオンを避けます。
しかし、そもそもニホンカモシカはライオンにも会ったことはないのではないかと思いますよね。これは、ニホンカモシカに聞かないとわかりませんが、やはり本能的に避けたいのでしょう。
JR東日本は岩手大学と共同研究を行っており、ライオンの糞から最も効果がある成分を抽出し、それを液剤にして散布しています。成分ですから臭いは関係ありません。
他にもネットやレーザー光線などを使った衝撃防止対策を行っているようですが、ゼロにはならないようです。やはり、すぐに思いつくような対策ではなく、ライオンの糞のように、本能的に線路に近づけなくする方法が効果的なようですね。

人間社会でも同じ!?
たしかにこれは人間でも同じですね。「入るな! 危険!!」と書いてある貼紙をさまざまな場所に掲出しても、無視する人は一定数います。サングラスをかけた、体格の良い強面の黒づくめの男性を入り口の前に立たせておいたほうが効果はあるでしょう。これも自己防衛本能ですよね。
僕は車掌の頃、電車の扉の前に座り込んで立とうとしない若者にストレートに注意をしましたが、まったく動じませんでした。そこである機転を働かせたのです。それは「その場所(座り込んでいる場所)、昨日飲みすぎて吐かれた場所なんです」といったところ、すぐに立ち上がらせることができました。
これも、やはり本能を刺激するほうが効果的なんですね。汚いところには触れたくないという本能的な部分を利用して生み出した解決策です。
今までうまくいかなかったことでも、少し視点を変えてみればその解決策が見いだせるかもしれません。今回は少し斜め後ろというか、予想もしていなかったような内容をお伝えしましたが、これからも鉄道に関するアレコレをシェアしていきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
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