
えっ!何!? 新幹線の線路に黒いものが……
[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]
線路が“黒いもの”に覆われているのは何!?
だいぶ肌寒い季節になってきましたね。季節が変わってくると鉄道の線路も変わってくるものもあります。今回はその1つをご紹介しましょう。
今回の話は冬の期間しか見ることができません。ですので、この記事を冬以外に読んだ人はしばし冬が来るのをお待ちください(笑)。
あなたは新幹線の線路を気にして見たことはありますか? あまりないでしょう。それではポイントを絞って具体的に質問します。マクラギとマクラギの間に“黒いもの”が敷き詰められている光景を見たことはないでしょうか?
この“黒い物”は非常にレアです。11月の終わりくらいから徐々に見ることができるのですが、東京などの都心部ではあまり見ることはないかもしれませんね。都心から離れれば見られる可能性は上がってきます。ちなみに、僕が保線を担当していた上越新幹線(北陸新幹線)の高崎駅などでもこの光景は見られます。
僕が保線社員として働く前は、この“黒いもの”が何を意味しているのかまったくわかりませんでしたが、実際に働いてみて先達たちがさまざまな観点から安全を考慮して開発した賜物だったことを知って感動しています。
今回はこの謎の“黒いもの”についてくわしく解説していきたいと思います。

この“黒いもの”の正体は事故防止用のマットだった
この新幹線の線路に敷き詰められている“黒いもの”の正体は一体何なのでしょうか? これは人の命を守る大切な役割を果たしているものだったのです。
実はこれは「バラストマット」と呼ばれるもので、ゴム製でマクラギとマクラギの間に敷き詰められています。役割は、バラスト(線路に敷き詰められている砕石)が飛散して沿線の建物や歩行者、自動車などにぶつかる事故を未然に防ぐことです。
「えっ!? バラストが何で飛んでいくの?」と思いますよね。これは新幹線の上部に降り積もった雪が落下して、バラストに当たり、その反動でバラストが飛散してしまうのです。
「なんで、雪ぐらいでバラストが!?」とさらに疑問が湧き上がりますよね。もちろん、降ったばかりのサラサラな雪であればバラストが飛び散る可能性は低いかもしれませんが、水分が多めの重たい雪の場合や、降雪からしばらく時間が経過して凍り始めた場合を想像してみてください。
重たい雪の塊がバラストの上に落ちたら細かいバラストは簡単に跳ね上がります。それが新幹線の速度で落下するので、ものすごいパワーが生まれるのです。
この新幹線から雪が落下する、バラストに当たる、バラストが飛散する、事故が起きるというような事故のフローはあまり想像できませんよね。このようなこともつねに考えながら保線係員は業務にあたっています。

在来線はマットではなく直接バラストを固める
それでは、新幹線以外のところはどうでしょう。在来線でも特急列車が走ったりと、120km/hなどで走る列車もありますから、そのような危険性はないのでしょうか?
実は「バラストマット」ではなく他の方法でこのバラスト飛散対策を行っているところもあります。それは“直接バラストを固めてしまう”という方法です。
そうです、固めてしまうのです。簡単に言ってしまうとバラストの上から接着剤をかけて、バラスト同士を固めてしまう方法です。マットを敷かなくても直接固めてしまうことにより飛散を防いでいます。
実はこの方法は、雪対策だけでなく他の面でもメリットがあるのです。たとえば、線路の構造が変わる区間がありますよね。橋梁や分岐器などはその構造が変わるので、列車がその上を走るとどうしても線路に負担がかかってしまいます。
そのような場所は、極端に列車の重さが1カ所に集中してかかるので、傷みやすいのです。あなたがよく履くジーンズを思い出してください。長年愛用しているものは変色しますよね。同じポケットにスマホや財布を入れている人は、ポケットがその形に変色していて「必ずそこに入れているんだな(笑)」とわかります。
線路も同様に、構造が変わる場所には毎回力が加わりますので、バラストが砕けてしまうのです。そのために強化対策として固める場合もあるのです。これはケースバイケースですね。そのため、一概には言えませんが広い範囲である場合は飛散対策として、狭い範囲の場合は線路強化という見方もできますね。
線路を見てテカテカしていたら「この液体によってバラストが固められているんだな」と思ってください。

鉄道の線路は安全対策のかたまり
いかがでしたか? 今回は降雪時の安全対策として行っている取り組みについてご紹介させていただきました。普段意識しないと疑問すら湧きませんよね。
鉄道会社は毎日のように安全対策を行っています。事故に至らなくてもそのリスクがあるような場合は芽から潰していくのです。危ないと思ったこと、「もしかしたら事故につながるのではないか?」ということをつねに意識して行動し、会議などで出し合い、優先順位の高いケースから順に対策を打っていくのです。
この「バラストマット」も衝撃のことを考えて比較的やわらかいゴムにしたりと改良がされてきているわけです。改良に改良を重ねて、効果を検証していくわけですね。
このように商品そのものを開発する場合もあれば、身近にあるものを活用してすぐに対策をすることもあります。それは規模やリスクによってさまざまです。
これから鉄道員を目指す人はこのように「こうしたらもう少し安全になるのではないか?」というアイデアがありましたら、ぜひ教えてください。あなたのこの貴重な意見が日本の鉄道の安全をさらに向上させるキッカケとなるかもしれません。
またこのような鉄道の裏側をお話ししたいと思いますので、次回も楽しみにしていてくださいね。
では、また♪

「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら
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