「生涯運転士」は夢の話 ~鉄道会社の働き方改革~

[ WEB車掌SEKIDAIの「新たな世界に駆け込み乗車」 ~乗って気付いた異次元な世界!~ ]

変わりゆく鉄道業界

こどもに将来の夢を聞くと返ってくる答えの一つに「電車の運転士」があります。やはり鉄道は身近な乗り物ですし、あこがれの存在ですよね。路線によって形やボディーカラーも違えば1編成の長さも違います。大人でも見ているだけで楽しいです。

特に男の子は鉄道沿線で颯爽と走り抜ける姿を見てはしゃいで、それがキッカケで実際に電車に乗せてもらったり、おもちゃを買ってもらったりして、だんだんと電車好きになっていきますね。

このような環境で育つといつのまにか「出発進行!!」などと運転士の真似をし始めます。僕はいつもこの姿を見るとホッコリするのですが、最近では複雑な気持ちになっています。

その原因は「鉄道業界の働き方改革」が進んでいるためです。この影響で「運転士を目指す」とか「生涯運転士でいる」という目標を持ち続けている鉄道員がかなり減っていると思います。

これから鉄道業界を目指している人にとってはかなりショッキングな事実ですよね。「こんな記事は読みたくない」と感じる人もいるでしょう。しかし、前もってこの事実を知っておくことによってこれからの進路について考えられます。

今回はこれからの鉄道業界がどうなっていくのか予想も含めてお話ししていきたいと思いますので少々お付き合いください。

20年前の“鉄道員のルート”

僕がJR東日本に入社した2002年は、①駅員、②車掌、③運転士というのがルートになっていて、実際に運転士を目指す人が多かったです。一般的にはこのルートが自然な流れです。

まず駅員になって切符の発売や払い戻し、乗り換えの案内などを行うことにより基礎知識を身に付けます。その後に車掌になって電車のアナウンスや車内精算を行い、その後に運転士になるのです。

「えっ!? 英語車掌さんは保線出身ですよね?」と感づいた人は鋭いです。そうです、中には僕のように①保線係員、②車掌というような異例のルートや、車掌を経験してから電力係員になった人もいました。今ではそういう人の話はなかなか聞きませんね。

よく考えてみればわかることなのですが、“その道のプロ”になってもらうために人事担当は採用します。せっかく保線の技術的知識を身に付けたのに車掌や他の業種に転向してしまったら「これまでの数年間は何だったの?」となってしまうからです。

保線や電力のように設備メンテナンス部門から乗務員になる人は少ないのですが、車両メンテナンスから運転士になる人は一定数います。これは車両の構造を熟知して運転士になるほうがトラブル発生時にすぐに対応できるからです。

「保線でも電力でもトラブルが発生したときには役立つじゃん!!」と思う人もいると思いますが、保線や電力は設備部で、車両メンテナンスや乗務員は運輸車両部という部門に分かれているのです。

たとえば、電化製品を扱う会社でも工場で商品を製造する人と商品を販売する店舗スタッフでは採用が異なったりします。このように考えてもらえればわかると思いますが、一度その部門に入ったら別部門に異動することは難しいのです。

近年で変わり始めた採用形態

2020年頃から採用形態が変わってきたようなのですが、僕も驚いたことがあります。それはさまざまな試験がなくなってきているということ。僕が車掌になるときには「車掌試験」といって年に1度の試験に合格しないと車掌として登用されることはありませんでした。

しかし噂によると、最近では鉄道会社によっては運転士試験もなくなり、入社すると早い段階で運転士の免許を取得するそうです。これは、人事異動をやりやすくするためだそうです。

運転士は国家資格です。免許を持っていなければもちろん運転することはできません。免許を持っていれば「はい、君は今度から運転士ね」という異動ができるようになります。逆に「はい、君は今度から駅員ね。3年したらまた運転士ね」ということも事実上は可能です。

少し話が変わりますが、僕は大型自動二輪免許を持っています。中型免許しか持っていなければ1400ccのオートバイは乗れませんが、大型免許を持っていれば400ccは乗れます。この「大は小を兼ねる」という考え方に似ていますね。

実際に、運転士だった僕の友人は現在車掌をしていますし、駅員をしている人もいます。中には2つの業務を兼務している人もいるようです。これから先はもっと変化が見られるかもしれませんね。

 現実を知り、的確な目標を立てていただきたい

いかがでしたか? これから鉄道員を目指す人にとっては押さえておかなくてはならない大切なことをお話しさせていただきました。

運転士にあこがれて鉄道員を目指している人や、一つのことをずっとやり続けたいという人にはショッキングなことだったかもしれません。

しかし「せっかく鉄道会社に入るのだからさまざまな部門で働いてみたい」、「さまざまな分野での経験が自分の幅を拡げる」というようにポジティブに考えられる人からしてみたら、もの凄く良い経験ができるでしょう。

たしかに僕自身も、保線係員を経験してから車掌になったことによって、線路で起きた設備トラブルなどの事象をすぐにアナウンスで状況説明することができました。

これからの時代は少数精鋭でマルチに働ける人が重宝される時代です。昨今では電気代の高騰も後押ししてどの鉄道会社も運賃値上げをします。鉄道会社が生き残っていくためには増収とコスト削減を行わなくてはならないのです。

人件費はその最たるものの一つです。これからも機械化や自動化が進み、ヒトに頼らない仕組みがどんどん生まれてくるでしょう。鉄道員を目指している人はそのような時代に入っていることを忘れずにこれからも進み続けてください。応援しています。

今後も鉄道に関する知識や僕が考えていることをシェアしていきたいと思います。

では、また♪


「2007年にJR東日本の車掌となる。車掌による英語での車内アナウンスがなかった当時、独学で英語を学び、車内英語アナウンスを決行。すぐに動画サイトやSNS上で話題になり「英語車掌」と呼ばれるようになる。2019年に退社し、鉄道、英語にかかわる事業を立ち上げ活動中。
関大地さんの紹介ページは→こちら

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  1. ひろポンちゃん

    今回はショックな話と納得な話で複雑な心境です。働き方改革によって、良い面ばかりじゃないと思います。いつか人間のいない鉄道会社や路線が出来、全てが機械化になり、子供達の夢がリアルな車掌さんから車掌さんのロボット作りや開発に変わる日がくるかも?

  2. cecille

    職人技や技術職が大切だった昔。
    もちろん今でも、必要なことなのでしょうけど、いろいろな才能があった方が得な、現代の職業事情ですね😊