「海の水」が由来という素直な名前の『アクアマリン』。自分を素直に戻す効果が!

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

実は緑がかっていることが多い

では今回は、3月の誕生石である『アクアマリン』のお話をいたしましょう。

アクアマリン 和名:藍玉(らんぎょく)・水宝玉(すいほうぎょく)、モース硬度は7.5から8程度です。結構硬い石ですね。

アクアマリンという名前はラテン語の「aqua(アクア:水という意味)」+ 同じくラテン語の「marina(マリナ:海という意味)」が由来となっています。要するに「海の水」ってことですな。この淡い水色をした宝石につける名前としてはぴったりの名前ですね!

アクアマリンは「ベリル(緑柱石:りょくちゅうせき)」という鉱物の一種です。
ベリルの中で青い色をしたものを「アクアマリン」、鮮やかな緑色をしたものを「エメラルド」、明るい金色をしたものを「ゴールデンベリル」、やや緑がかった黄色のものを「ヘリオドール」、淡いピンク色のものを「モルガナイト」、赤いものを「レッドベリル(超レア!)」、無色透明のものを「ゴシェナイト」と呼びます。

(アクアマリン)
(エメラルド:「傷が無いエメラルドを探すのは欠点の無い人を探すより難しい」と言われるほどインクルージョンやクラッキングが多い石)
(ゴールデンベリル)
(ヘリオドール)
(モルガナイト)
※レッドベリル:『ビックスバイト(bixbite)』という別名で呼ばれることもあるが、実はその名前でこの石を呼ぶことは ”bixybyte”っていう別の鉱物と混同する危険性があるからという理由でCIBJO (World Jewellery Confederation:世界貴金属宝飾品連盟)とIMA(International Mineralogical Association:世界鉱物学会)によって非推奨とされている。CIBJOはともかくとして、およそ鉱物学において、IMA様に逆らうのは得策とは思えませんね!


※豆知識:「“International Mineralogical Association”が“IMA”になるのは分かるけど、“World Jewellery Confederation”がなんで“CIBJO”になるのよ?」と不思議に思われた方もいらっしゃることでしょう。これ、元はフランス語なんです。フランス語だと“Confédération Internationale de la Bijouterie, Joaillerie, Orfèvrerie des Diamants, Perles et Pierres”という非常に長ったらしい名前になります。そりゃ縮めて呼びたくもなるわ!

(ゴシェナイト)


ちなみに、それぞれの石の発色原因(色の違いの理由)を詳細にご説明し始めると、最初の3行あたりで大半の方が回れ右してしまうと思いますので、ここではスルーいたしましょう。Fe2+とかFe3+って言われても拒否反応が起こらない方は、ご自分で調べてみて下さいね。

まぁ今回は『アクアマリン』のお話ですので、ベリルのご紹介はこのくらいにしておきましょう。

アクアマリンはそこそこお高い石です。
カラットが大きくなればなるほど、透明度が高くなればなるほど、その色が鮮やかな青であればあるほどお値段が跳ね上がります。

実は未処理のアクアマリンは緑がかった青色をしていることが多いのですが、顧客の方々の思い描く『アクアマリン』の色は「海の水のように青く透き通った色」なんですよねぇ。
なので、アクアマリンの緑色(黄褐色)を取り除くため、加熱処理(400℃程度の低温加熱)が施されることが一般的です。

ま、ぶっちゃけると、市場に安価で出回っている小さめ(5カラット以下)のアクアマリンには加熱処理が施されているものだと考えたほうがいいでしょう。

非加熱処理のアクアマリンを探し出す2つの方法

そして、そのアクアマリンが非加熱か加熱処理済みかを調べることは非常に困難です。ルビーやサファイアみたいに高温で加熱処理されるならまだしも、低温の場合はそれが自然によるものなのか人工のものなのかを識別することはまず無理だからです。

「いやよ。私はどうしても非加熱のアクアマリンが欲しいのよ!」というお声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて。
別に自然に(地熱で)加熱されて青くなろうが人工的に処理されて青くなろうが、プロセスとしてはそう変わりはないので、そこまで神経質になるこたぁないとは思いますが、まぁ非加熱(であろう)アクアマリンを探す指針なら2つほどございますよ。

一つ目。
加熱処理を施さなくても初めから青いアクアマリンが産出する地域のものを買うこと。
例えばパキスタン、アフガニスタン、モザンビーク、マダガスカルなどです。(ブラジル産の物はやや緑がかっていることが多いけれど、品質はとても良い!)
この方法をとるにはその石の鑑別書(GIAかGRSの鑑別書だと最高!)をチェックすることが不可欠となります。鑑別書がついてない石は「加熱処理済みだ」と考えてほぼ間違いないでしょう。

※GIA(Gemological Institute of America):アメリカ・カリフォルニア州にある宝石学教育機関及び鑑定機関。ダイヤモンドの品質評価基準の『4C(カラット・カット・クラリティ・カラー)』はGIAが考案したもの。
 
※GRS(Gem Research Swiss Lab):スイスにある宝石研究機関。香港やタイ、ニューヨーク、スリランカにも支部がある。特にルビー・サファイア・エメラルド・スピネル・トルマリン・ガーネットに施されている人工処理の識別に強い。

二つ目。
そのアクアマリンが5カラット以上の大きさで、お値段がそれなりに高額であること。
その石の価格は、その石の品質を表す非常に重要な指針だとあたしは思いますよ。

(わずかに緑がかっていることが分かりますか? この25カラットのブラジル産非加熱アクアマリンのお値段は250万円ほどです。うひょー!)


「ああ、やっぱり、大きくて透明度が高くて鮮やかな青色で非加熱のアクアマリンなんて、気軽に手が出せるお値段じゃないのね。せめて写真でもいいから、そういう石をふんだんに使った宝飾品を見てみたいわ」とお嘆きのあなたにあたしから朗報です。

あたしは、世界最高峰のブラジル産アクアマリンを「これでもか!」と散りばめた宝飾品をお持ちの方をお一人存じ上げております。良い機会ですのでその方をご紹介いたしましょう。

(By Agência Brasil – EBC, cropped by Limongi – cropped from File:Elizabeth II, Buckingham Palace, 07 Mar 2006.jpeg, CC BY 3.0 br, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11765513


皆様ご存知「エリザベスⅡ世英国女王陛下」です。
女王陛下のティアラ、ブレスレット、イヤリング、ネックレス全てが、最高級品質のブラジル産アクアマリンとダイヤモンドで彩られています。アクアマリンが主体となった宝飾品において、これ以上の品は世界にはまだ無いでしょうね。超綺麗!

己を乱す者から身を守る効果が期待できる

さて、目の保養もできたところで、そろそろアクアマリンの伝承のお話に移りましょう。

ターコイズやアマゾナイト同様、青い石は空や海の神と関連付けられるものですが、アクアマリンの場合はギリシャ神話の海の神であるポセイドーン(ネプチューン)と結び付けられました。まぁ、「アクアマリン(=海の水)」という名前からしてここまでは想定の範囲内でしょう。

実は、アクアマリンは、「セイレーン」の宝箱からこぼれ落ちた宝石だと言われているんです。
セイレーンとは上半身は美しい女性の姿で、下半身は鳥だったり魚だったりする異形の怪物なのですが、とても美しい歌声を持っていることで有名なお嬢さんたちなんですよ。

ただ、タチが悪いことにこのお嬢さんたち、航行中の船の近くの岩礁の上に陣取って、美しい歌声で近くを通る船の船員たちを魅了し、自分達のいる岩礁の近くへとおびき寄せては座礁させたり難破させたりする悪癖がありましてね、航海中の船にとっては天敵と言っても良いほどやっかいな存在だったようです。(しかも船員を溺死させた後は食べちゃうんだよ。可愛い顔してやることえげつない!)

(獲物を呼び寄せている真っ最中のセイレーンさんたち:Par Didier Descouens — Travail personnel, Domaine public, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=122600066
(船にまで乗り込んでくるアグレッシブなお嬢さんたち:By Herbert James Draper – 1. Art Renewal Center2. Unknown source3. The Bridgeman Art Library, Object 96235, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4226713


今も昔も、大海原を航行中の船にとって、座礁や難破は避けたいものです。ですので長い航海に出かける船乗りさんたちは、アクアマリンを「海神ポセイドーンの加護を得て、セイレーンの歌声から自分たちを守る」ことを願ってお守りとして身に着けるようになりました。

そうそう、この伝統を受け継いだ見事な「Nautical Ring(航海指輪)」がございますよ。1893年に有名な宝飾メーカーである『ティファニー』によって作られた逸品です。

(航海の無事を願って作られたアクアマリンの指輪:©The Walters Art Museum)


つまりアクアマリンとはただ「神の加護を得る」ためだけのものではなく、「自分を破滅へと誘う(いざなう)声から自身を守る」ことも目的としてお守りにされた石なのです。なかなか面白い伝承ですよね!

この伝承を現代風に言い換えるなら、「自分を惑わす他人の声」から我が身を守る…ということになるでしょう。
「おいしい話だと思って飛びついたら、巧妙に仕組まれた詐欺だった」みたいなニュースは毎日のように耳にしますしね。
ま、そういうのは用心すれば引っかからずに済むことも多いんですけれど、「自分を貶める(おとしめる)人の声」というのは、防ぎたくても防げないことがあると思うんです。

「お前は役立たずだ」「お前は価値のない人間だ」「誰もお前なんか愛さないだろう」…。そういう「あなたの存在を否定する」言葉を、親から他人から自身の内側から投げかけられた人も大勢いらっしゃることでしょう。

いいですか。その『声』はあなたを惑わす『セイレーン』の歌声だ。あなたを破滅へと誘う『異形の怪物』の声だ。決して耳を傾けてはいけません。
その声に耳を貸したが最後、いずれあなたはその『化け物』に身も心も喰い殺されてしまうでしょう。

そうはいっても物理的に耳を塞ぐにも限界がありますし、自身の内なる声だった場合はそれじゃ防ぎきれませんしね。

そういう場合にお勧めなのがこの『アクアマリン』です。あなたを座礁させようと歌う化け物たちからあなたを守り、人生という長い航海の道しるべとなってくれることでしょう。
 
ちょっと余談になりますが、あたしが幼い頃、母に言われた言葉がございます。

「お前が今後何か思いつくことがあったら、それがどんな考えであっても、『そいつは素晴らしいアイデアだ!』とまず自分の考えを肯定するようにしなさい。なぜなら、お前の考えを否定してくれる人間は、お前の周りに星の数ほどいるからです。だからお前だけはいつもお前の味方でいなさい。自分で自分を否定してはいけない。それは他の奴らの仕事です」

幼いあたしは、尊敬する母君の言葉なのだから、きっとその通りなのだろうと信じて、今まで自身を否定することなく生きてきました。
おかげで少々尊大な性格にはなってしまいましたが、『化け物の歌声』があたしに届いたことはいまだかつて一度も無いのです。
よろしければ、アクアマリンと共にあたしの母の言葉も、あなたの胸に留めて頂けましたら幸いです。

おや、すっかり話が長くなってしまいましたね。
では『アクアマリン』のお話はこれくらいにいたしましょう。

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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