レベル1の偽物、レベル2の偽物、レベル3の偽物まである…「琥珀」

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

実はあたしには現在「弟子」が3名いるのですが、彼らが「次のデジタルデンのネタは『琥珀』でいきましょう!」と強く推薦してきました。
あたしは「若いお嬢ちゃん方の夢と希望をぶち壊すのはいかがなものか」と一応反論はしたんですけれども、「儚い(はかない)夢など若いうちに砕け散ったほうがいい!」というよく分からない理論で押し切られてしまいました。いやぁ、人生とはままならぬものですなぁ。
どうしてそんなことがいえるのかは、この先読み進めることで明らかになっていきますので、今はこれ以上言いませんけど…。

そんなわけで今回のテーマは「琥珀」です。
琥珀好きの方は覚悟してお読みください。

琥珀は鉱物ではありません

琥珀(こはく)。英語名:Amber(アンバー)。
モース硬度はなんと2から2.5! もろい! モース硬度最高峰「10」を誇るダイヤモンドの1/4~1/5ほどの硬度しかありません。とても傷つきやすいので、取り扱いには十分注意なさってください。

琥珀は鉱物というより「天然樹脂」です。正しくは天然樹脂の化石。
要するに松脂(まつヤニ)みたいな「植物の樹皮から分泌されたヤニ」が化石化したものです。ここで「ヤニとは何か」という講義を始めちゃうといつまでたっても話が進まないので、そこらへんはご自分で調べてみてくださいね。
(超簡単に言っちゃうと、「ヤニ」とは植物などから採れる常温で固体の、水と混ざりにくい物質のことです。専門用語で「疎水性(そすいせい)」と言います)
 
なんで「琥珀」って名前になったのかと申しますとね、「琥」っていう字の中に「虎」が入っているでしょ? 昔の中国では、虎が死ぬと琥珀になるっていう言い伝えがあったんですよ。色合い的にも頷ける話ですよねぇ!

(琥珀の原料呼ばわりされてご機嫌斜めなシベリアンタイガーさん)

「電気」の語源は「琥珀」。それは静電気が関係していた

そうそう、英語で「電気」のことをelectricity(エレクトリシティ)と言うんですが、これは古代ギリシャ語での琥珀「エーレクトロン(太陽の輝き)」が語源となっています。

なぜ琥珀が「電気」の語源に?と不思議に思われる方もいらっしゃるでしょう。
「エーレクトロン」という言葉自体は「太陽の輝き」を意味するのですが、琥珀を動物の皮などでこすると細かなホコリやチリが琥珀に引き寄せられる(静電気が生じている)ことは、古代ギリシャの時代から知られていたことだったんですよ。

そんなわけで「(琥珀のように)物を引き付ける特性」のことをラテン語で「electricus エレクトリクス(意訳するなら「琥珀みたいな力」)と呼んだことから、「エレクトリシティ(英語で「電気」)」という言葉が生まれました。これ、後で大事な話に繋がりますので覚えておいてくださいね。

琥珀は旧石器時代(だいたい200万年前)の頃から人類に愛され続けた化石です。真珠や翡翠(ひすい)と同じように、古くからその美しさで人を惹きつけ、装身具として利用されてきました。琥珀の持つあのねっとりとした色合いは、「琥珀色」以外に表現する言葉がありませんね。まさに太陽の輝き!

レベル1の偽物「琥珀」とは? ~材料は同じだけど…

しかし哀しいかな、その美しさ故に「偽物」が多いのも事実です。
そしてもっと哀しいことに、安価で出回っている「琥珀」は、「琥珀」と呼ぶには至らないシロモノであることが非常に多いのです。ああ、この話が琥珀好きな若いお嬢さん方のガラスハートを傷つけなければいいのだけれど…。

では心を鬼にして話を続けましょう。
最初に申し上げましたとおり、琥珀とは「木の樹液が固まったもの」です。
樹液って最初は粘着性の半液体なのですが、だんだんと揮発(きはつ:液体が常温下で気体になること)し、固形化してゆきます。しかしこの段階では、まだ「琥珀」ではありません。

その「固形化した樹液」を構成する分子が重合(じゅうごう:分子が2つ以上化学的に結合し、元の分子よりも分子量の多い化合物を形成すること。超乱暴にたとえるなら、トースターの中の1個のお餅が隣に置かれた別のお餅とくっついて、より大きな一つのお餅になるようなもの)することにより、「固形化した樹液」はだんだんと硬化してゆきます。このプロセスには数万年から数百万年かかると言われております。

重合が終わった木の樹液の塊は、本来であれば溶けてしまうような有機溶媒(ゆうきようばい:アセトンとかガソリンとかがそう。アセトンはジェルネイルのリムーバーにも使われていますよ)にも不溶性(溶けないってこと)を示すようになります。
これが「琥珀」です。
 
繰り返します。
重合が終わった木の樹液の化石こそが「琥珀」です。
これが終わっていないものは、ただの乾燥した「樹液の塊」に過ぎません。
最近ではそういうものを「若い琥珀」とか「コパル(コパール)」などという響きのよい名前で販売しているようですが、それはただの乾燥した樹液の塊です。琥珀ではありません。

なぜここまで言い切るのか。
「”Amber should properly be limited to the ancient polymerized resins that do not become sticky again when a drop of organic solvent is applied.”(琥珀という用語は、有機溶媒の雫が塗布されても再び粘着性にならない古代の“重合”樹脂に適切に限定されるべきである)」という国際規定があるからです。
要するに「アセトンなんかを垂らしたら再び粘着性に戻る状態の樹液の塊を『琥珀』と呼ぶべきではない」と国際的に決まっているのです。そういう決まりがある以上、紫乃女としてここは譲歩出来ません。

樹液が揮発するだけなら、早くて数日、遅くても数年で終わります。
しかし重合反応が完了するには早くて数万年、遅くて数百万年かかるんです。
そういう年代の地層から採り出された樹液の化石だけが「琥珀」と呼ぶにふさわしい品質を備えているんですよ。

重合しているか否かを見分ける方法

じゃあそういう本物の琥珀はどこで手に入るのか。
有名産地はバルト海地域ですね。ポーランドとかリトアニアとか。あとはメキシコのチアパス州とかドミニカ共和国とか。こういうところの琥珀をお持ちなんでしたら、高確率でそれらは本物の琥珀でしょう。

では逆に「乾燥した樹液」を琥珀呼ばわりして売っているのはどこの国なのか。
代表格がコロンビアとマダガスカルですね。ここの琥珀をお持ちなんでしたら、それは超高確率で「乾燥した樹液の塊」
でしょう。琥珀と呼ぶには若すぎるシロモノですね。

(樹液の塊。琥珀っぽいでしょ?)

「持っている琥珀が琥珀なのか、コパルなのかを調べたい!」という場合は、アセトン(ジェルネイル用のリムーバー、アセトン100%のやつがいいでしょう)を1滴垂らして様子を見れば分かります。しばらくして拭き取った時に粘着性が出ているようなら、それは残念ながらコパル。
しかしこのやり方ではせっかくの琥珀モドキを台無しにしてしまいますので、それはもう「琥珀だ」と信じて愛でるほうが精神衛生上ずっといいと思いますよ。

レベル2の偽物「琥珀」とは? ~成型肉じゃないんだからさ

しかし世の中というものは常に、我々の想像の斜め上をゆくものなのです。
樹液の塊を琥珀呼ばわりして売っているだけでも面倒なのに、世の中には小さな粒状(小片)の琥珀を溶かして大粒の琥珀に仕立て直す業者さんもいらっしゃるんですよ。「再生琥珀(アンブロイド:別名『練り琥珀』)」というやつです。
一度溶かしてから熱と圧力を加えて再度整形し直しますので、元々の琥珀より硬くなり、ジュエリーなどに加工しやすいという利点もあります。何よりお値段が安価!
日常的に使うアクセサリー用なら、こういう再生琥珀のほうが向いているんじゃないかとは思いますね。

レベル3の偽物「琥珀」とは? ~材料からして全く別物

ただ、上には上がいます。
樹液の塊と再形成した琥珀だけでも面倒なのに、なんとプラスチックを琥珀だと偽って販売する業者さんまでいらっしゃるんですよ。
もはや、樹液ですらない…。コパルを琥珀呼ばわりして売る業者さんが良心的に思えるほどです。

これの見分け方は簡単です。
飽和食塩水って分かりますか? 「もうこれ以上は溶けない!」っていうほど限界まで食塩を溶かした水のことです(常温なら100gの水にはだいたい36gの食塩が溶けます。ご家庭でも簡単に作れますよ)。
こいつにその「琥珀なのかプラスチックなのか分からないシロモノ」を放り込んで、浮けば琥珀、沈めばプラスチックです。琥珀と飽和食塩水とプラスチックの比重(比重の説明が超面倒なのでご自分でググって下さい)の差で判別することができるんですよ。
琥珀を傷つけることのない判別方法ですので、ぜひお試しください。

「飽和食塩水を持参して琥珀を買いになんか行けないわ!」というお怒りの声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて! ご意見ごもっともです。
じゃあ、店先でも簡単に試せる判別方法をお教えしましょう。

このコラムの最初に申し上げたことを覚えていらっしゃいますか?
「琥珀をこすると静電気が生じる」んですよ。
柔らかい布などで「琥珀かプラスチックか分からないもの」を数回こすった後、髪の毛を1本近づけてみましょう。髪の毛が吸い寄せられるようなら「琥珀」、無反応なら「プラスチック」。
どうです? これなら出先でもこっそり試せるのでは?

太陽と関係があることは、神話でも語られている

…なんか小難しい話が続いちゃいましたね。
ここらへんで息抜きがてらに昔話でもいたしましょうか。
なんといっても琥珀は歴史の古い石(化石)ですので、神話にも登場するんですよ。

昔々、ギリシャの太陽神ヘーリオスの息子であるパエトーン君が、お友達に「お前が太陽神の息子だなんて嘘だろう」と疑われてしまうという事件が起きました。
憤慨したパエトーン君はヘーリオス神に「僕が太陽神の息子であるということを証明するために、お父さんが毎日乗っているあの太陽の戦車を貸して!」と強くねだったのです。

息子に甘いお父さんはパエトーン君に、自分の太陽の戦車(要するに太陽そのもの)を貸し与えるのですが、不幸なことに、それはヘーリオス神だからこそ制御できた戦車であり、まだ年若い坊やであるパエトーン君の手には余るシロモノでした。
戦車を引く馬たちは、青二才の言うことなんか聞くわけもなく、好き勝手に天空を駆け巡りました。太陽の戦車は地表に近すぎるルートを走り抜け、あちこちに大火災を発生させます。大地は干上がって砂漠と化し、人々の肌は黒く焼け焦げました。要するに地上が「えらいこっちゃ」状態に陥ったのです。

自分の担当区域を火の海にされた豊穣の女神はびっくりして、最高神であるユピテル(ゼウスのこと)に「なんとかせぇや!」と直訴しました。困ったユピテルは暴走する太陽の戦車を雷で撃ち、パエトーン君は川に落っこちて亡くなりました。他の解決方法は無かったんでしょうかねぇ。

パエトーン君には姉妹が大勢いたのですが、彼女たちは彼の死を嘆き悲しみ、樹木に姿を変えました(一説ではポプラの樹になったそうです)。
その彼女たちの流す涙が琥珀になったという説と、パエトーン君のお母さんが悲しみのあまり娘たちである樹木をかきむしったらその樹液が琥珀になったという説があります。ま、どっちに転んでも琥珀の元が樹液であることに変わりはないですね!

(お父さんの戦車で無茶して最高神に撃ち落とされるパエトーン君:作者不明。イタリア16世紀頃の作品)

「急がば回れ」とは微妙に違うし、「慌てる乞食は貰いが少ない」だともっと違うけど…

さて。上記のパエトーン君の悲話にはいくつかツッコミどころがございます。
まず、「自分が太陽神の息子であることの証明」は「太陽の戦車を駆る」こと以外でも可能だったはずです。父兄参観日に太陽神たるお父さんにご出席頂いたらそれで一発OKだったんですしね。嘘つき呼ばわりされたからって、いきなり極論に飛びつきすぎですよ。
 
次に、ヘーリオス神も息子に甘すぎます。まだまだ小僧に過ぎない我が子に危険なシロモノをホイホイと貸し与えてはなりません。
あたしだって幼い頃、「お父さん、あたしもお父さんの車を運転してみたいです!」と親父の腕にぶら下がったことくらいございますが、親父は「18歳になるまで待ちなさい」と言って、決して首を縦には振りませんでした。人間の親でもできることを、神たるヘーリオスができなかったというのは、あまりにも情けないお話です。

最後に、いくら太陽の戦車の暴走を止めたいからって、いきなり雷で撃つことはないでしょう。ヘーリオス神が戦車に飛び移れば暴走太陽を制御できたでしょうし、そもそもユピテル神は最高神なんだから、太陽のひとつやふたつ我が身で受け止めるくらいの気概を見せるべきです。
幼い御者を殺さずとも、事態を丸く収める方法はあったのでは?

つまりこの物語から得られる教訓は、「物事の結論を急ぐな。本当にもうそれしか方法は残っていないのかを、今一度よく考えてみるべきだ」ということになります。
焦る心が視野を狭め、人を極論に飛びつかせるものですが、その結論に至る前に深呼吸して心を静めて、今一度「本当に他の方法は残っていないのだろうか?」と考え直すことが重要なのです。

琥珀を愛する方々は、その石(化石)がパエトーン君の死を悼む姉妹の涙であることを念頭に置いたうえで、ギリシャの神々の愚行を他山の石(たざんのいし:他の人の失敗やよくない言動を教訓にすること)として人生を歩んで頂きたいと思います。

さて、そんなこんなで琥珀のお話はこれでおしまいです。
次はどんな石について語りましょうね? リクエストがございましたらコメントに残して頂けると幸いです。

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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