12月の誕生石「タンザナイト」の宝石言葉は「諦めたら試合終了」がベスト?

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

12月の誕生石でもある「タンザナイト」、このお話を今回はいたしましょう。いやぁ、暑い最中に真冬の誕生石の話をするというのも、なかなかオツなものですな! 

タンザナイトは、和名が「灰簾石(かいれんせき)」または「黝簾石(ゆうれんせき)」。モース硬度は6から7程度。そこそこ硬い石です。

「タンザナイト」は正式名称ではない

いきなり残念なお知らせなのですが、「タンザナイト」という名前はこの石に対する正式な名称ではありません。この石はそもそもゾイサイト(灰簾石のこと)グループの中の青~青紫色の石のことで、ちゃんと言うなら「ブルーゾイサイト」と称されるべきなんです。

じゃあなんで「タンザナイト=タンザニアの石」なんて名前が付いたかと申しますと、この石が1967年に東アフリカのタンザニア州北部メレラニ丘陵(きゅうりょう:あまり高くない小山のこと)で最初に発見されたからです。

それだけならゾイサイトの変種ということで、せいぜい「ブルーゾイサイト」みたいな名前で世に出回るところだったんでしょうけれど、ここで呼ばれてもいないのにしゃしゃり出てきたのがアメリカの宝石商「ティファニー」です。

「うぉ、ゾイサイトの新種? なかなか綺麗な色じゃん! 『ゾイサイト』なんてダサい名前じゃなくて、かっこいい呼び名で売り出しちゃおう!」と、ティファニーさんが張り切ってプロモーションをかけた結果、「タンザナイト」という流通名が定着したわけです。

しかし鉱物学会は「タンザナイト」という名称を公認していませんので、正式名称としては「ゾイサイト」ってことになりますね。

「一粒で三度おいしい」石と言われるゆえんとは?

「ゾイサイトにしては綺麗な青だな」と思ったそこのあなた、なかなかお詳しいですな。タンザナイトは微量のバナジウム(元素のひとつ。元素記号は「V」)が含まれているせいでこんな独特の色合いをしているんです。

ちなみに、バナジウムじゃなくてマンガンを含むと「チューライト(Thulite)」っていう別の石になります。「マンガンの炭酸割り」と称された「ロードクロサイト」と似た色合いでしょ? 「鉱物はマンガンが入るとだいたい赤っぽくなる」と覚えておくといいでしょう(例外あり)。

※ゾイサイトグループの一種であるチューライト。和名:桃簾石(とうれんせき)。ちなみに日本の糸魚川で採れる「ピンク翡翠」と呼ばれる石、あれって実は翡翠じゃなくてチューライトなんだよね。

タンザナイトには光の性質によってその色を変えるという特徴があるんです。

多色性の鉱物は他にもありますが、タンザナイトは三色性(専門用語でtrichroism:トライクロイズムと言います)。これはちょっと珍しいですよ! 太陽光の下では濃い青色、白熱灯の下では紫色、蛍光灯の下では明るい青色に輝くタンザナイトは、一粒で三度おいしい石と言えるでしょう(濃い青色・赤紫色・黄緑色に見えることもある。カットの方向性で見える色は多少変化する)。

偽物のオンパレードが、タンザナイトの悲しい特徴…

話が盛り上がってきたところで残念なお知らせなのですが、市場に出回るタンザナイトはほとんどが熱処理を施された品なんです。原石はゾイサイトらしく茶色や淡い灰色をしていることが多いんですが、そのままじゃ宝石としての価値が低いってことで、原石を400-500℃で加熱して黄色がかった茶色の色合いを消し、青みを深くする処理が普通に行われております。

非加熱のタンザナイトで、熱処理済みの物と同等の色合いの石はとんでもないお値段です。安いやつでも400万、お高いやつだと1450万くらいします。ここは熱処理物の石を愛でるほうが精神衛生上ずっと良いと思いますよ(´・_・`)

そしてさらに残念なお知らせなのですが、実はタンザナイトのイミテーション(偽物)は世に溢れています。ダイヤやルビーなどを凌ぐ勢いで、イミテーションが日々市場に出回っているんです。

ロシアが合成タンザナイトの製作に成功したという未確認情報もありますが、別に合成品じゃなくても、別の石(フォルステライト:Forsterite かんらん石グループの石。要するにペリドットの親戚)にクロム(Cr)を加えて青くしたやつとか、ベリル(緑柱石:エメラルドとかアクアマリンが属する石のグループの総称)に放射線を照射して青くしたやつとか、もっとひどいのになると鉛ガラスを青くしたやつとか。

とにかくタンザナイトはイミテーションが多いんです。んもう犬も歩けばイミテーションに当たる勢いです!

偽物を見破る方法、教えます。

「そんな状態でどうやって本物のタンザナイトを見つければいいの!?」というお怒りの声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて!

さっき、「タンザナイトには三色性という特徴がある」って言ったのを覚えていらっしゃいますか? 本物かどうか分からないその石を、太陽光・白熱灯・蛍光灯の下でそれぞれ見た時に、色が変わるようならタンザナイト、変わらないようなら偽物ということです。ね、簡単に識別できるでしょ?

あと、もうひとつ。放射線照射で青くしたイミテーションは、太陽光や室内の強い照明の光で退色します。だからそういうイミテーションを扱っている業者は、その石を決して強い照明には当てないようにして販売するはずです。そこで見分けるって手もありますね。

まぁ、誕生石に設定されている石はどうしても他の石より需要がありますから、その需要に見合うだけの“供給”を、市場に対して“お手頃価格”で行おうと思えば、イミテーションが溢れるのも無理のない話ではあります。

ダイヤやルビーもイミテーション多いしね。ですので本物を見極める目を養うことは、自衛のためにも大切なことだと思いますよ。

タンザナイトが誕生石に入っているのはおかしい

ところで「誕生石」ということでいうと、個人的な意見を言わせて頂けるのなら、「タンザナイト」が「誕生石の宝石」であるというのはちょっとおかしい気がします。

誕生石っていうのは、旧約聖書の「出エジプト記」に出て来るアロン氏(モーセ氏のお兄ちゃん)という祭司長の胸当てにはめ込まれていた12種の宝石が由来であるという説と、新約聖書の「ヨハネの黙示録」に出てくる神の都の神殿の土台に埋め込まれていた12種の宝石が由来であるという説、があるんですが、どっちに転んでもこれ、超古い話でしょ?

本記事の冒頭でも申し上げましたとおり、タンザナイトが発見されたのは1967年なんですよ。なんで1967年に人類に初めて発見された石が、紀元前4~5世紀頃に成立した旧約聖書に出てくる祭司長の胸当てにはめ込まれているんですか。そんなわけないでしょ?時代考証無茶苦茶ですよ、これ。

まぁぶっちゃけちゃうと、誕生石を世に広めたのは、アメリカの宝石商組合(Jewelers of America)です。ティファニーがタンザナイトを世に広めたように、この組合さんが「誕生石」という概念を1912年から人々に広め始めました。

つまり「宝石を売りたい側」が「宝石を買ってくれる側」に対して長年プロモーション活動を行った結果が、今日の「誕生石」ということになります。

誕生石は国によって違う

ですので、アメリカ・イギリス・フランス・カナダ・オーストラリア・日本の各国で「誕生石に設定されている宝石」は少しずつ違います。それぞれの国の宝石商組合が、自分達の売りたい宝石を「誕生石」として設定するので、その内容が違うのはしょうがないんですよね。日本だと珊瑚(さんご)とか翡翠(ひすい)を独自に誕生石リストに加えています。

ま、それでもベースは1912年にアメリカの宝石商組合が発表した内容に沿っています。つまりこの時点でタンザナイトは誕生石リスト入りしていません。くどいようですが、タンザナイトの発見は1967年です。

じゃあタンザナイトが誕生石のリストに加わったのはいつなのか。日本の誕生石リストにタンザナイトが正式に加わったのは実は2021年。めっちゃ最近なんですよ!

「え?それ以前からタンザナイトは12月の誕生石だったと思うんだけど?」というお声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて! 確かにアメリカではそうでしたよ。

2002年にアメリカ宝石貿易協会(AGTA)が12月の誕生石としてタンザナイトを追加したんですが、このアイデアに対してアメリカ宝石商組合(Jewelers of America)が賛同しましたので、アメリカにおいてはタンザナイトは2002年に正式に誕生石としてリスト入りしたと考えていいと思います。日本で公認されたのは2021年ですけどね。

「花言葉」の如く「宝石言葉」もあるの、知ってました?

そもそも「誕生石」っていう概念は、宝石を売りたい側によるプロモーション活動の結果として生まれたシロモノです。誕生石の原典となった「アロン祭司長の胸当てにはめ込まれていた石」は、イスラエルの12部族を象徴する12種の宝石だったそうなんですが、ちょっとここでどういう石だったのかをご紹介しておきましょう。

その12種の宝石とは、
・sardius(サージウス:オレンジ色のカルセドニーを指していたと言われている)、
・topaz(トパーズ)
・carbuncle(カーバンクル:燃えるように赤い石のこと。ルビーとかガーネットとかが該当する)
・emerald(エメラルド)
・sapphire(サファイア)
・diamond(ダイヤモンド)
・Ligure(諸説あり:カンラン石・ラピスラズリ・サファイア・琥珀・ルビー・トルマリン・オパールなど)
・agate(アゲート:縞メノウを指していたと言われている)
・amethyst(アメジスト)
・beryl(ベリル)
・onyx(オニキス)
・jasper(ジャスパー:石英の微細な結晶が集まって出来た不透明な石。ここでは赤色のものを指していたと言われている)

です。

石にちょっと詳しい方ならすぐお気づきになると思うのですが、ダイヤモンドやサファイアはともかくとして、カルセドニーやジャスパー、オニキスなんかは宝石どころか半貴石(パワーストーンとか)の中でも安価な部類に入る石です。品の無い言い方をするのなら、「二束三文の石」。

そんな石が誕生石では困るのは誰でしょう? …「高価な宝石を売りさばきたい側の人々」ですよね?

その結果生まれたのが「現代の誕生石」というわけです。その数なんと29種類! 夢もロマンもない話で本当に申し訳ないのですが、これが現実なんですよ。いやぁ世の中は世知辛いということですな!うわははは!ヾ(´▽`)ノ

いや、笑ってる場合じゃないな。何かロマンあふれることも言わないとタンザナイトファンの方に申し訳ない(´・_・`)

ええと、「花言葉」のように宝石にはそれぞれ「宝石言葉」というものがあるのですが、タンザナイトの宝石言葉は「神秘」「冷静」「高貴(誇り高い)」などです。タンザニアの夕暮れ時の空のように青々としたあの色合いにふさわしい言葉が与えられたのでしょう。

あたしだったら別の言葉を与えますね(´・_・`)b どん底からの「再生」、このままでは終わるもんかという「決意」、新しい自分への「成長」などです。

1月の誕生石「ガーネット」との意外な関係

ちょっとややこしいお話になるのですが辛抱してお付き合い下さい。1月の誕生石である「ガーネット」という石には色々カラーバリエーションがございまして、赤色だけでなく緑色のものもあるんですよ。

で、緑色のガーネットの正式名称は「グロッシュラーガーネット」なんですが、そのグロッシュラーの中でも宝石質のものを別名で「ツァボライト」って呼ぶんです。

(グロッシュラーガーネット。別名「ツァボライト」)

ツァボライトもタンザナイトも、タンザニアで最初に発見された石です。実はこの2つの石の化学組成(どういう成分で出来上がっているかを示した化学式)は非常に似通っています。よく一緒に採掘されていますしね。

その理由を超簡単にご説明いたしますと、カルシウム(Ca)が豊富に含まれた岩の中でまずツァボライトが生成されます。

しかし時間が経過し、その地層の温度が低下したうえに熱水が流れ込むと、せっかく出来上がったツァボライトは壊れちゃいます(化学分解という反応を起こした)。そこでくじけずに「なんのこれしき!」とばかりに、「元ツァボライト」は今度は「ゾイサイト」として再生成したんですよ。「諦めたらそこで試合終了」の非常にいい見本ですな!

そして、ツァボライトには元々微量のバナジウム(とクロム)が含まれていましたので、ツァボライトから再生成したゾイサイトにもそのバナジウムが含まれることとなり、結果として青紫色のゾイサイト=タンザナイトが出来上がった…というわけなんです。

つまり一度は壊れたツァボライトの「生まれ変わった姿」がタンザナイトなんですよ。どうです、ロマンチックでしょう?ヾ(´▽`)ノ

ですので、タンザナイトを愛する方々には、「神秘」とか「高貴」とかお高く澄ました石言葉ばかりではなく、「諦めたらそこで試合終了だ!」という気合と粘り強さの大切さも心に留めて頂けたら幸いです。

いやぁ、小難しい話の多い回でしたねぇ~。次回はもう少し気軽な石の話でもいたしましょう。

それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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