
8月の主な誕生石の「ペリドット」と「スピネル」。色の特長が真逆など対照的
[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]
もうすぐ8月ですね。そんなわけで今回は8月の誕生石についてお話ししようと思います。
前回の「タンザナイト」にて「誕生石」というものがいかに俗っぽいものかということについて熱弁を振るっちゃった後ですので少々気まずいですけれども、ま、過去のこたぁ棚に放り上げつつ気持ちも新たにはりきってまいりましょう!ヾ(´▽`)ノ
8月の誕生石と言われている石は3つございます。「ペリドット」と「スピネル」と「サードニクス(サードニックス:縞めのう)」です。その中でも人気の高い「ペリドット」と「スピネル」を今回は取り上げていきたいと思います。
「ペリドット」は緑色しか存在しない

まずはペリドット(ペリドート)。モース硬度:6.5から7。そこそこ硬い石です。和名だと「カンラン石」。(漢字で書くと「橄欖」、つまりオリーブのこと)。そしてカンラン石の中でも緑色で宝石質のものを「ペリドット」と呼びます。
つまり、他の多くの宝石とは違って、ペリドットにはカラーバリエーションがありません。明るい黄緑色~緑色程度の色の幅はありますが(含まれている鉄の濃度が下がるとより明るい色になる)、「レッド・ペリドット」や「ブルー・ペリドット」なんていうオリーブグリーンからかけ離れた色のペリドットは存在しないんですよ。
ちなみに、ルビーもそう。コランダムっていう鉱物の中で、血のように赤いものを「ルビー」と呼ぶっていう規定があるので、ルビーには赤色しか認められていないんです。
一方で同じコランダムに属するサファイアにはその規定がないので、青色以外の色のサファイアでも「イエローサファイア」とか「ピンクサファイア」とかの名前で販売することが許されています。
半分以上がペリドットになっている場所が存在!?
さて、ペリドットの名前の由来ははっきりしていません。一説ではアラビア語の「Faridat(ファリダット):“宝石”という意味」や、古典ラテン語の「pæderot(ペィドロット):“オパールの一種”という意味」が語源だと言われております。
語源がはっきりしないことからも、ペリドットが歴史の古い石だということがわかります。昔から恐怖や悪夢を遠ざける石として人々に愛されてきたペリドットですが、一説では、前回の「タンザナイト」に出てきたアロン司祭長の胸当てにはめ込まれていた第二の石“Pitdah”(ピッダー:ヘブライ語で“貴重な宝石”)は「トパーズ」ではなく「ペリドット」を指していたんじゃないかって言われているんですよ。
面白いことに、その“Pitdah”って石はもともと、神がルシフェル(12枚の羽を持つ天使長:後の堕天使)を飾るために創った宝石なんですって。もしかするとルシフェルは今でもペリドットを身に着けているのかもしれませんね!ヾ(´▽`)ノ
実は、ペリドットはレアな宝石ってわけじゃありません。結構あちこちで産出します。それもそのはず、地球の上部マントル(海底の下約10kmから670kmくらいまでの間の非常に厚い岩石層のこと)の55%以上はカンラン石でできているんです。地球だけでなく、月や火星からの隕石の中にも含まれていることがありますし、日本の探査機「はやぶさ」が「イトカワ」っていう小惑星から持ち帰ったサンプルの中にも確認されています。

ただ、宝石として使用できる品質のものとなりますとやはり産地は限られます。有名どころだとアメリカのハワイ州とかアリゾナ州、カナダ、スペイン、エジプト、ベトナム、オーストラリア、ノルウェー、あと中国やミャンマー、パキスタンでも採れますね。

愛を育みたい人は必見! カーネリアンなどとの組み合わせも◎
ペリドットの偽物には、めったにお目にかかりません。産出量が多い石なので、需要に対して供給が十分追いついているんです。つまりは価格帯も低めに安定しちゃっていますので、偽物を作ったところで「費用対効果」を考えると赤字なんですよね。そういう意味では偽物の心配をせずに安心して購入できる宝石と言えるでしょう。
ペリドットの石言葉は「夫婦の愛」「夫婦の幸福」です。古代エジプト人はペリドットを「太陽の宝石(The Gem of The Sun)」と呼び、その輝きで悪霊を追い払う石としてお守りにしていたそうなんです。ただし夫婦とはいえ、元々は赤の他人同士の二人が信頼関係を長く維持するには、相手への不安や不信を祓う力が必要になってくると思うんです。
お相手と末永くラブラブなカップルでいたい方には、ペリドットはピッタリかもしれませんね!ヾ(´▽`)ノ また、「太陽」には「育む」という意味もありますから、まだ夫婦じゃなくても「この人との愛情を育みたい」と願う方々にはお勧めの石です。
ペリドットはビーズ形状のものもわりと安価で流通しておりますので、カーネリアン(赤メノウ)やシトリン(黄水晶)、ローズクォーツ(紅水晶)やロードクロサイトなどと組み合わせて、恋愛運上昇ブレスレットをお作りになるのも良いでしょう。
カラーバリエーションが豊富な「スピネル」。でも黄色は天然には存在しない

さて。もう1人の主役についてもご紹介しませんとね!
「スピネル」。和名:尖晶石(せんしょうせき)。モース硬度:7.5から8。結構硬い石です。この石は八面体の尖った形の結晶で産出するんですよ。まるで8面サイコロのようでしょ? そりゃ「先の尖った結晶」って名前にもなるというものです!

スピネルの名前の由来は、ラテン語の“Spinella”(スピネラ:「棘」っていう意味)なんですが、どっちに転んでも「尖った石」だと昔から思われていたということになりますねヾ(´▽`)ノ
カラーバリエーションが1色しかないペリドットと違って、スピネルには様々なカラーがございます。無色透明のものもあれば、薄いピンク色から濃いピンク色、赤色といった「赤色系」のものや、水色から紺色までの「青色系」、淡いラベンダー色のものから濃い紫色までの「紫系」、なんと黒色まであるんです。凄いカラーバリエーションでしょう?
スピネルの化学組成はMgAl2O4「アルミン酸マグネシウム」です。超簡単に言っちゃうとマグネシウムとアルミニウムと酸素がくっついてできている石なんです。これだけなら無色か半透明の石になるはずなんですけれども、そこに少量のクロムや鉄、コバルトが入りこむことによって、ピンク色や赤色、紫色や青色のスピネルになるというわけです。
そういえば、黄色のスピネルって天然では出ないんですよ。灰味がかった緑色ならミャンマーで出たことがございますがそれでも超レアですね。滅多にお目にかかれない。でもなぜか「イエロースピネル」って普通に流通しているんですよねぇ(´・_・`)
赤味がかったオレンジ色だったらまぁぎりぎり許せる(クロムが入ればワンチャンあるから)んですが、明るい黄色のスピネルは天然ではまずありえないです。ということは、流通している「イエロースピネル」は、超高確率でスピネルではない他の石か(シトリン:黄水晶とか)、または合成された人工スピネル(マンガンを加えて黄色く発色させている)だってことになりますね。お手頃価格だったらなおさらそうです。そういう石に出会った際にはご注意下さいませ。
ま、合成スピネルが悪いとは言いませんよ。なんといっても色が綺麗だし硬度は天然モノと変わりませんし、そのくせお値段はぐんとお安くなっていますからね! アクセサリーとして気軽に楽しみたいって方には合成スピネルはお勧めだと思います。
ただ、お値段がお安いくせに(または天然ではありえない発色のスピネルのくせに)「天然モノだ!」と偽って販売なさっている業者さんも結構いらっしゃるので、気を付けて下さいね。

上記画像中央の真っ赤なスピネルをご覧下さい。綺麗な赤色でしょう? その色のせいで昔はよく「ルビー」と混同されました。イギリスの大英帝国王冠にはめ込まれている『黒太子のルビー』は、実はレッドスピネルです。

他にも『ティムール・ルビー』と呼ばれる352.5カラット(361.0カラットという説もあり)の石がルビーではなくレッドスピネルだったり、ロシアの皇帝冠についている414.3カラットの石がやはりルビーではなくレッドスピネルであったりと、昔からしょっちゅうルビーに間違われてきた石なんです。

ルビーと間違えて販売することはない理由
「じゃあ私の持っているルビーもスピネルなのかしら?」と心配なさるお声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて! そのルビーが余程歴史ある品でない限り、今時ルビーとスピネルを間違える宝石屋さんはいらっしゃいません。
以前の「スフェーン」の記事でちょっと触れたと思うんですけれど、複屈折のルビーと単屈折のスピネルでは光の屈折率が違いますので、屈折計(質屋さんとかによく置いてある)という装置を使えば簡単に区別できるんですよ。
実はこの屈折計を使えば天然スピネルと合成スピネルの区別もつくんです(合成スピネルのほうがやや屈折率が高い)。ですので、レッドスピネルをルビーと偽って販売するお店は今時はまずありえないでしょう。(どっちかって言うと、合成ブルースピネルを「アクアマリン」と偽って販売していることのほうが多いですね。)
スピネルの有名産地はミャンマー、スリランカ、タンザニア、アフガニスタン、タイ、ロシアなどです。ミャンマー産のレッドスピネルはとても綺麗ですがお値段もそれに応じてとってもお高いです。スリランカではピンク色のスピネルがよく出ますね。ミャンマーやベトナム、ナイジェリアとかだと透明度の高いブルースピネルが採れることがありますよ。
(ロシア:バイカル湖産)
英国の王が死から逃れたのは「スピネル」のおかげ?
本来であればここで「スピネルの歴史的な逸話」をご紹介するところなんですが、上記でも申し上げましたとおり、スピネルってルビーと混同され続けてきた石なんですよ。つまりルビーにまつわる逸話のうち、いくつかはスピネルのものだろうと推測は出来るんですが、どれが「スピネル」の逸話でどれが「ルビー」の逸話なのか、はっきりと区別することが現在ではもう難しいのです。
スピネルの有名産地のひとつに「ミャンマー」があるのですが、あそこは最高品質のルビーも採れるとこなので、昔の人々が混同しちゃったのはまぁ無理もない話だとは思うんですけどね。
ぶっちゃけ、18世紀に入るまで、スピネルとルビーは混同し続けられてきました。正確には、フランスの鉱物学者Jean-Baptiste Louis Romé de l’Isleさんが1783年に「この2つの石は違う石だ!」と発表するまで、ヨーロッパ人の方々は同じ石だと思っていたみたいです。ビルマ(現・ミャンマー)の採掘現場の方々は1587年の時点で違う石だと気づいていたようですが。ま、モース硬度違うしね。
なので、スピネルにはスピネル独自の「逸話」というものがほとんどございません。ただ一つ言えることは、イングランドVSフランス100年戦争において、フランス軍アランソン公ジャン1世の戦斧の直撃からイングランド王ヘンリー5世の頭を守り抜いたのは、ルビーではなくスピネルです。
先ほどお見せした『黒太子のルビー』のついた王冠を被ってヘンリー5世はアジャンクールの戦いに挑むのですが、その戦いの最中にジャン1世の斧の攻撃をまともに真正面から頭部に受けちゃうんです。本来なら王冠と一緒に彼の頭蓋骨も割れるところでしたが、『黒太子のルビー』がその攻撃を跳ね返し、『黒太子のルビー』、つまりは「スピネル」とその石に守られたヘンリー5世の頭は無事であったという逸話が残されているんですよ。ひゅー!かっこいいねぇ!ヾ(´▽`)ノ
「夢をかなえる」というより「起死回生」がふさわしい
スピネルの宝石言葉には「希望」「自己実現」「自己内面の充実」など、結構穏やかなワードが並んでいるんですが、あたしは上記の逸話から「逆境を跳ね返す石」という意味を持たせたいと思います。
だって、アジャンクールの戦いは、最終的にはイングランド軍の完全なる大勝利で幕を閉じるんですけど、もしもあの時、ジャン1世の一撃をスピネルが跳ね返していなかったら、当然イングランド王の命もその時点で終わっていたわけでしょ? もしそうなっていたら戦いの勝敗なんてどっちに転んでいたのか誰にもわからないじゃないですか。フランス軍の大勝利で終わっていたかもしれませんよね?
ということは、イングランドの勝利にはあの『黒太子のルビー』も一役買っていたのだと言っても過言ではないということになりませんか? なんといっても王の命を救った石なのですから!ヾ(´▽`)ノ
以上の事柄から、所有者に向けられた致命的な一撃を跳ね返す力、逆境を好機に変える力こそが、「スピネル」の宝石言葉にふさわしいものだとあたしは思いますねヾ(´▽`)ノ
…8月の誕生石のお話はここらへんでおしまいにしたいと思います。やっぱり2つの石に関してお話していると結構長くなっちゃいますね。次回は1つの石に絞った内容にしましょうか。それではまた!

1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら
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