
世界で最もカラフルで石言葉がない「フローライト」は、働きものです。
[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]
岩石から純度の高い鉄を取り出してくれる「働きもの」
今回はコメント欄にてリクエスト頂きました「フローライト」についてお話いたしましょう。「サンストーン」のお話ご希望の方、もう少々お待ち下さいませ。
フローライトの和名は「蛍石(ほたるいし/けいせき)」。モース硬度は4程度。あまり硬くはないうえに、とても欠けやすい石です。取り扱いにはご注意ください。
「フローライト」という名前は、ラテン語の動詞「fluere(フルーエレ:流れるって意味)」が由来となっています。昔この石は製鉄における融剤(ゆうざい:物質が個体から液体に変化するのを助けるために添加されるもの。フラックスともいう)として使用されてきたのですが
――って、ここはちょっと分かりにくい内容でしょうね。もう少し詳しくご説明しておきましょう。
例えば、鉄を得ようと思ったら、鉄鉱石が必要となります。でも鉄鉱石だけを採掘することは困難です。鉄鉱石が埋まっていた母岩も一緒に掘り出されちゃいますから。
ですので純粋な鉄だけを得たい場合は、その掘り出した「鉄鉱石+母岩」をいったん全部溶かして、液体の状態にしてから不純物を取り除き、鉄だけにする必要があるんです。これを「精錬(せいれん)」と呼びます。ここまでは大丈夫ですか?
ところが、この「母岩」というやつがクセモノでして。鉄よりも溶けにくいんです。溶けてさえくれれば、鉄は重いので自然と炉の底に沈み、不純物は鉄より軽いので上に浮きますから、上の部分だけを捨てれば容易に鉄のみを得ることができるんですが、母岩が二酸化ケイ素(水晶みたいなもの)だった場合、鉄が溶ける温度より500度以上高い温度でも溶けずに残っちゃうんですよね。
そこでフローライトの登場です。この石の化学組成(その物質がどういう成分で構成されているかを示した式)はCaF2、つまりカルシウムとフッ素(原子番号9の元素)がくっついた石なんですけれども、このフッ素が邪魔な母岩を溶かすのに多いに役立ってくれるのです。
16世紀にはすでにフローライトは製鉄における欠かせない「融剤」として重宝されていたんですよ。そんなわけで、この石の成分であるフッ素が「母岩を溶かす」→「溶けた母岩が液体となって流れる」→「ラテン語の“Fluere”(流れる)」→「フローライト(fluorite)」という流れでこんな名前になりました。日本語の「蛍石」のほうがよほどロマンチックですよね!
(※この石を火の中に入れると、ぱちぱちと音を立てながら蛍光色の火花を発するんですが、その様が蛍のようだということで日本では「蛍石」と呼ばれるようになりました。)
世界で最もカラーバリエーションがある
フローライトは実に多くのカラーバリエーションがある石です。「世界で最もカラフルな鉱物(”the most colorful mineral in the world”)」と言われています。オレンジ色・黄色・緑色・青色・紫色・無色透明と、まるで虹のように様々な色合いのものがあるんですよ。せっかくですから、代表的な色合いのものをちょっとお見せしましょうか。




こういった単色だけではなく、フローライトはしばしば層を形成します。まるで鮮やかな虹のようです。


きれいでしょう? こんなにカラーバリエーションがある石も珍しいですよ。硬度が低く割れやすい石だというのに、壺やグラスなどの調度品やブローチなどの装飾品に加工されることが多いのも、この美しさゆえということなのでしょうね。

赤色には注意せよ!
フローライトはそんなに希少な石ではありません。最大の鉱床は南アフリカ、次いでメキシコ、中国、モンゴル、ロシアなどです。スペインやナミビアでも出ますね。わりと一般的な鉱物です。それなりに産出しますので、偽物を作ってまで売りさばく業者さんはいらっしゃいません。高い石ではないので費用対効果の面で割に合わないんでしょう。
「じゃあ、売られているフローライトは全て天然のものなのね?」というお声がここまで聞こえてきそうですが、ちょっと待って下さい。緑色や青色、紫色や黄色、縞模様のフローライトは産出量も多いので天然のものが多いのですが、フローライトの中でも産出量が少な目な赤系に関しましてはやや注意が必要です。
赤系の中でも薄いピンク色は、まあ限られた地域ではありますが採れることは採れます。量は少ないですけどね。でも、朱色のフローライトは自然の状態では滅多にお目にかかれないはずなんです。薄い朱色だったらスイスやフランス、パキスタンの山岳地帯で稀に採れることがありますが、赤に近いほどの濃い朱色のものがほいほいとお手軽に産出したって話は聞いたことがないんですよね。
しかし、現実にはお手軽に流通しているんですよ。
血のように赤いフローライトが(´・_・`)

こういう色合いのフローライトは、たいてい中国産です。
これ、青系のフローライトに照射処理(宝石に放射線を照射することにより、内部の結晶構造を変化させて色合いを変える人工処理のこと)を施したものではないかと言われているんですよね。まぁ赤色以外でも、中国産で鮮やかな色合いのフローライトの場合、照射処理が施されている可能性があるので、天然ものにこだわる方はその産地にご注意下さいませ。
「ないのなら 人工処理だ ホトトギス」
ここから先はしばらく、ちょっと専門的な話になります。文字をピンク色にしてあります。ご興味がおありの方はお読み下さい。ついていくのがしんどいと思ったら、ピンク色のところは読み飛ばしてもらって大丈夫です。
私たちが生活しているこの空間の圧力は「一気圧」です。一気圧では水は100℃で沸騰します。しかし、圧力の高い地下の奥深くでは、100℃を超えても水は沸騰せずに液体の状態のまま存在します。
その超HOTな熱水は地中の岩石の様々な成分を溶かし出し溜め込んでいるのですが、なんらかの要因でその熱水の温度が下がることにより、今まで溶かし込んでいた岩石の元素が沈殿し濃縮されて出来上がる鉱床を「熱水鉱床(ねっすいこうしょう)」と呼びます。
この熱水鉱床が高濃度の放射性元素(自発的に放射線を放出して崩壊する元素のこと)を含んでいた場合、そしてそんな鉱床からフローライトが生成された場合、そのフローライトが朱色になる可能性があるんです。でもそんな条件の整った(?)鉱床、世界でも数えるほどしかありません。スイスやフランスの山岳地帯(アルプス山脈)で朱色のフローライトが出たっていうんなら話は分かりますけど、そうじゃない地域からほいほい真っ赤なフローライトがお手軽に採れるのはおかしいんですよ。じゃあどうやって真っ赤にしているんだと思います? 自然の放射線が無かったのなら人工的に照射処理すればいいって話になりますでしょ? つまりはそういうことなんです。
石言葉。実は「これ!」というものがありません…
まぁでも、フローライトに施される人工処理としましては、せいぜい照射処理で色を変えたり発色を鮮やかにしたりしている程度です。オパールのコラムのように「甘露煮の酢漬け」みたいなややこしい処理は施されていない(費用対効果の面で割に合わないから)のでご安心くださいませ。
わりと安価で流通量も多いフローライトですが、紫外線(ブラックライト)に当てると青く蛍光するフローライトは多少お高めのお値段で売買されることがあります。青色だけでなく、赤色や紫色、緑色に光るものもあるそうですよ。

さて。本来であればここらへんでフローライトの石言葉についてご紹介するところなんですが、誕生石みたいに「これ!」というのが無いんですよ。
ぶっちゃけ、「言ったもん勝ち」状態です。集中力を高めるだとか、直観力を高めるだとか、精神を浄化するだとか、記憶力を高めるだとか、んもう山のように皆さん好き勝手述べていらっしゃいます。
で、「言ったもん勝ち」でいいんでしたら、あたしはフローライトは「雑念を払う石」「成功の障害となるものを取り除く石」だと思います。この石が、母岩にまみれた鉄鉱石から純粋な鉄だけを得る助けになるのと同じように、フローライトはあなたにまとわりつく色々な「しがらみ」を切り離し振り払い、本当に大切なものを最後に示してくれる石だと思うんです。
フローライトの助けを借りて、あなたという「炉」の底に残ったものこそが、あなたが得るべきものであり大切にするべきものなのかもしれませんね!
ヾ(´▽`)ノ
そんなこんなでフローライトのお話はこれくらいにいたしましょう。
それではまた!

1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら
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