10月の誕生石「トルマリン」は色の種類が多すぎ!ただ、希望に満ちた存在でもある

[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]

それぞれの色ごとに、ご丁寧に個別の名称がついている

今回は10月の誕生石についてお話いたしましょう。10月の誕生石は2種類ございます。「オパール」と「トルマリン」ですね。
有名なのはオパールのほうですが、オパールに関しましてはこの連載の第1弾として取り上げましたので、今回はもうひとつの石・トルマリンについてお話することにいたしましょう。実はトルマリンは、あたし、紫乃女の最も好きな石でもあるのですよ!ヾ(´▽`)ノ

トルマリンは和名:「電気石(でんきせき)」。モース硬度は7から7.5。結構硬い石ですね。トルマリンはフローライトのように非常にカラーバリエーションが豊富な石なのですが、そのカラーごとに名称が分かれているのが特徴です(ガーネットもその傾向あり)。

無色のトルマリンは「アクローアイト」、
赤系(ピンク色含む)のトルマリンは「ルベライト」、
赤紫系のトルマリンは「シベライト」、
青系のトルマリンは「インディコライト」、
黄色系(褐色含む)のトルマリンは「ドラバイト」、
黒系のトルマリンは「ショール」、
2種類の色から構成されるトルマリンは「バイカラー」、
2色以上だと「マルチカラー」または「パーティカラー」、
赤色またはピンク色と緑色の2色で構成されるトルマリンは「ウォーターメロン(スイカ)」
…とまぁ、「何事ですか!?」と言いたくなるような有様です(´・_・`)

(カラーバリエーションが豊富なトルマリン)

さすがにこの状況にはGIA(Gemological Institute of America:アメリカ宝石学会)も渋い顔でして、「みんな! 色の名前を石の名前の前につけて、もっとシンプルに呼ぼうぜ。ピンクトルマリンとかブルートルマリンとかでいいじゃん!」と必死に提唱しているのですが、いまいち広まりません。ですのでお好きなトルマリンの色がもう決まっている方は、その個別名称も覚えておいたほうが無難かもしれませんね。

化学組成式は37種類も存在します。

で、いつもだったらここでトルマリンの化学組成(その物質がどういう元素で出来上がっているかを示した式)をご紹介するところなのですが、実は現在「トルマリンの化学組成」としてIMA(International Mineralogical Association:国際鉱物学会)が承認しているものには37種類ございます。

37種類だよ37! そりゃこれだけ色の種類があるんですから、中に含まれている元素も多種多様なのはわかるんですけれど、それにしたってちょっと多すぎやしませんか(´・_・`) しかもひとつひとつの式が長い…。1個ご紹介しておきましょう。

わりと安価でビーズにもよく加工されている「ブラックトルマリン(ショール)」の化学組成は「NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4」です。こんなのを37種類もそれぞれご説明していたらそれだけで今回の記事が終わってしまいますので、ここは「トルマリンの化学組成は種類がたくさんあって、しかも長い」とだけ覚えておいて頂いて、とっとと話を次に進めたいと思います。

もうちょっと詳しく言えや!ということでしたら、鉄分が多くなると黒・青みがかった黒・深い茶色になって、マグネシウムが多くなると明るい茶色から黄色になって、リチウムが豊富になるとそれ以外の色になります。自然の状態でのピンク色は天然の放射線によるものです。つまり人工的な照射処理で赤味を強くしている物もあるということです。

そうだ。せっかくですから、トルマリンの原石がどんなものなのかもご紹介しておきましょうかね。

(ブルートルマリン)
(グリーントルマリン)
(ルースに加工したグリーントルマリン:モザンビーク産)
(イエロートルマリン)
(ピンクトルマリン)
(ウォーターメロントルマリン:その名の通りスイカみたいでしょ!)

色が混ざっているほうがむしろ普通

トルマリンは地中海地域では古くから知られていた石でした。1703年にオランダによってスリランカから輸入されたトルマリンは、その透明感溢れる美しさからすぐに西ヨーロッパと中央ヨーロッパに広まりました。彼らはその美しい石に「Turamali(トゥラマリ)」、スリランカの言語であるシンハラ語で「混ざった色の石 “stone with mixed colors”」という名を与えたのですが、それがトルマリンの名の由来になりました。

「混ざった色の石」なんて名前がつくぐらい、トルマリンは2色またはそれ以上の色で構成されることが多い石です。ウォーターメロントルマリンは緑色系と赤色系のバイカラーですけど、他にもこんな色合いで出ることもあるんですよ。

(青緑色系-赤紫系-ピンク系のマルチカラートルマリン:アフガニスタン産)
(ピンク・ライトグリーン・イエローのマルチカラートルマリン)

2色以上の品には要注意。特に「パライバトルマリン」には…

「あら、綺麗な石ね! 気に入ったわ。さっそく購入しましょう!」というお声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて…。

トルマリンはルビーやサファイアのように高額な石ではありませんが、綺麗なものとなるとそこそこのお値段はいたします。それが「バイカラー」や「マルチカラー」の品となるとなおさら。

…ということは、もうお分かりだと思うんですけれど、「高く売れる石」にはフェイク品がつきものなんですよねぇ(´_`;)

特に「ピンク色-緑色」のバイカラートルマリンはそれなりの人気を誇りますので、この色合いの石で綺麗な品を見つけた時は、その「色の境界線」に注目しましょう。あまりにもくっきりはっきりと色が分かれている場合、ニセモノの可能性が高いです。

また、あまりにも濃い発色の場合も、同じくニセモノである可能性がございますのでご注意を。安価だからって飛びつかないようになさって下さいね。
※バイカラートルマリンのニセモノにご興味がおありの方は、「バイカラークォーツ(Synthetic Bicolor Quartz)」で画像検索なさってみて下さい。

まぁでも、一般的にはトルマリンはそこまで高額な石ではないので(高いやつは高いけど)、バイカラーやマルチカラーをお買い求めになる際だけ注意しておけば普通は大丈夫です。

ただし、もしもあなたが「パライバトルマリン」と呼ばれる石に出会った際には、そしてその石をお気に召した際には、ご購入前に“必ず”鑑別書を確認するようになさって下さい。

パライバトルマリンとは、独特のネオン発色を放つとても美しい石です。1989年に初めて宝石市場に登場しました。ブラジルのパライバ州で最初に発見されたため、この名前がついています。色は「青色」から「緑色」の範囲内です。この2色以外の色のパライバトルマリンは現在のところ発見されておりません。

(ネオンブルー&ネオングリーンの美しい発色を誇るパライバトルマリン。ブラジル産)
(金色のインクルージョンが見えるグリーンパライバトルマリン。このインクルージョンがあるトルマリンは本物である可能性が高くなる。でも鑑別書は絶対に確認しよう!)


パライバトルマリンは、トルマリンの中でも最高額で取引される石です。先ほども申しましたとおり、「高く売れる石にはフェイク品がつきもの」なんですよ。

パライバトルマリンが発見されるまで、銅(Cu)はトルマリンに含まれることはない元素だと思われていました(理由は超専門的になるので割愛します)
しかしパライバトルマリンはその「鉱物の常識」を覆しました。この石は、微量の銅とマンガン(Mn)を含むことによって、他のトルマリンには無い独特のネオン発色を放つ石なのです。
つまりトルマリン界(?)において、「パライバトルマリン」とは「とてもレアな石」扱いなんですよ。

そうなると当然お値段は高騰します。トルマリンで最も高い値段で取引されるのは「パライバトルマリン」です。特にネオンブルーのパライバトルマリンでそれなりの大きさの石となりますと、100万は超えると思っておいて間違いはないですね。
一例を挙げますと、インクルージョンとクラッキングのない美しいネオンブルーのパライバトルマリン11.5ct(カラット)だと、大体210万円ほどです。ね? お高いでしょ?

初心者はブルーではなくグリーンから

「そんなに高いの!? とても手が出ないわ…。もっと安いパライバトルマリンを探さないと!」とお嘆きの声がここまで聞こえてきそうですが、分かります。そのお気持ちは、とてもよく理解できます!

だからこそ、つけこまれないで下さい。自然に生成されるパライバトルマリンと同じように、銅やマンガンを加えて作った人工(合成)パライバトルマリン(Lab Created Paraíba Tourmaline)や、ガラスにわざわざ微細な銅片を混ぜて作った「なんちゃってパライバトルマリン」なんかが市場に出回っているんです。

他にも、パライバトルマリンによく似た色合いの「アパタイト」という別の石を「パライバトルマリン」として販売していたり、人工(合成)ベリル(synthetic hydrothermal beryl)を「パライバトルマリン」として販売していたりするのです。
 
ですから、何度も申し上げておりますとおり、ご購入前には“鑑別書を御確認下さい”。ただし見慣れてくると、本物のパライバかそうでないかはわりと一目でわかるようにはなります。でもその目が養われるまでは、どうか鑑別書の確認をお忘れなく。それが最も確実で安全で簡単で、誰にでも出来る「見分け方」だからです。

心配だったら、ネオンブルーじゃなくてネオングリーン発色のパライバから試してみるといいですよ。ブルーはお高いですがグリーンなら10万円以下でそこそこ大きくて綺麗なルース(原石の状態からカットされ研磨されたもの)が入手可能です。ま、店にもよりますけどね。

あがらない雨はない…


おっと、世知辛い話ばかりが続いてしまいましたね。ここらへんでトルマリンの石言葉についてもご紹介しておきましょう。

トルマリンの石言葉にはいくつかございます。「希望」「潔白」「寛大」「友情」などですね。その中でもあたしは「希望」を推したいと思います。

トルマリンには面白い伝承がございましてね。古代エジプト人は「トルマリンは虹を渡ってこの地にやってきた」と考えていたんですって。そしてトルマリンが虹を渡る間に「赤橙黄緑青藍紫」のあの七色が石に宿って、あんなに多種多様な色合いの石になった…というお話です。いやはやロマンチックですね。しかも妙に説得力がある!ヾ(´▽`)ノ

そんなわけで、トルマリンは「虹を象徴する石」だと思われてきたわけなんですが、虹そのものに関しましては、どの時代のどの国においても「幸運の前触れ」だと信じられてきたようです。しかしここで思い出して頂きたいのが、「虹は雨の後にできる」という事実。

ずっと晴れの日だけが続くのなら、虹は空に浮かびません。虹の橋が空に掛かるのは必ず雨の後なのです。
ハワイのことわざに「No Rain, No Rainbow.(雨が降らねば虹はできない)」というものがあるのですが、それは「辛いことの後にはきっと良いことがある」「悪いことが起きた後にはきっと良いことが起きる」という意味なんです。
あたしはこの未来に対するポジティブな希望を、虹色を宿した宝石の言葉として採用したいと思います。

おっと、結構話しこんじゃいましたね。なんといってもトルマリンは大好きな石ですから!

では、トルマリンのお話はここらへんでおしまいにいたしましょう。それではまた!


1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら

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  1. サキクフィール

    紫乃女様、初めまして。
    いつも楽しくこちらのコラムと、サイトとツイッターも拝読させて頂いています。
    他とは違うご自身の経験を持って裏付けされた解説や中身の濃さが面白く、何回も読み返しては勉強させて頂いています(ツイッターアカウントを持っていないのでコメント出来なかったのですが、タロットも目から鱗の解説でした。イラストの独自の世界観も相まって、女教皇と死神もプラスして出版してほしいと思いました)。

    紫乃女様のコラム、今回のコラムでもそうですけど読後に希望や元気が湧いてくるところや、英語の諺や石以外の小話も知ることが出来たりするところ等々が大好きで、更新を楽しみにしているファンの1人です。
    トルマリンと言えば健康の石のイメージでしたが、多色でキラキラと輝きながら熱を与えられれば電気を発生する彼らには「希望の虹」のイメージがよく似合う!と今回のコラムで全く印象が変わりました。
    タイトル画像のトルマリン、石自体の綺麗さと人のカット技術の素晴らしさが合わさって、本当に「宝石」と言う名前に相応しい美しさですね。
    カットすることによって赤と緑だけでなく虹の全ての色を内包していそうで、人が手を入れる事で才能が更に開花する=素直に人の意見を受け入れてみる事の大切さを教えられているようです。

    ツイッターでリクエストがあれば…とおっしゃられていたので、文章を書くのが苦手でいつもコメントは控えていたのですが勇気を出してコメントを残すことにしました。
    *トルマリンと違って色は1色でも共生や形のバリエーションは豊富、もちろん単体でもパワフルな黒水晶
    *多色さでは良い勝負、効果も様々、宝石としても活躍しているアゲート達
    *名前の多さが悪い方に誤解されがち…でも個性豊かで個人的に大好きなサーペンティン
    …のいずれか1つでも取り上げて頂けたらとても嬉しいです。
    もちろん、採用して頂けなくても今後の更新を楽しみにしています!
    これからのご活躍を応援していますo(^-^)o
    (長文コメント、読みづらくてごめんなさい。読んで頂きありがとうございます。)

    • 紫乃女

      読んで下さってどうもありがとうございます。
       
      水晶はまとめるとエライ文字数になりかねませんので、シトリンやアメジストのように、色ごとに書いていこうかと思っております。黒は照射処理物が溢れているので(しかも天然の放射線か人の手によるものかの判別が最近ではほぼ無理)エンハンスメントについて書きづらいという難点はありますね。
       
      アゲートもまとめるとえらい文字数になりそうだ。
      しかし、水晶とアゲートは「書いて欲しい」というリクエストを他からも頂いているので、なんとかならないか考えてみます。前後編とかならいけるかも?

      サーペンティンはあたしも好きな石なのでトライしてみますね!
      リクエストありがとうございました。

  2. mona

    紫乃女様、こんにちわ!

    Twitter、銀30枚、薔薇のシッポ、こちらと拝見させて頂いてます^ ^
    紫乃女様を崇拝している者です。
    自分自身石が大好きで紫乃女様のご紹介されてるレシピなど組み合わせて身につけております。

    とても珍しい石なのですが、ペタライトという石の説明が見てみたいです。どこも効果としてはあまり出ていなく気になりました。よろしくお願いします。

    • 紫乃女紫乃女

      ああ、「カストライト」って呼ばれていた石ですね。
      これはまたレアなものを(´・_・`)
       
      その片割れの「ポルサイト」でしたら、テストは終わってるんですけど、ペタライトは割れやすさもあり効用とかは試したことがないんですよねぇ。
      ありきたりなことでよろしければ書けますよー。構いません?

  3. 慶乃

    いつも、お世話になっております。
    こちらでのコラムも、楽しく拝見させていただいております!

    石のコラムリクエストを募集してくださってるとのことでしたので、よければこちらの石を取り上げていただけたら助かります(>_<)

    ・ピーターザイト
    ・レピドライト(可能なら、ピンクトルマリンとの混合状態のものも)
    ・カンババジャスパー

    • 紫乃女

      レピドライトは参考写真が少ないうえに説明が超専門的になるかもしれませんよ。
      ポリリチオナイト、レピドライト、トリリチオナイトの3つに関して述べないわけにはいかんでしょうし。
      ピーターサイトはまぁ角閃石が混じりこんだカルセドニーだからなんとかなるかもしれませんね。