
変色効果で根強い人気の「アレキサンドライト」。人工物も推奨したい理由とは?
[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]
誰でもわかるレベルで変色してこそ「アレキサンドライト」
今回は「アレキサンドライト」という、あまり有名ではないものの根強いファンが多い石のお話をいたしましょう。
アレキサンドライトとは「クリソベリル(金緑石:きんりょくせき)」という石の変種。クリソベリルの中で「変色効果(異なる光源下で違う色を示すこと)」を持つものを「アレキサンドライト」と呼びます。モース硬度は8.5。かなり硬い石ですね。
変色効果についてもう少し詳しくご説明いたしましょう。まずはこれらの画像をご覧下さい。


このように、ひとつの石が異なる光源(日光・蛍光灯・白熱灯など)の下で違う色に変化することを「変色効果」と呼びます。この画像の例だと、日光や蛍光灯の下では緑色に、白熱灯や蝋燭(ろうそく)の明かりの下では赤色に色が変わります。
上記のように、「一粒で二度おいしい」カラーチェンジを誇るのがアレキサンドライト。変色効果のことを「アレキサンドライト効果」と呼ぶほどで、アレキサンドライトは色が変わることがウリの石なのです。
逆に言うなら、変色効果の無い(光源を変えても色が変わらない)クリソベリルは「アレキサンドライト」と呼ぶべきではありません。最近は薄黄緑色から薄黄色程度に色が変化するクリソベリルを「アレキサンドライト」という名前で売っているのをよく目にしますが、その程度の「目の錯覚レベル」のカラーチェンジでは「アレキサンドライト」と呼ぶにはちょっと無理があるでしょう。
アレキサンドライトのあの変色効果は、クリソベリルに微量のクロム(Cr)や鉄(Fe)などが含まれることにより起こります。クリソベリルに紛れ込んだほんのわずかな「不純物」が、あの劇的なカラーチェンジを招くのです。
1500万円でも買えない最高級品も存在する
ただまぁ、お察しの方も多いと思いますが、「クリソベリルに、たまたま微量のクロムが紛れ込む」なぁんていう「都合のよい偶然」はなかなか起こりません。
そもそもアレキサンドライトが採れる鉱山は限られておりますし、その産出量も少なめですので、大きなカラットで美しいカラーチェンジを起こすアレキサンドライトはとてもレアです。
そしてそういうレアな石は、とってもお高いお値段で取引されるのが世の常なんです。一例を挙げましょう。薄い青緑色から濃いピンク色へと鮮やかに変色する11ct(カラット)のアレキサンドライトのお値段は、約1750万円。
うひょー!ヾ(´▽`)ノ
大手ガラスメーカーの長年の研究を汚す不届き者たち
…毎度恒例のお話で申し訳ないんですが、人気のある天然石の産出量が少ないせいで流通価格が跳ね上がる場合、その石のニセモノを作って安価に売りさばこうとする業者さんが激増しちゃうんですよ。
いやはや、これも世の常ってやつですな(´・_・`)
一例を挙げます。「ザンドライト(Zandrite)」という石(?)がございましてね。この石(?)は蛍光灯の下では美しい青緑色に、白熱灯の下では明るい紫色に変化するんですが、こいつが「アレキサンドライト」の名称で売られていることがあるのです。
でも、実はこれ、ただのガラスなんですよ。モース硬度も5程度しかありません。ガラスですのですぐ欠けますしね!
でも立派なルースケースにきれいにセットされ、異なる光源の下で劇的なカラーチェンジを見せるこのガラスを「アレキサンドライトだ」と言って勧められたら、アレキサンドライトを見慣れていない素人さんだとすぐには見破れないでしょう。お値段も安価ですし(ガラスだしね!)うっかり購入してしまうかもしれません。
※ザンドライトの名誉のために申し上げますが、あれは大手ガラスメーカーが長年の研究の末に、ガラス樹脂にネオジム(Nd)、ランタン(La)、セリウム(Ce)などの希土類元素(きどるいげんそ:レアアースのこと)を組み合わせて開発した人工ガラスです。ネオジムが含まれているので磁気もあり、そういう点でもアレキサンドライトと簡単に区別はつきます。このガラスをアレキサンドライトだと偽って売る業者が悪いのであって、ザンドライトには何の罪もありません。実に美しいガラスですよ!
「本物はとてもお高いし、ガラスは出回っているしどうしたらいいの??」というお声がここまで聞こえてきそうですが…、まぁ落ち着いて! 毎回同じ注意を申し上げるのはこちらとしても気が引けますが、大事なことですのでこの連載でも声を大にしてお伝えしたいと思います。
購入前には必ず鑑別書を確認して下さい。自分の「石を見る目」に自信が無いなら、「鑑別書を見る目」を養えばいいだけ。見慣れてくると「偽造鑑別書」も見破れるようになりますよヾ(´▽`)ノ
合成がすべて悪だと決めつけてはいけない
さて、ここらへんでちょっといつもの記事とは違う趣のお話をしたいと思います。普段は「合成石には手を出さないように」と注意を促すのがあたしのやり方ですが、今回はあえてアレキサンドライトの合成石をご紹介いたしましょう。
アレキサンドライトは、1842年にフィンランドの鉱物学者ノルデンスキョルド氏によって発見されました(異説あり)。発見された日がロシア皇帝アレクサンドル2世のお誕生日だったこともあり、彼に敬意を表して「アレクサンドルの石」という名を授かりました。
つまり有名産地はロシアです。ロシアのウラル山脈から出るアレキサンドライトは、太陽光の下では緑色に、白熱灯の下では赤色に変化します。もちろんブラジルやインド、マダガスカルやタンザニアなどでも出ることは出ますが、やはりカラーチェンジの美しい品となるとロシア産になりますね。
(現実的な話をするなら、現在入手可能なアレキサンドライトの中でトップクォリティなのはブラジル産でしょうね。ただ、ロシア産もブラジル産も鉱脈が枯渇しかけていますので、そのうち出回らなくなるでしょう。)
この記事を書いている時点で、ロシアはウクライナと泥沼の戦争中です。経済制裁のせいもあり、アレキサンドライトに限らず、ロシア産の宝石はなかなか市場に出回りません。こんな状況でロシア産の美しいアレキサンドライトを買い求めるには無理があります。
それにたとえ出物があったとしても、アレキサンドライトは希少な石なので、美しければ美しいほどお値段は桁違いに跳ね上がります。そんな石、戦争中じゃなくったって、庶民の手には届きませんよ。夢のまた夢です。
しかし、だからと言って諦めるには、アレキサンドライトは美しすぎるから無理。そうお思いにはなりませんか?

京セラ製の本物に極めて近い合成品があります
じゃあどうするか。天然アレキサンドライトだと信じて人工ガラスを掴まされるから腹が立つのであって、最初から合成(Lab-Created)アレキサンドライトだと分かっていれば問題は無いはずです。
「でも合成品って品質が心配だわ!」というお声がここまで聞こえてきそうですが、ご安心ください。日本が誇る素晴らしい合成アレキサンドライトがございます。
その名も「CRESCENT VERT(クレサンベール)アレキサンドライト」。京セラ株式会社さんの製品です。京セラさんが作る合成アレキサンドライトは化学組成(その石がどういう元素で出来上がっているかを示した式)もX線解析も分光解析もモース硬度も融点も全部、天然アレキサンドライトと同一。比重と屈折率がほんのわずか違うだけで、それ以外はロシアのウラル山脈産の最高級アレキサンドライトと同じ品質と言い切っていい品なんですよ! 人工品だからクラッキング(ひび割れ)も無ければ不純物も無い! そして見事なカラーチェンジ…。うひょー!ヾ(´▽`)ノ
もちろんお値段は、そこそこいたします。でも、天然モノで同じクォリティの品と比べれば1/10以下の価格。天然モノにこだわってガラスを掴まされるくらいなら、初めから京セラさんのクレサンベールアレキサンドライトをお求めになったほうが、精神衛生上ずっとよいとあたしは思いますね。お財布にも優しいしさ!ヾ(´▽`)ノ
おっといけない。あたしは別に京セラさんの回し者というわけではないので、合成アレキサンドライトの話はこれくらいにいたしましょう。
「合成品でもいい」「変色効果があるなら他でもいい」。そんな発想も大事
あなたが「変色効果があるから」というだけの理由でアレキサンドライトに惹かれているのなら、他にも候補はございます。なにも世界三大希少宝石と呼ばれているアレキサンドライトを、無理して手に入れようとなさる必要はございません。
まず、メジャーなところで「ガーネット」。1月の誕生石ですね。ただ、ガーネットのカラーチェンジはアレキサンドライトほど劇的ではありません。でも光るととっても綺麗ですよ。

前回の「トルマリン」にもカラーチェンジするものがございます。こっちは劇的!

あと、有名ではないですが(というよりかなりマニアックですが)、「ズルタナイト(『ダイアスポア』という石の中で、宝石級の品質の物に冠される名前)」という石もペンライトなどの光でカラーチェンジいたします。


ぶっちゃけ、サファイアにだってカラーチェンジするものはございますし、変色効果だけが狙いなら、アレキサンドライトにこだわる必要はありません。視野を広く持って探してみてください。
他にもきれいな石はたくさんあるんですから!ヾ(´▽`)ノ
そうそう。変色効果のある宝石の石言葉の中には、「二面性」っていうのがよくありますが、気にすることは無いと思います。だって石自身は、常に何も変わりませんから。その石に様々な種類の光が当たることによって、そこから返ってくる光を受け取る側が「この石の色は〇〇色だ」と認識を変えているだけで、石自体は何も変化していないからということ。
あえて言うなら「多様性」でしょう。TPOに合わせて自己を鮮やかに演出し見る人を惹きつけるその性質こそが、変色効果のある宝石の石言葉として最もふさわしいものだとあたしは思いますね!
さて、アレキサンドライトのお話はここらへんでおしまいにいたしましょう。
それではまた!

1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら
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