
超働き者の『黒水晶』。名前はややこしく、黒いけど、明るい方向へ誘う存在
[ 意外に知らない宝石の裏話 ~パワーストーン店20年監修者が教える ]
ネーミングがややこしい…
さて、今回は『黒水晶』のお話をいたしましょう。
黒水晶は日本では「モリオン」とか「モーリオン」って名前で呼ばれることが多いのですが、実はこれ、読み間違いである可能性が高い名前なんです。
「モリオン」の名前の由来は、ラテン語で「不機嫌」とか「堅苦しさ」を表すMorositasの形容詞「Morosus(モーロサス)」であるとか、ギリシャ語でチョウセンアサガオの黒い種を表す「morion」が語源であるとか言われているんですけれど、海外で一番有力な説は、古代ローマのガイウス・プリニウス・セクンドゥスさんが記した『Naturalis Historia(博物誌)』っていう本の中に出て来る「mormorion」という単語を「morion」と読み間違えたのが語源だってやつなんですよ。

この説はMINDAT(世界最大の鉱物データベース)も支持していますし、英国の主流となっている百科事典は軒並みこの説を採用しているので、多分こっちが正解だと思います。
つまりまぁ、「モリオン」って名前は「モルモリオン」の読み間違えがうっかり広まっちゃった名前ってことなんですよねぇ。いやぁどこの世界にもうっかり八兵衛さんはいらっしゃるということですな!ヾ(´▽`)ノ
(※「うっかり八兵衛」さんがどなたかご存知無い方はググって下さい。ちゃんとWikipediaでもまとめられています。)
しかしながら、このコラムのタイトル画像までうっかり八兵衛では困るので、張り切って仕切り直したいと思います!

さて、では改めて『黒水晶』のお話をいたしましょう。
「“モリオン”が読み間違いだっていうなら、黒水晶の正しい英語表現はなんなのよ!?」というお声がここまで聞こえてきそうですが、まぁ落ち着いて!
結論から申し上げますと、「黒水晶」そのものを表す単語はございません。海外では、『黒水晶』は「黒い煙水晶(black smoky quartz)」か「暗い煙水晶(dark smoky quartz)」と呼ばれることが一般的です。
煙水晶(スモーキークォーツ)と黒水晶を明確に区別しているのは日本(と、海外のヒーラーさん・シャーマンさん達)くらいで、鉱物学的にも黒水晶は「煙水晶の色の濃い奴」扱いです。
「紫水晶(アメジスト)」や「紅水晶(ローズクォーツ)」のように、別格の扱いを受けているというわけではないんですよ。



例えばこの画像をご覧下さい。

これ、日本だったら「黒水晶」呼ばわりしてもOKなほど黒い色の水晶ですが、海外の宝石オークションでは、「黒い煙水晶」という表記になっています。

これなんか、日本だったら「黒水晶」の名称がつくこと間違いなしの黒さでしょ? でも「黒い茶水晶(黒なんか茶なんかはっきりせぇや!)」という扱いになっています。つまり海外では、黒水晶はあくまでも「煙水晶」の一部であり、それ自体を表す単語は“鉱物学的には”存在しないってことなんですよ。

人工でも許せるものと、許せないものがある
では、そろそろ黒水晶がなんであんなに黒いかというお話に移りましょうか。

黒水晶っていうか水晶の化学組成(その物質がどういう元素で出来上がっているかを示した式)はSiO2、要するにケイ素原子1個と酸素原子が2個くっついたものなんですが、長い年月の間にそのケイ素の一部がアルミニウムに置き換わってしまう(専門用語で「置換(ちかん)」と言います)ことがあるんです。
で、このアルミニウムに自然の放射線が照射され続けると、まぁなんやかんやあって(説明すると超専門的になるんで端折ります)水晶の色が黒く変化するんですよ。
つまり、黒水晶のあの「黒い色」は、水晶に含まれた微量のアルミニウムに自然の放射線が当たり続けた結果ということになりますね。
カンの良い方はここでお気づきになったと思いますが、自然の放射線で水晶の色が黒くなるなら、人工的に照射処理を施しても黒くなるということです。
もちろん元となる水晶に微量のアルミニウムが含まれていなければなりませんが、天然の水晶にはまず間違いなくアルミニウムは多かれ少なかれ含まれておりますので、そういう石に人工的に照射処理を施して、真っ黒な水晶を作り出すことは今では普通に行われております。
で、それが自然の放射線なのか人工の照射処理なのかを見分けることは、処理直後の品でない限り、まず無理です。
なのでまぁ安価で流通している黒水晶にはほぼ間違いなく人工的な処理が施されているものだと考えておかれたほうが無難でしょう。
でも自然の放射線だろうが人工照射だろうが、水晶が黒くなるプロセスとしては同じことなのでまぁいいんじゃないでしょうか。
なぜここで照射処理に対してこんなに寛大な姿勢を見せているのかと申しますと、人工的であれなんであれ、ちゃんと放射線で色を黒くしているのならまだ許せるからです。
ひどい業者になりますと、色の淡い煙水晶を黒く着色して黒水晶に見せかけることがあるんですよ! 見た目が不自然なので素人さんでも見破れることが多いんですが、安価なのでよく見もせずに飛びついちゃう人も結構いらっしゃるんですよねぇ。
海外の業者から極端に安価な黒水晶を勧められた時は「これ着色ちゃうんかいな」と疑ってかかって損はないと思いますよ(´・_・`)b
おっと、堅苦しい話が続きましたね。
ここらへんで黒水晶の伝承でもお話しておきましょうか。
黒水晶の正体はスーパーキャリアウーマン
黒水晶はなんといっても黒いので、昔の人々はこの石を夜の女神や冥府の女神と結びつけて考えました。
代表例がギリシャのヘカテー女神です。彼女は「魔術師の保護者」「霊の先導者」という異名を持つ『夜と冥府の女神』なのですが、彼女と精神的に繋がりその加護を得たい者達は、黒水晶を彼女の石としてお守りにしたそうですよ。
今でもその伝承は生きていて、黒水晶は魔術を志す人間には人気のある石となっています。

「なんだかおっかない女神様だこと!」というお声がここまで聞こえてきそうですが、ちょっと待って下さい。ヘカテーは旅人の守り神でもあるんですよ!
ほら、日本でも「四つ辻には人あらざる者が訪れる」って怪談がありますでしょ? 四つ辻(十字路)でいらんことしていると神隠し(行方不明や前触れも無く失踪すること)に遭うとかね。
古代ギリシャの場合、それが「三つ辻」、つまり「三叉路(さんさろ)」なんですよ。三叉路のような「交差点」には、神々や精霊など「人あらざる者」が訪れるっていう言い伝えがあるんです。
で、そういう場所を夜に通る羽目になったら、誰しも怖いじゃないですか。なので、古代ギリシャの方々はそういう三叉路にヘカテーの像を建てたんです。どうか安全に旅ができますように、どうか安全に家路につけますようにってね。
そんなわけで女神ヘカテーの石『黒水晶』は、「魔除け」や「不運や災いから身を守るお守り」として現代でも愛されているのです。
そうそう、ヘカテーは夜や冥府だけでなく、「豊穣(ほうじょう:五穀が豊かに実ること)」や「出産」、「浄め(きよめ)」と「贖罪(しょくざい:罪をつぐなうこと)」を司る女神でもあるのですよ。彼女、めっちゃ担当範囲の広い女神様なんです。お仕事大変そうですよねぇ(´・_・`)
そんな彼女の担当範囲のお仕事内容を詳しく見てみますと、「出産」と「死(冥府)」、「暗闇」と「月(松明)」のように、相反する内容のものがいくつかあるのが分かります。人を惑わす「幽霊」の担当かと思えば、そういう「人あらざる者」に道行く者が惑わされることのないよう旅人を守ったりとかね。
そもそもヘカテーは「助産婦の守り神」とも言われていたこともあるので、一概に「恐ろしい死の女神」というわけでは決してないんですよ。
神々に祈る際には、最初にヘカテーに祈りを捧げておくとご利益が増すと言われて大人気だったこともあるほどです。
いやぁホントにお仕事多くて大変そうだなぁ(´・_・`)
「ネガポジ変換」こそ黒水晶の真骨頂
そんなわけで、「相反する2つのもの」を担当することの多い女神ヘカテーの石である『黒水晶』は、単なる「魔除け」や「不運や災いから身を守るお守り」だけではないと、あたしは思うんです。
具体的に言うなら、「エネルギーの方向性を反転すること」に役立つのではないかと考えています。
要するに、不平不満や愚痴などという鬱積(うっせき:不満が晴らされずにどんどん溜まること)した負の感情を、「エネルギーのベクトルを反転して」解放することに役立つのではないか、ネガティブな感情をポジティブなものに変換することに使えるんじゃないか…ってことです。
負の感情なんかいくら溜め込んだって呪詛(じゅそ:呪うこと)くらいにしか役に立ちませんから、そんなものはパーッと上手に発散しちゃったほうがいいでしょう?
ビーズも比較的安価で流通していますので、普段ストレスを腹の中に溜めまくって上手に発散できずに困っていらっしゃる方々は、ぜひ黒水晶をお試し下さい。
鬱々と生きてもパーッと生きても同じ人生なら、後者のほうがずっと楽しいじゃないですか!ヾ(´▽`)ノ

さて。『黒水晶』のお話はこれくらいにいたしましょうか。
それではまた!

1980年代より占術、呪術に興味をもち、独学にて勉強を始める。その後、3人の有名・無名な師匠につき、占術・呪術、およびそれに附随する基礎知識、語学、歴史学、民族学、脳科学などを広く学ぶ。紫乃女さんの紹介ページは→こちら
こんにちは!いつも楽しく拝見しています。
リクエスト募集と伺ったのですが、アマゾナイトのコラムを見てみたいです!
アマゾナイトね!
長石グループなのでちょっとドキドキしますが承りました!
こんばんは、いつも楽しく勉強になるコラムをありがとうございます!
お暇があればで構いませんので、ネフライトについてご教示頂けませんでしょうか。
硬玉の方は紫乃女様のサイトで拝見したのですが、軟玉はあまり需要が無いのかな…?
ニュージーランドのグリーンストーンや中国の玉等も軟玉だと聞いたので、気になっています。
お手数でなければよろしくお願いします!
ネフライトは市場での取引価格は翡翠を下回りますが、あたくしの「職業」的には翡翠より使い道の多い鉱物だと思います。
鉱物としての(化学組成としての)説明が少々ややこしくなるのが玉に瑕なんですが、それでもよろしければトライしてみますね!
紫乃女さんこんにちはー!
最近お気に入りで良く身に付けているアイドクレース(ベスビアナイト)のコラムをお願いします!
ベスビアナイトという鉱物名を併記なさっているのはとてもPOINTが高いと思いますよ!
ちなみに「アイドクレース」は1796年、「ベスビアナイト」は1795年につけられた名前ですので、1年差なんですけどね。
ただ、そうなるとCyprine (of Berzelius)にも多少は触れないといけなくなるからちょっと内容が小難しくなってしまうかも…
ま、出来るだけ簡単にはしますが(´・_・`)
素敵なコラムをありがとうございます、いつも楽しく読ませて頂いております。
リクエスト募集とのことで、黒繋がりで黒珊瑚や黒玉(ジェット)のコラムをお願いできますでしょうか?
あら、細十の旦那じゃないですか、いらっしゃい。
そういえばあなたは黒い石がお好きでしたよねぇ。シャーマンストーンとか。違いましたっけ?
ここだけのお話ですが、黒珊瑚は今後流通量が減りますよ。海洋酸化と気候変動の影響モロに受けてるみたいなんです。
入手ご希望なら急がれたほうがいいかも(´・_・`)b
こんにちは!いつも楽しく拝見&勉強させていただいております。
リクエスト募集とのことで、紫乃女様からみたティファニーストーンのことが知りたいです!
もしよければよろしく願いいたします。
ああ、あの宝飾メーカーのティファニーさんが名前の由来だと誤解されている石ですね。
あれ、Tiffany Harrisさんが由来なんだそうですよ。
オパライズドフローライトに他の石が混ざった状態のものなので、「オパライズド(オパール化)」とはどういうことかを解説するコラムを書くことがあったら登場させたいと思います。
ほら、アンモナイトとかオパライズドすると綺麗じゃないですか!
紫乃女さん
こちらのコラム
いつも楽しく拝見させていただいております。
リクエストは
アイオライト
モルガナイト
ロードナイト
です。
ご面倒でなければよろしくお願いいたします。
はいこんにちは。
アイオライトはコーディエライトっていう鉱物の宝石品質で青紫色をしているものに対して適用される名前ですね。
モルガナイトはベリル(緑柱石)の中で暖色系のものの名前です。硬度が結構あるので使いやすいですよね!
ロードナイトは化学組成の説明がちょっと入り組んでて、しかもロードナイト呼ばわりされているけど実は違うよって石もあるのでちょっと説明が面倒かもしれません。
一番無難なのはアイオライトでしょうか。知名度高いし!
黒水晶のリクエストをした者です。
リクエストに答えて下さって、本当に有難うございました!
御礼が遅くなって本当に申し訳ありませんでした。
ネット環境のない辺境の地に出向しなければならず、しばらくネットを見られない日が続いていたのですが
帰ってきてこちらにアクセスして、リクエストに答えて頂いた記事が掲載されているのを見てどんなに嬉しかった事か…一気に疲れが吹っ飛んで、元気になった気持ちです。
黒水晶について厳格に区別するのが日本くらいだというのは初めて知ったので目から鱗でした。
いつもお守りに持っている黒水晶の小さなクラスターがパッと見は黒いのですが光に透かすとぼんやりと茶灰色に透けるので、ずっとこれは黒水晶なのか茶水晶なのかと疑惑の目で見てしまっていたんです。
紫乃女さんのコラムを読んで、自信をもってお守りとしてこの黒水晶を持てるようになりましたし、日本の中の狭い視野に囚われていた事にも気づけました。
ネガティブな気持ちがポジティブな方面に転換できたこと、黒水晶らしいオチになってしまいましたが、紫乃女さんのおかげだと感謝してやみません。
これからのコラムも楽しみにしています。リクエストに答えて下さって本当にありがとうございました!